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▼ 愛を信じないトミーロッド

愛という単語が、見かけるだけでも反吐が出るほど嫌いだ。それがいかに空虚で馬鹿げたものかを理解しているからだ。
別に信じる信じないは勝手だ。それだけならこれほど嫌悪することだってない。ただ、此方が愛を宣う馬鹿を鼻で笑った時の、まるで憐れむかのような視線が気に食わなかった。どれだけ惨たらしく殺しても顔面をぐちゃぐちゃに潰しても、その目だけはどうしても脳裏にこびりついたまま離れない。


どんな感情も暫くすれば薄れるものであるし、もしくはそれ以上の何かが現れて興味関心が移ることだってある。あれほど美味しいと感じていた好物も、グルメ界の食事を取ってから最早ただの生ゴミとしか思えなくなった。何が好物であったのかも忘れてしまうほどだ。
所詮愛なんてのは性欲を正当化させるための言葉に過ぎない。


だからこれは愛ではない。


「名前」


掴んだ彼女の腕に指を滑らせると、びくりと肩を震わせた。


「そこ、怪我してる」
「ああ…すみません、気がつきませんでした」
「どーしたのさ。誰かになにかされた?」
「いえ、まさか。ただの切り傷ですよ」


傷からは僅かに血が滲んでいて、なぞった指に付着した。
ふうん、とわざと疑うような視線を投げかけると、名前は苦笑を漏らす。


「私は貴方のものですから。他の誰かに傷を負わされることなどあるわけがありません」


その言葉に口尻が釣り上がる。

自身にある執着心と支配欲を誤魔化すつもりはない。自分は「これ」を欲している。それはおかしいことじゃない。今までだってそうだった。欲しいものは欲しい。そういうものだ。


「自覚があるようで嬉しいよ」


抱きしめてやると、小さく身じろぎはするものの抵抗らしい抵抗は見せず、更に耳元で名前を呼んでやれば、ゆっくりと両の手が背中に回された。

しかし、これが愛かと言われるとそんなわけがない。
この欲求は今のひと時だけに存在し、どうせいつかは飽きる日が来るのだ。こいつが喋る生ゴミにしか見えなくなる時が、いつか必ず。
その時が来るまで、自分はただ素直に「これ」で遊ぶだけだ。


「愛してます、トミーロッド様」
「…ん、ありがと」


だからこれは愛ではない。
そんな感情、あってたまるものか。

……
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