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▼ リョウテイとコリョウの友達

私には二人の友人がいた。

私は昔、両親に捨てられ、生き延びるために裏社会へとやってきた。法律に縛られた表社会で生きていくよりは簡単だと幼いながらに思い込んでいた。甘かった。此処では表社会同様、いやそれより酷いほど、一日を生き延びるのも大変だった。誰も彼もが他人を獲物としか認識していなく、暴力、殺人、強盗、ドラッグ売買などがぐちゃぐちゃに入り乱れていた。人を騙すなんて日常茶飯事。いつ、誰が、突然自分に悪意を向けてくるか分からない。そう警戒するのが「普通」な社会だ。そんな社会に信用できる人間なんていない、はずだった。

私は偶然、二人の人間と知り合い、共に行動するようになった。
最初に仲良くなったのはコリョウだった。同性で年が近く、他の人のような悪意を感じられなかったんだろう、私と彼女は直ぐに打ち解けた。その後、コリョウから話を聞いて相手を確認しに来たのだろう、大柄な男が私の前に現れた。彼はリョウテイと名乗った。コリョウの兄と聞いて、思わず変な声をあげてしまったのは懐かしい思い出だ。顔、体格、肌の色、性格、どれをとっても全く似てなさすぎる。疑ったら、血は繋がってると二人で主張してきたので一応信じることにした。そんな彼らは素晴らしい調理技術を持っていて、私にもその技術を教えてくれた。コリョウと色んな話をしたり遊んだりして、たまにご飯を食べなくてリョウテイに叱られ。そんな裏社会では不釣り合いな日常を過ごしていた。何故だか分からないけど、彼らは他の人のように私を裏切らないと信じていた。実際、彼らは私に他の人間のように悪意を向けてこなかったし、対等に扱ってくれた。彼らは本当に素晴らしい友人「だった」。

過去形なのは、私と彼らの繋がりがなくなったからだ。

それは突然、本当に突然だった。ある日、二人は姿を消した。理由は今でも不明。料理人としてだけでなく、美食屋としても抜群の腕前だったリョウテイがいるのだから人拐いではないだろう。今すぐにでも二人を探し出したくなった。でも私にはそんな力はなく、そんなことをしても無意味だと悟り、諦めた。そもそもそんなことをしても、前のような関係に戻れるとは思えなかった。友人だと思っていた彼らは、何一つ私に告げず、何一つ残さず、目の前からいなくなった。結局のこと、私は彼らにとって他人にすぎなかったんだ



もう会うことはないだろう。そう思ってたのに。




「名前さんっ!」
「…………コリョウ?」
「よかった…!もしかしたら、もう此処にはいないんじゃないかと不安だったんです」


彼らが私の前からいなくなって数年後。私の胸に飛び込んできたのは、記憶しているより少し大きくなって大人びたコリョウ。そしてその後ろには、


「……久しいな、元気にしていたか。名前」


大きなまな板と包丁を携えた、リョウテイがいた。

何で今更、とか何処に行ってたんだ、とか、言いたいことや聞きたいことが山のようにあるのに、どれもこれも喉で詰まってしまって出てこない。私は今、どんな表情をしているんだろうか。


「何も言わずにいなくなってすみません。でも、もう大丈夫なんです。兄さんが美食會への執着を棄て、私達はやっと前進することができます」
「え、び、美食會?何でそんなところに、え?」
「その事について語ると長くなる、後でオレから説明させてもらおう。それよりも、だ」


大きな手に、腕を掴まれた。その場所を眉を寄せながら彼は見ていた。そしてぽつりと「細いな」


「ちゃんと飯は食えと何度も言っていただろう……それとも、何かあったのか?」




その言葉を聞いた途端、視界が歪んだ。



「えっ、名前さん!?大丈夫ですか!?」
「おいどうした名前、まさか本当に何かあったのか!?」


歪んだ視界の中で、二つの人影がゆらゆらと揺れている。どうしたと聞かれても答えることができなくて、私はただ泣いた。小さくしゃくりながら、ぼろぼろと涙を溢して地面を濡らしていく。二人は更に慌てて、ハンカチで涙を拭いてくれたり、頭を撫でたりしてくれる。それがあまりにも優しいものだから、私は更に泣いてしまった。


二人から名前を呼ばれて、心配されて。それだけのことで、私はとてつもなく幸せだと感じる。

ねぇ、私は貴方達にとって他人ではないんだと、自惚れてもいいかな。


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