∴ 三虎少年に一回だけご飯をあげた ※死ネタと細かい描写はないけどカニバ(一文)注意 「君、大丈夫?」 家に帰ろうとしていたところ、町外れの森の中にちらりと人影が見えた。さっさと帰ればよかったのに、ちょっとした好奇心から森の中へと入った。そこで見つけたのは、木にもたれかかっている痩せ細った少年だった。見た通りお腹が空いているのだろう。目の前にいる私の問いに答えようとしない。そもそも何の反応も示さないから、意識があるのかすらもいまいち分からない。試しに鞄の中からパンを取り出し、目の前にやってみた。瞬間、パンは私の手の中から消え失せ、代わりに少年の口の中へと収まっていた。おいおい、意識あるんじゃないか。パンだけでは喉を詰まらすのではと思い、水筒も差し出せば直ぐさま奪い取って中身を飲み干していた。 「……大丈夫?」 「……すまない」 今度は返事をしてくれた。子供らしかぬ言葉使いに思わず吹き出しそうになった。なんて変わった子なんだろう。 「まだあるけど、食べる?」 少年は直ぐに頷いた。 鞄の中にあったのは今日の昼食だけだったから、あっという間に平らげられてしまった。子供らしかぬ食いっぷりに思わず惚れ惚れした。 突然、がさ、と草が踏み潰される音が背後からした。 反射的に後ろを見て、後悔した。 「――――、」 そのにいたのは、黒い毛並みの大柄な熊だった。 悲鳴なんて出なかった。ヒューヒューと空気が漏れるだけ。体は震えることすら出来ず、ただ固まっていた。逃げたいのに体が動かない。ギラギラとした目と視線が合った瞬間、私は自分が死ぬんだと悟った。思考だけがぐるぐると回転する。この状況をどうすればいい、諦めるしかないのか、せめて少年だけでも逃がしてやれないか。 そう考えている内に私は熊に食べられてしまったのだった。 その少年が私を食らった猛獣を食らい、更には腹から引きずり出した私の肉塊にまで手をつけたことを。そして私の骨を少年がもたれかかっていた木の根元に埋めたことを。死んだ私が知るよしもない。 ----------------------- 自分が気に入ってた人を食った猛獣を食らう、ちょっと危ない感じの三虎少年が書きたかったけど無理だった。 ← (top) → |