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▼ セドルと目のない子

血を払い、先程抉り取ったばかりの眼球を手に各方向から観察する。綺麗な目だ。透き通った青はまるでサファイアのように美しく、キラキラと光を反射している。回転させる度に色の見え方が変化し、ぴくりと痙攣し此方を見つめる眼球に愛おしさが湧く。が、

「…やっぱ、これも違うな〜」

ぴん、と指で弾き飛ばされた眼球は地面に落ち、元の持ち主の近くへと転がっていった。砂埃と血を全身に付けた眼球には先程までの美しさはなかった。まだ痙攣するそれと虚空の眼は彼を真っ直ぐに見つめているが、彼は最早存在すら忘れている。立ち上がる彼の顔には落胆の色がありありと浮かんでいた。
第六支部に帰還し、自室へと向かう通路を歩く足取りは普段より乱暴だ。すれ違う部下に目もくれず進む。突然出掛けたかと思えば手ぶらで戻ってきた支部長に疑問を持つ下端はいたが、誰も口を開かず静かに道を譲っていく。不機嫌を露わにした彼に話しかける身の程知らずな輩はこの場にはいなかった。そして彼自身にも、燻る不満を部下にぶつけるという考えが浮かぶ余地がなかった。前方に壁しかないことに気が付かない程、思考は全て眼球の事だけを考えている。
GTロボを通じて見るより肉眼で確認した方が眼球の善し悪しが判別しやすいと思いこうして出掛けたというのに、結果は惨敗だ。肩にぶら下げているケースの軽さが結果を物語っている。意気揚々と出掛けたというのに、これでは彼女に示しがつかない。不満は段々と鎮火していき、自室の扉に辿り着く頃には悲壮の灰だけが残っていた。

「ただいま〜…」

返事が返ってこないのは分かっているが、つい口にしてしまう。ベッドに腰を下ろしている彼女が顔を上げる。助走をつけて勢いよくベッドに飛び込むと、ベッドが軋み彼女の体が跳ね上がった。体が落ちる前に宙を彷徨う腕を掴んで抱き寄せる。

「名前ごめんな〜?今日もいい目玉見つからなかった」

困惑する顔に指を這わす。顎から頬、目尻となぞっていき、閉じたままの瞼を持ち上げた。

「お前に似合う目玉って何処にあるんだろーなー?てか、どいつもこいつもイマイチな目玉しかねーっつーの!まだ猛獣の方が可愛くていいもん持ってるってのによ〜」

埋め込まれている黒い義眼を指の腹で撫でると、彼女の肩がぴくりと跳ねる。その反応に少しだけ何かが満たされるが、まだ足りない。この飢餓感を満たしてくれるのは彼女だけだ。彼女が自身の目で自分を見る、それだけで自分は満たされる。だが、彼女に似合う眼球を一年近く探してきたが、未だに見つからない。どれもこれも彼女に相応しくない残念なものばかりだ。

「なーなー、オイラ的には青が似合うと思うんだけど、名前はどんな目玉が欲しい?今度また探しに行くからさ〜」

足をばたつかせながら腕の中にいる彼女に問うても、困ったように笑うだけだ。色を見たことのない彼女に尋ねても意味がないことは分かっていたが、尋ねずにはいられなかった。彼女にしか相談できる相手がいないのだから。

「早くお前の目が見つからねーかな…」

一日中探し回った疲れが体にのし掛かってくる。睡魔に身を委ねおやすみと呟くと、頭を優しく撫でられるのを感じながら眠りにつく。
夢に現れた彼女は、やはり、目が塗り潰されたままだった。
……
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