▼ スタージュンと仮面越しのキスをする
目の前には見慣れた仮面と目のアップ、そして唇にひやりと冷たくて固い感触。意味が分からず目で訴えると、その視線に気付いたのかゆっくりと離され、肩を掴んでいた手が放れる。まだ唇には冷たさと感触が残っていて、思わず指で触れてみる。今のは何だったんだろうか。正面にいるスターを見る。仮面のせいで表情は分からない。
「…今のは、何?」
尋ねてみるも、スターは私を見るだけで答えず、私を見つめている。気まずいけど、視線を外すのもどうかと思い見つめ返す。お互い無言で見つめ合い、なんだか変な沈黙が流れる。本当にこの状況は何なんだろうか。何とかこの空気を変えたくて、色々話題を振ってみるも撃沈。「仕事、無いの?」「…」「そういえば昨日トミーがグリンのストロー隠してさー」「…」「…今日はいい天気だなー」「…」無言。ひたすらスターは無言を貫き通している。何をするでもなく、ただただ私を見ている。その視線は何か私に訴えてるんだろうけど、さっきも言ったように仮面のせいで感情が読めない。さてどうしよう。もしかしてさっきの行為についてなのか?
キスっぽいような行為ではあった。でも「ぽい」であってキスとは言えない。だって仮面にだったしな。…もしかして。
「仮面、外し忘れてた?」
可能性は限りなくゼロに近いけど、とりあえず言ってみる。いや、本っっ当に可能性はゼロに近いけど。スターがそんなうっかりなミスをするとは思えないけど。
スターが少し反応した。そして、今まで沈黙を貫き通していた口はやっと声を発した。
「何がだ」
「え、いやだからさっきの」
「どうして仮面を外し忘れていたと思った?」
「だって、キスする時は普通仮面は付けないでしょ」
「そうか」
そう言うと、スターは仮面を外した。何度か見たことがあるけれど、思わずガン見してしまう。相変わらず美食會とは場違いな、端麗な顔付きだ。
「つまり名前、お前は先程の行為をキスと受け取ったわけだ」
「あっ……いや、それはその」
「そして、その状況下で抵抗も何もせずに受け入れた。つまり嫌ではなかったのだな?」
さっきのように肩を掴まれ、顔が迫ってくる。今度は表情がよく分かる。笑っている。それも、普段からは想像もできないくらい意地悪そうに。
「希望に添えて、今度は直にするとしよう」
はめられた。
そう思いつつも、近付いてくる顔に合わせて目を閉じる私は彼の言うとおり、嫌ではないのだ。