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▼ 安心院なじみはラブレターが欲しい

君に面白い男の話をしてあげよう。そんなのどうでもいい?おいおい、初っ端からそんな冷たいこと言うなよ。これじゃあ話が進まないじゃないか。いやいや、球磨川君のことじゃあないぜ。まったく別の男、何千年も昔の話だ。きっと君も、なんだかんだで興味を持ち始めるだろうさ。ああ、スキルなんて野暮なものは使わないよ。そんなもの使わなくても、君は必ず話を真面目に聞くと予言しよう。



僕がその男に初めて会ったのは、さっきも言ったとおり何千年も昔でね。時代をはっきりさせろ?そんなのどうだっていいだろ。僕が話したいのはその男の行動だけだ。そもそも君、ただ難癖つけたいだけだろ。さて、出会ったのはいいんだけどその男、何故か僕のことが会った時から苦手だったらしくてね。僕を見た第一声が「うげえ…」だったんだ。これは酷いと思わないかい?え、「どこが?」って…ああ、初対面で逃げ出した君にはその男の気持ちがよーく分かるだろうよ。まあそれは置いといて。いきなりそんな反応されちゃあ、いくら僕でも面食らってね。そして、何故か彼の反応がツボにはまったのさ。逃げたら追いたくなるのが人間の性だしね。それからは暇を見つけては彼に会いにいったのさ。言っとくが、元々彼に主人公の気質は見出しちゃいなかった。それどころか彼と何度も会ううちに、こいつは主人公なんかにはなれねーなって結論が出ちゃったのさ。それでも僕は会いに行った。いやー彼の行動の全てが面白くて面白くて。それはきっと、彼だったから面白かったんだと今では思ってるよ。多分。
何度会っても彼の僕に対する態度は変わらなかったよ。毎回毎回僕に見つかるまいと隠れる姿は見飽きなかったなぁー…鬼ごっこがあんなに楽しいものだとは知らなかったよ。まあ、そんな感じで彼と会っていたんだ。二、三年ほど過ぎた頃かな?いつものように彼を探していたんだけどさ、見つけたときには腰を抜かしたね。
…年だから、って?それは女性に言うべき言葉じゃないなあ。ん、苦しいかい?僕だって好きで君の首を絞めてるんじゃないよ。ちゃんと謝りなさい。君はもう高校生だろう?謝罪の仕方くらい知ってるんだから、ほら。…よし、二度はないよ。


そうそう、何で腰を抜かしたのかっていうとね…死んでたのさ。それも縦にバッサリと裂けたお腹から、内蔵という内蔵全てを撒き散らした状態でね。
僕が見つけた時には、辺りには血の匂いが満ちていて、それに釣られた野犬や烏が内蔵を食い漁っていたよ。顔なんてとっくに原型を留めちゃいなかった。




誰に殺されたかって?そのくらいの謎、僕が解いたさ。自殺だったよ。じ、さ、つ♪彼は自ら死んだのさ。どうやって自殺したのかについては…説明する意味はないだろう。それは関係のないことだ。暇なら君が考えるといい。まるで探偵になったようで中々楽しいぜ。
それはさておき、僕は彼の死体を見て少なからずショックを受けた。だって彼といる時間はとても楽しかったからね。もうそんな時間は味わえない。もう鬼ごっこができない。でもそんなショックも、彼の手に握り締められた手紙を見たら吹っ飛んじゃった。「内容は何だったんだ」?あのさ、ただ急かすんじゃなくて、自分で考えてみろよ…ま、いいけど。簡単に言うと遺書のようなラヴレターさ。……おいおい、ジョークじゃなくて本当だぜ。僕はそう受け取ったよ。仕方ないから読んであげようか。誤解されたらたまんないからね。現代風に翻訳はするけど、内容は変わってないから。


「これをお前が読んでいる時には、俺はもう死んでいるだろう。俺は安心院なじみが凄く嫌いだが好きだった。お前から逃げることにもう疲れた。生きてるうちはお前から逃げることもできない。だから死ぬことにする」とまあ、そんな内容だったかな。


いやーびっくりしたよ。だってまさか彼に好かれてるなんてこれっぽっちも思わなかったもん。死んで逃げるほど僕のことが嫌いだってのに、その僕が好きって。矛盾なんてものじゃない。あべこべだ。
僕は嫌いじゃなかったね。むしろ好きだと言っていい。つまり僕と彼は相思相愛だったのさ。周りが風景の中、彼だけは異質な存在に見えていた。ちゃんと人間に見えてたかは正直定かじゃないけど、風景よりはましだろ。
で、その存在が消えちゃって、また僕の視界には風景しかなくなった。楽しみがなくなってしまった。


…おいおい、まさかこんなお涙頂戴の安っぽいドラマで終わると思ったのかい?
冗談じゃない!これで終わったら、僕が彼との鬼ごっこに負けたことになるだろ?僕はこれでも負けず嫌いだからね。死んだからってそれで終わらせてあげないよ。こんなときにこそ、この全知全能の安心院さんだ。

彼を生き返らせてあげたのさ。どっかの女の赤ん坊として、ね。

ただ生き返らせるだけじゃつまらないから、折角だし他の国に移動したよ。そして物心着く頃、彼の前に姿を現した。成長していく過程を見るのも飽きなかったよ。僕を目の前にした反応は何一つ変わらなかった。また楽しい鬼ごっこの再開…と思ったら、また死んだのさ。今度は顔が丸焦げて宙吊りになってたよ。そして右手にはしわくちゃになった遺書。仕方ないからまた生き返らせたけど、まーた死んでさ。全部遺書を持っての、見るに堪えないような自殺。


その次も、そのまた次も……




彼はずっと、遺書を書いては自殺した。



ほら、この手紙の束を見てごらん。これぜーんぶが、彼からの遺書もどきのラヴレターなんだぜ。こんだけ思われてる僕って凄いと思わない?






「……おや、顔色が悪いよ?」


どうやらちゃんと僕の話を聞いていたようだ。興味も持ってくれたようで感心感心。長時間口を動かした甲斐があったってもんだ。


「実はこの話をするのは『名前』、君が初めてでね。で、どうだった?面白かっただろ」
「……これ、意味が分かると怖い話ってやつだろ」
「ああ、最近流行りのやつかい?ん、もう古いのかな……ま、どっちでもいいか」




で。君は一体何に気がついたのかな?
そして出来れば、君の胸ポケットに入れてある「手紙」を僕に渡して欲しいな。





君からのラヴレターを、一回くらい直接手渡しで受け取りたいんだよ。

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