ネタ | ナノ



どうも もすです

※改造ポケモンのキャラ


「どうも もすです」


自宅の看板に上書きされた文字を見て、思わず頭を抱えた。

落書きされた。
その事実だけを見るなら、腹を立てるのが普通だろう。私だって当然怒る。犯人を見つけるためにサーナイトの力を借りようと思うくらいには怒る。でも、今回は怒る気にはなれなかった。理由は落書きの「文字」だ。「もす」という人が書いたのかは分からないけど、とりあえず自己紹介が書かれたのは確かだ。拍子抜けしたというかなんというか。呆れたと言った方が適切かもしれない。とにもかくにも私は脱力した。それはもう思いっきり。
さっさと消して今日見た落書きのことは忘れよう。そうしよう。


「おやおや、これはビックリ玉手箱!」
「うわっ!?」


突然後ろから聞こえてきた声に驚いて振り返った。そこには、シルクハットを被ったジェントルマン(なのかどうかは不明)が目を真ん丸と広げて私を見ていた。見慣れない人だ。別の町から来たのかな?

「その看板は貴女のだったんですね!もすぎすさんうっかりしてました!ついうっかりうっかり、かりんとうはお好きですか?」
「え、ええと嫌いではない、です」
「そうですか」

にっこりと笑う顔は綺麗に整っていて、見とれるべきなんだろうけど、そうは出来ない。喋っている言葉が奇怪すぎて、正直此処から逃げ出したいくらいだ。すぐ後ろには我が家の扉があるのだから今すぐにでも飛び込みたい。でも、最初の話から察するに落書きしたのはこの人のようだ。それなら流石にこのまま放っとくわけにはいかない。

「…貴方がこれを書いたんですか?」
「そのとーり!花丸満点ベリーマッチ!」
「えーと……もすさん、人ん家の看板に落書きをするのは」

やめてください、と続けようとした口に、手袋に覆われた人差し指が押し付けられた。離れたかと思えば、今度は目の前で左右に揺れた。何だ?

「のんのんのん、違います」
「は?」
「私はもすぎすです」
「え?でも看板には」
「そうです、どうももすです、モスギスです。覚えてください」
「は、はぁ……」

期待した目で私を見てくるのだから、仕方なくその名前を復唱した。

「モスギス、さん」
「良くできました!モスギスさんハッピーです!」

大袈裟にぴょんぴょんと跳ねて喜ばれた。もう苦笑いしか出来ない。本当に何なんだこの人は。

「では、今度会った時テストをしますから忘れないように」


そう言って、モスギスさんはやっと背中を向けて何処かへと去っていった。無意識に大きなため息をこぼす。まるで嵐のような人だったなぁ。

あ、落書きのこと注意するの忘れてた。

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