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▼ 性格悪いぜシュウ師範代

喧嘩っ早い性格のためバイトは全て短期間でクビ。最後のバイト先でクビを言い渡されたときは、ムカついたから店長の頭を叩いたら綺麗な弧を描いてヅラが飛んでいった。ヅラだったのかよ。やっちまったぜ!笑い声だったり奇声だったりで騒がしくなった店からダッシュで逃げ出した。笑いながら走るのはきつかった。そして当然収入がなくなったから仕方なくハントをして自給自足の生活を営むことになった。最初は面倒だったが、慣れてくると意外と面白くて手製の家を作ったりして楽しんで生活していた。そんな生活をして早半年。グルメポリスに捕まった。どうやら其処はIGOの土地だったらしく、私は知らぬ間に不法侵入と密猟の犯罪を犯してしまっていたようだ。知らなかった、ただ生きようとしただけだ、悪意はなかった!そうIGO側に誤解を解こうと熱弁し、何とか理解してもらえた。
なのに、何故。何故だ。



「何で私は此処にいるんだあぁああぁあああっ!!」
「それは貴女が犯罪を犯し、食林寺行きの判決を受けたからでしょう」
「るっさい!」
「煩いのは貴方です」


人間界最大の樹海「ロストフォレスト」。その樹海の中に存在する、食義を学べる寺「食林寺」は、一種の刑務所だという噂をどこかで聞いた事がある。だがしかし、何故私がそんなところにこなくちゃいけないんだ!悪意はなかったとあれだけ説明したのにIGOの奴らめ!
いや。百歩、いいや一億万歩譲ってそれはいいとしよう。知らなかったこととはいえ私が悪いんだから。だがしかし貴様は許さん。植木鉢を背後にいる男に向かって投げつける。だが男は軽々とそれを片手で受け止める。


「チッ」
「八つ当たりは止めてください。あと、寺の物をあれこれ投げたり壊したりしないようにと言っているでしょう、何度注意したら分かるんですか?」
「黙れ男女」
「口のきき方がなっていませんよ」
「…頼むから師範代チェンジしてください!」
「却下です」


すぱん、私の頼みが一刀両断。ムカついてシュウを睨むと「自業自得ではないですか」と呆れたように手を眉間に当てた。


「短期かつ集中力がないために収入源を失い、そんな貴女の性格を更生しないとまた同じ過ちを繰り返しかねないとIGOが判断したのですから。それに悪意抜きでも貴女が与えた損害は大き」
「しつこい!!何度もその話はすんなっつっってんだろ!!」
「貴女こそ、何度も何度も同じ不満ばかり…諦めてください」


その不満の元凶が何偉そうにしてんだこんにゃろう…!
そう、偉そうに私の背後に突っ立っている三つ編み男、食林寺師範代のシュウ。こいつがどうしても許せん。此処に来た初日、何故か周りと外されたかと思えばこいつが「貴女の担当となります、シュウです。どうぞよろしくお願いします」とのたまってきた。その時はまだ良かったが、それからの修行で毎日ぼろっくそにけなしまくってきた。しかもアドバイスを寄越せと言えば「自分で気付くのも修行ですよ」ざけんな!とにもかくにも、私はこいつがめちゃくちゃ嫌いなのである。
いつか絶対見返してやる…と決めてから早一ヶ月。あまり進歩なし。何故だ!


「無心でいいじゃん!何だよ感謝って!全然意味分からん!」
「…はぁ」
「ため息つくな!」
「すみません、つい…」
「意図的だろアンタ」
「貴女が此処から出れるのかが不安です」
「そんなの私のが不安だわ!」


冗談抜きで此処で一生を終えそうだ。ふと、頭を過る予想図。正座をしながらたいまつくしを燃やす婆さんになった私と、それを小馬鹿にするシュウ……うわぁ、流石に嫌だぞそんな未来。だが、そのためにはこのつくしを一時間燃やせるようにならなくては話にならない。無理ゲーすぎる。
視線を背後に移すと、何やら考えてる様子のシュウと目が合った。どうせ私に言う意地の悪い台詞でも考えてるんだろう。あ、腹立ってきた。もう一回投げ付けてやろうかな、こいつ。


「名前さん」
「何ですかー」
「此処から出ますか?」
「…………は?」


何言ってんだ、こいつ。


「出たいなら別に構わないと思いますよ。貴女は別に極悪人というわけでもありませんし、罪も只のうっかりのようですし。次から気を付けると誓うのなら、私が外まで連れて行きますよ」


淡々と、まるで世間話でもするかのように軽い調子でとんでもない提案をするこいつに開いた口が塞がらない。こいつ、私を逃がしてくれるってことか?馬鹿なのこいつ。IGOの連れてきた罪人を、まだ何も結果を出してない奴を外に連れ出すって、いくら師範代でも駄目だろ。いやでも、これはチャンスなのか?この退屈で面倒なこの空間から出ることができるじゃないか。そして今回の事を肝に銘じて気を付けていけば万事OKだ。不法侵入も密猟も望んでやったことじゃないし。うんそうだ、そうしよう。
できるだけ笑顔で、そして心を込めて言ってやる。


「くたばれ三つ編み野郎」


間抜け面でびしりと固まるあいつに、今度は鼻で笑ってやる。ざまあ!


「え?誰が好き好んでおまえに助けてもらうと思ってんの?こっちから願い下げだっつーの。それに今出て行ったら此処での思い出がお前に馬鹿にされまくったことしかないじゃんか!いいか、私はお前を見返してやるまで頼まれたって絶対に出て行かないからな!」
「……く」
「あ?」
「くっ、ふ…はははは!」


え、えええええええー。
何いきなり笑いだしてるのこの人。頭大丈夫?三歩後ろに下がって距離を置く。きめぇ。


「遂に頭いかれたか?」
「失礼な、ただ面白くてつい笑ってしまっただけです」
「面白い?どこがだよ」
「まさか本気にするとは思わなくて」


え。


「つ、つまり……」
「冗談ですよ。犯罪者の脱走の手助けをするわけないでしょう?」
「……」
「いやあ、いい退屈しのぎになりました」


そう言って満面の笑顔で言い放つこいつに、眩暈がした。
つまり、私は遊ばれただけか!


「死ね、今すぐ死ねこの性悪女男!」
「人に死ねと言わないでください」
「くっそ、腹立つぅう〜…」
「名前さん」


相変わらず、どこか人を小馬鹿にしている笑みを浮かべて。


「私を見返せるよう、頑張ってくださいね」
「…言われなくても」


やってやるさ!!





「師範代、あの二人をそのままにしていてもいいのですか?」
「ん、あの二人?」
「シュウと名前ですよ。毎日言い争っているようですから、師範代を変える、いいえ、そもそも彼女を他の囚人達の集団に混ぜればいいのでは?何故彼女は単体で…」
「もし一緒にして、更生しきっておらん囚人に何かしら危害を加えられたらどうする?」
「!」
「犯罪を犯しはしたが、彼女自身は短気で口が悪いだけのただの一般人なんじゃよ。ワシらがいつも見張っているわけでもあるまいし、一緒にするのは少々危ういじゃろ」
「…」
「それに楽しそうだしな、シンもあの子も」
「…え」


どこが?

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