27日目


結果として、私はまたゼブラさんの監視として彼と生活を共にすることになった。またゼブラさんに振り回されるのか…という不安もあったけど、それを打ち消してしまうほどの喜びがあった。何でこんなに嬉しいのか、いまいち分からないけど、とりあえずこれからはちゃんとしていかないと!
そんなに多くはない荷物を全てまとめているとき、その様子を眺めていたトリコさんが少し寂しそうに見えた。多分、また一人で生活することになるからなんだろう。そう思って、余計なお世話だとは思いながらもリンちゃんにその事を報告しておいた。「ありがとうるう!よーし、慰めに行ってくるし!待っててトリコ〜!」と意気込んでいたけど、仕事のほうは大丈夫なのかな……ま、まあリンちゃんはしっかりしてるから大丈夫だよね。私は彼女のことを信じるよ。
驚いたことに、この引っ越しに四天王の皆さんと小松さんがわざわざ手伝いにきてくれた。そんなことしなくていいのに、と思ったけど、どうやら片付けが終わった後、引っ越し祝いと称してちょっとした宴をするつもりらしい。だからサニーさんとココさんも来たんだ。普段はゼブラさんと極力関わろうとしない二人が何で来たのかと思ったら、そういうことだったのか。と納得してたけど、実際は違った。以前私が倒れた理由がゼブラさんのせいだと思っているらしく、ひたすら監視係を辞めるように説得してきた。何とも言えなくて、とりあえず原因はゼブラさんではないとはっきり伝えた。一応同じ四天王なんだから、彼のことを信じてください…。


さっさと片付けを終わらせて、小松さんの料理の手伝いをして。全てが終わったと同時に宴が始まった。サニーさんにリンちゃんはどうしていないんですか?と聞くと、明日休みを取るために今日代わりに働いてるらしい。更に言うなら、宴のこと(トリコさんが来ることと言った方が正しいかもしれない)を言う前に「今日は忙しいの!!分かったらさっさとどっか行って!!」と邪険に扱われたのだと。だから今日帰ったらあいつに散々自慢してやるし!と宣言したサニーさんはどうやらご立腹、というよりは拗ねているようだ。実の妹に邪険に扱われたのだから仕方ないかもしれない。でもそんなことしたら、喧嘩になるんじゃないのかな。


「サニー、そんなこと言ったらリンちゃんと喧嘩になるよ」


それは隣で話を聞いていたココさんも同じ考えだったようで、私が思っていたことをサニーさんに忠告した。


「るせ!つか、んなことよりうるう」
「はい?」
「何でまたゼブラの監視なんてもん引き受けたんだ?」


来た。
出来ることならこれから先、ずっと黙っていたい。誤魔化すことならいくらでもできる。でも、今まで迷惑をかけてきたのに黙っているのはあまりにも身勝手だと思う。現に小松さんに視線をやれば目が合い、こくりと頷いた。ゼブラさんは興味がないようで、あっちへこっちへと手を伸ばしてひたすら料理を口へ運んでいる。そのどうでもよさげな姿が逆に安心してきて、勇気をもらった。



皆さんが私に接してくれたのは、私が単にゼブラさんの代わりの存在なんだと思っていたこと。
自分に劣等感を持ち、ゼブラさんの存在に嫉妬していたこと。
監視の仕事は誰の代わりでもない、自分だけの仕事だから執着したこと。
ハニープリズンで「ゼブラの代わり」と言われたショックで倒れたこと。
全てを話した。
話せば話すほど、如何に自分が馬鹿馬鹿しいことを考えていたんだと実感して恥ずかしくなってきた。後半からは耐えられなくなって手で顔を覆ってしまい、声がくぐもった。それでもちゃんと聞き取れたようだった。


「…卑屈すぎるよ。劣等感を持つべきなのは君じゃなくてゼブラの方だ」
「何て無駄で美しくね悩み!てかゼブラの何処と比べたら劣るんだよ」
「むしろゼブラのが全体的に劣ってるんじゃねーか?」
「あ、あはは…」


今更肯定されるとは思ってなかったけど、こうしてはっきりと聞くことができてほっとする。でもそんな皆でゼブラさんを見下げる言い方をするのはどうなんだろうか。当然のことながら、凄い剣幕で四天王の方々に襲いかかろうとするゼブラさんを小松さんとあれこれ説得して、なんとか止めることができた。不機嫌なオーラを出しているゼブラさんの肩を叩きながら早速仕事したな!とトリコさんに褒められたけど、どう考えても小松さんの「暴れるんだったらご飯作りませんよ!」の言葉が決め手となったとしか思えない。小松さんの料理、本当に好きなんだなぁ。スプーンを手に取り、目の前にあるスープを掬って飲んでみる。うん、やっぱり美味しい。


「…杞憂だったか」
「何か言いましたか、トリコさん?」
「あー、うるうが此処に戻るのがあんまりにも嬉しそうだったからよ」
「?」
「てっきりゼブラのことが好きだからかと思ってたぜ」



好き





え、



「な、ななななっ何言ってるんですかトリコさん!!」
「っテメェチョーシこいてんじゃねーぞゴラァ!!」


思わずスプーンをスープの中に落としてしまったけど、今はそんなこに構ってられない。私はゼブラさんがすっ好きだなんて!いや確かに好きですけどれれ恋愛面なわけではなくてですね…!!いえ別にゼブラさんに異性としての魅力がないわけではない。かっこいいとかそういったことを思ったことは何度もある。けど私はそんな目で見たことは一度もない。それはゼブラさんも同じはすだ。全力でゼブラさんと一緒に否定をして、何とか誤解されることを防ぐことができた。


「……」
「……まぁ、ドンマイ」
「勝ち目ねーな、こりゃ」


なのに、何でトリコさん達は微妙な顔をしているんだろう。