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▼ トミーロッドは気紛れ

トミーロッドという人間は幼い子供の持つ気紛れを理由に行動することが多々ある。それはそれは楽しそうなのだが、やることは子供のすることとはかけはなれた邪悪なものであるため、巻き込まれる側はたまったもんじゃない。彼の側近である私自身も巻き込まれることがある。任務の時くらいしか会うことのない支部長等よりも被害は断然多く、日々頭を悩ませる毎日だ。だからこそ対処法というか、付き合い方を考えていかなくてはいけない。

「名前〜」

背後から聞こえるご機嫌な声。反比例するように私のテンションは右肩下がりとなるのだが、それを表情に出すことはしない。

「んふふ、相変わらず辛気くさい顔してるネ」
「何ですか、トミーロッド」
「今日のボクはねぇ、とっても機嫌がいいんだ。だから、いつも頑張ってくれてる君にいいものアゲル。手、出して」
「その労いのお言葉だけでも充分有難いですのに、物まで頂くだなんて恐れ多い。そんなことしな」
「さっさと手ぇ出しな」

先程の機嫌の良さは何処へやら。何オクターブか落ちた低音に溜息を飲み込み、大人しく右掌を差し出した。満足そうに頷いた後、握られた拳が私の掌の上へと移動する。そして、ぱっと開かれた手から、乾いた音をたてて何かが落ちてきた。花だった。幾つかの白い花弁が散り、生気を失った花。それが三つほど私の掌へと落とされる。

「…これ、何という名の植物ですか」
「シラネ。帰りに生えてるの見つけたから引き千切ってきた」
「そうですか。まあ、恐らく雑草の類いでしょう」

掌にある植物はどこからどう見ても薬草や食料になりそうでないものだ。花瓶に飾るにはあまりにもちっぽけで、かといって貰った手前捨てるわけにもいかない。これはまた扱いに困る物を貰ってしまった。
ふと、前からの視線に気が付いて顔を上げると、何の感情も感じられない黒目と視線が合った。

「お前、ボクに何か言うことはないの」
「はあ……ありがとうございます?」

その言葉に対して返されたのは大きな舌打ち一つ。「ツマンネー奴」それだけ吐き捨てるように言うと、彼は踵を返してその場を去って行った。いつもより廊下に響く足音に、やってしまったかなと頬を掻いた。
「何故そのような事をしたのか?」。そう問い詰めるどころか考えることすらしなくなったのはつい最近のことである。きっかけは三ヶ月前。トミーロッドが振り向き様私に向かってバタフライワームを吐き出してき、無様に尻餅をついた私を指さして笑った後笑みを無くし「飽きた」と一言残しその場を去って行く後ろ姿を見て思ったのだ。深く考えたら負けだ、と。彼の行動に一々理由を求めてはいけない。所詮退屈しのぎの戯れに過ぎない言動に対して反応したり考えたりしてしまっては疲れてしまう。
彼はそれが不満だったのだろう。どこまでも自分勝手なお方だ。
掌にある花をしみじみと眺める。最早ゴミに近いそれを、何故態々摘み私に渡したのだろうか。次に会ったときに尋ねてみよう。どうせ返事は「只の気紛れ」なんだろうけども。
……
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