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▼ もしもの話

※もしも連載主が死ななかったら
※年取ってる





そろそろお役目御免かもですねぇ。

軽い気持ちで返した言葉は予想よりも弱々しい声で、自嘲が漏れてしまった。
エルグ様のお顔は相変わらず包帯で巻かれているが、その包帯の下で確かに表情が変わるのがわかる。もっとも、そこにどんな感情が隠れているのかまでは予想できないけれど。美食會の研究員として、己の欲と美食會貢献のために彼の事を調べてきたものの、知っているのはその体の不死身とも呼べる驚異的な再生力くらいだ。


「貴様にしては、随分となさけない言葉だな。#name#」
「私がいつも能天気だと思ったら大間違いですよー、あっはっは」


美食會に来てからずっと夢中で研究を続けてきた。元よりインドア派で外に出ることの少ない私は、外に出るのも大変なこの環境で更に研究室にこもりっきりで時間の感覚がマヒし、更に年を取らないエルグ様によって余計に狂わせられていた。
ふとビニール手袋を外した自分の手が、思っていたよりもしわがあり、骨や血管が浮き出ていることに気がついたのはつい最近だ。鏡はとても見れないので、手で自分の頬をなぞる。ハリも艶も感じなかった。


「いやー、いつの間にかおばちゃんになっちゃいましたよー。最近は体を動かすのが億劫で大変です」
「元から動かんだろう、引き籠もり」
「そんなことはございません!最近じゃー中々獣の相手をするのもつか、っだあ!?」


ぱあん、と爽快な音と同時に視界が大きく揺れた。頭を抑えて蹲ると、床にかたん、と音を立ててバインダーが落とされた。それは人を殴る道具ではありませんよ。
拾い上げたバインダーに挟まっている書類の枚数は昔と比べるとだいぶ少なく、内容も大したものではない。

忠誠と実力と利用価値だけが求められる此処で、何か一つでも欠けたら不要と判断されるのはよく分かっている。最近自分へ寄越される仕事が減ってきていたのは、つまりそういうことだろう。代わりは何処にでもいるし、いなければ攫ってくる。
そういう場所だ。

「…#name#。いつまで床に這い蹲っている」
「ねぇエルグ様、本当は知ってらっしゃるんでしょ」
「何をだ」
「私の今後について」
「…」


この沈黙は肯定だ。
分かってしまうと途端に笑えてくる。でも後悔はない。此処に来たことで私は思う存分やりたいことができたし、こうしてエルグ様にお会いすることができた。まあ、長い年月をかけて研究しきてきた彼と同じ不老不死になれなかったことが、残念だったけれど。


「どうせなら、貴方に殺されたいんですけどねー」


それくらいなら、叶えて頂けませんか。
埃で白くなった膝を叩きながら視線を送る。返されたのは短いため息だった。


「断る。貴様のような弱い奴、殺したところですぐに忘れる」
「あはは、でしょうねー」
「大体、貴様の処遇について知っているとして、それが悪いことだと言った覚えはない」
「お、期待を持たせる言い方しますねー。慰めですか?」
「はっ、誰が貴様なんぞ」
「よく言いますね?私が大好きなくせに!このこのー」
「は……鏡を見ろババア」
「な、あっ、まっまだババアじゃないですよ!熟女の一歩手前くらいです!」
「自分でババアだと言っていただろうが」
「きーっ!でもそんなところも好きです!!!」


…私は別に「エルグ様に覚えていて欲しくて殺されたい」だなんて言ったつもりはないんですけどね。




……
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