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▼ ビンタされて落ち込むトミーロッド

リクエスト:トミー連載主にビンタされて落ち込むトミー様



ぱし、と乾いた音がやけに大きく聞こえた。 痛みはない。でもショックが大きくて、去っていく背中をただ呆然と見つめることしかできなかった。




「おい」

ぐい、と首根っこを掴まれ、目の前にグリンの顔が視界いっぱいに映る。ギョロギョロとした六つの複眼と目ががっつり合った。うげ、キメェ。それよりあいつだ。後ろを向くと、今度はスターと目が合った。左右を二人に挟まれていると、やっと現状を把握した。意識が飛んでいたようだ。一体ボクはどのくらいの間此処に突っ立っていたんだろう。


「さっきから呼んでも反応しねぇしよ〜。何廊下で黄昏てんだ?」
「…うっさい」
「理由くらいは教えてくれないか?」
「じゃー手ぇ放せよ」


ぶらぶらと空中で揺れる身体が凄くムカつく。体格差を改めて認識させられる。別にボクが小さいわけじゃない、こいつ等が無駄にデカイだけだ。不快を隠さず舌打ちをすると、耳障りな声で笑いながらボクを解放した。今度任務押し付けてやる。そう心に決めながら、さっきの出来事を言った。


「名前に叩かれた」



色々と省略なんてしていない。本当にそれだけだった。

ついさっき、太陽もまだ昇りきっていない朝早く。料理長に呼び出されて仕方なく向かっていると、廊下で名前を見かけた。丁度こっちに向かってきたから、代わりに料理長の所に行かせようと声をかけた。「名前」「……」反応なし。それどころか此方を見向きもせず、あまつさえ通り過ぎようとした。それがムカついたから、肩を掴んだ。そんなに強くはない、ただ歩みを止めるためだけの、簡単に振り払えられるくらいの力で。
なのに、やっとこっちを向いたかと思えば、振り向き様に平手打ちをくらった。

唐突な刺激に頭が真っ白になって、言葉なんて出てこなくて。現状に圧倒されて、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
そして今に至る。訳が分からない。こうして思い出して、叩かれた頬がじくじくと疼き出した。痛みなんてなかったし、痕なんて少しもないはず。なのに落ち着かない。妙な息苦しさを感じる。ああもう不快。
と、一言の説明を聞いたスターが何か考えているような仕草をした。


「気になることがあるんだが、いいか?」
「何?」
「名前は確か二時間前に、私との任務から帰ってきて直ぐに自室へと向かったはずだが…」
「…」
「お前どんだけ此処で突っ立ってたんだよ」


そんなのボクだって知らないから触れるな。というか関係ねーだろ、それ。聞いて損した。


「頼むから、何が原因なのか考えてよ」


これじゃあ任務に集中できないじゃん、とため息を一つ。今は藁にもすがりたい気分なんだよ。するとまたスターが考える仕草をした。何、今度はまともなことじゃないと流石にスターでも怒るよ。


「…トミー、おそらくそれは、」
「嫌われたんじゃね〜か、ヒヒ!」



次の瞬間、廊下は虫で埋め尽くされた。








ボクは何も悪くない、はずだ。そらゃ嫌がらせは何度もした。任務押し付けたり蹴ったり殴ったり、でもそれはほぼあいつの自業自得の結果だし、そもそもあいつは嫌がらせに対して無関心といってもいいくらいの態度だった。今更それに不満を持つわけがない。じゃあ何なんだよ。全然分かんない。

なら、本人に直接聞けばいい。

その考えに至って、直ぐに名前の部屋へと向かう。と、偶然にも名前が丁度こっちに向かってきた。この状況が今朝と似ていて、引き返したい衝動に駆られた。でもこのまま聞かずに考えてもらちが明かない。さっさとこの息苦しさから解放されたいし、今度また無視するなら殴ればいい。実力はボクの方が余裕で上だ。腕もいで組伏せてでも納得のいく説明をしてもらわないと。でないと気がす「あ、トミー。丁度よかった」


あいつの方から声をかけてきた。
いつも通りの調子で。


「これ、料理長に捕獲を依頼された食材のリスト。お前が呼び出しに応じなかったから伝達頼まれたんだよね」
「……」
「トミー?どうしたの」


それはこっちの台詞だ!
そう喉まででかかって、止めた。何でいつも通りなの、こいつ。もしかしてあれは夢?いいや、確かに現実だった。立ちながら寝るなんて器用な真似はできない。でも、ならこいつの今の態度は何なんだ。


「…あのさ、今朝」


ボクが声かけたのにお前スルーした上に叩いたろ。そう続くはずの言葉はでてこなくて、代わりに空気の塊が音もなく漏れた。


「あ、あれトミーだったの?」


は?


「いや、意識が朦朧としててさ。誰か分からなかったんだよね」


その言葉を聞いて、あっさりと全てを理解した。

スターとの任務で名前が帰ってきたのは明け方。つまり徹夜したのか。もしかしたら帰ってくる途中で睡眠をとったのかもしれない。でもそんなに長くはない距離だろうから、こいつには寝足りなかったはずだ。そして直ぐに自室で寝ようと向かう。その途中でボクと遭遇。でも名前は寝不足のせいで意識が朦朧、ボクの存在に気付かない。
眠る邪魔をした奴は例え料理長でも反撃するような奴だ。なら、睡眠のために自室に向かう邪魔をしたら?
今朝のような結果になる。むしろ何のダメージのない平手打ちだけで済んでラッキーなんだろうけど。


「あ、私もこれ手伝おうか?」
「死ね」
「え」


お前のせいでボクがどんな思いをしたと思ってんだこのカス。

いつの間にか、息苦しさはなくなっていた。

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