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▼ トミーロッドに抱き潰されたい

彼の腕が腰に回され強く引き寄せられる。抵抗はせず、そのまま彼の胸へと飛び込んだ。すぐ目前にある彼の胸は想像以上に固く、低体温も極まって目を瞑っていたら岩と抱き合っていると錯覚してもおかしくない。スタージュンやグリンパーチより小柄な体格と幼い顔のせいで細く見えていたが、トミーロッドの体は彼等に劣らずがっしりとした筋肉がついている。その事を今更思い知った。
視線を上に向ける。以前は綺麗に切りそろえられていた薄桃色の髪は最近伸ばしているのか少し長さが疎らだ。手入れもそこまでしているわけでもなく、触れてみると痛んでいるのが分かった。折角綺麗な髪色なのに勿体ない。そう愚痴っても聞く相手でない事は知っている。だから何も言わない。言っても無意味だと感じた事は言わない性格なのだが、たまに美食會の連中に「お前は言葉足らずだ」と注意されることがある。別に大切な事を抜かして言ってるわけではないのに、どうしてそう言われなくてはいけないのか。そう答えた私に苦い顔をしたのは誰だったか。思い出せない。
彼の真似をして背中に手を回すと、私にはない黒い羽根に触れる。体の輪郭を確認するように背中を撫でると吐息が耳を擽った。

「なぁに、お前にしては珍しい事するじゃん」
「それは自分の姿を見て言ってほしいな」
「あはは、全くだ」

態とらしい笑い声がしたかと思うと、突然背中に回されている腕に力が籠る。息が詰まり視界が一瞬モノクロになった。力は緩まることなく、寧ろじわじわと強まっていく。顔を少し上に向けると、私を見つめる冷ややかな目が其処にはあった。行く当てのない手が宙を暫く彷徨い、彼の背中へしがみ付くように爪を立てる。それに鼻を鳴らし、赤いルージュが塗られた唇が弧を描く。そして馬鹿にしたような声で囁いた。怖くなったか。その問いには答えず震える唇をそこへ重ねた。接吻という可愛らしいものではなく、感情も何もないただ合わせただけの拙く面白くない行為。それなのに、何が楽しいのか彼は愉しそうに目を細めた。その瞳に見え隠れする加虐の色。食われる。脳内を侵食するのは恐怖と、喜び。
願いが叶うのだ。彼の腕の中で圧死するという、下らなくて情けない願い。意識が段々と遠のいていく。直ぐ目の前にあるはずのトミーロッドの顔は殆ど見えず、どんな顔をしているのか気になった。
震える唇で最後の言葉を紡ぐ。

「…す、っきかも、しれ、な、ぃ、」

意識を失う直前に聞こえたのは呆れたような、焦ったような声だった。



(「お前はどうしてそう言葉足らずなわけ」)
……
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