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▼ ユー樣はお優しい

部屋を見渡すと、そう言えばいつの間にか白くなったな、ということに気がついた。

白くなったというのは、別に誇りが積もったとかそんなんじゃなくて家具の色のことだ。最初は私の好みだった家具を衝動買いしたために、統一感がなく極彩だった我が部屋。黒い机に黄色い椅子、赤いソファー、紫のベッド、緑の壁紙、青い絨毯、紫のライト。覚えているのはそれくらい。それが今や跡形もなく消え去り、全て白一色の物へと変わっている。
何故こうなったのか。それは私の好みが変わったんじゃない。現在目の前の白いソファーに腰を降ろし優雅に紅茶を飲んでいる上司が原因だ。

上司であるユー樣は、10人中10人がイメージカラーは白だと答えるくらい、白のイメージが強いお方だ。王子様のような白装束と白髪だから、そうなってしまうのは当然と言えば当然。何故ユー樣が私の家具の変化に関係あるのかと、ちょっと過去を思い出す必要がある。ある日、酔った勢いで思いっきり壁紙を剥ぎ、自分が寝ていたベッドを真っ二つに折ってしまったのだ。百歩譲って壁紙はいいけど、ベッドは駄目だ。これじゃあソファーで寝るはめになってしまう。そう思って、ユー樣に外出の許可を頂こうと上記の出来事をお伝えしたところ「では、私の使わなくなったベッドと壁紙は如何ですか?」とおっしゃられた。まさかそんなことを言われるとは思ってなくて仰天したが、折角の申し出だから有り難く頂戴することにした。極彩の中で白は少し違和感があったけど、それ自体のデザインや質は本当に素晴らしかった。ベッドなんて飛び乗ったら跳ねたよ、メチャクチャ跳ねたよ!

今ユー樣が腰を下ろしているソファーも、ユー樣直々に持ってきていただいたものだ。元は私が買ってきた赤いソファーが置いてあったんだけど、ある日ユー樣がお尋ねになってソファーに座った途端、背凭れの部分が取れてしまったのだ。朝私が座ったときには平気だったのに、私が使ってる間に壊れるならまだしもユー樣の前で壊れるなんて……今思い出しても、あのソファーには殺意がわく。まあユー樣が全く気にしていなかったのが幸いだった。しかも「私の使ったものでよければあげますよ」と言って態々自室から持ってきてくださったのだ!何とお優しい、流石ユー樣!しかも優しいだけではない。この人はメチャクチャ美人だ。私が座れば安っぽいソファーになるというのに、ユー樣が座ると途端に高貴な物に見えてくる。足を組んで紅茶を飲んでいる姿が、まるで貴族そのものだ。はぁ……女として悔しがるべきなんだろうけど、そんなものする気にもならない。


「…どうかしましたか?」
「へっ!?いいいいえっユー様に見惚れてたわけではないですよっ!?」
「貴女のそういう正直な所、好きですよ」


ふおおおお、ユー樣の微笑……!!輝いているように見えるのは決して見間違いではない。照れを隠すために、指で髪の毛先をくるくらると巻いた。


「……耳」
「え?」
「ピアスなんてしていたのですね」


ああ、そういえばピアスをつけるのは今日が初めてだった。


「この前買ったんです。似合います?」


横髪を耳にかけて、ピアスが見えるように晒す。赤と紫のグラデーションが綺麗な、雫型の硝子が耳元で揺れた。先週出掛けたときに、デザインが凄く好みで一目惚れしたんですと説明すると、よくお似合いですよ、と褒めてくださった。うへへーこれ大切にしよう。
目の前のユー樣を見ていると、髪がかき上げられ、普段は髪の毛に埋もれていて見えない耳が現れた。日焼けもシミも、穴もない、とても綺麗な耳だ。是非ともユー樣にはピアスとまではいかなくてもイヤリングをつけて頂きたいなぁ。こんな綺麗な耳だから、絶対似合う。


「どうかしましたか?」
「いっいえっ!ユー樣の美しさに目を奪われたわけではないです!」
「名前。貴女は本当に素直ですね」






そんな会話をしたのは何時の話だったか。つい三日前の話だったはずだ。なのに。なのに!
両方のピアスに触れる。ささくれ立った金属の感触しかない。何度触っても、感触は何も変わりはしない。
ユー樣と共に、ある食材の情報を手に入れるためにこうして研究所に突撃して暴れたわけだけども、その間にピアスが壊れたのだろう。気付けば耳元で揺れる物がなくて、触れてみれば案の定。何でだよ!私大したダメージ負ってないのに、どうして壊れたんだ!しかも両方!まだ付け始めて一週間も経ってないというのに……。
情報を必要なものだけかき集めてきたユー樣が部屋から出てきた。慌ててピアスから手を離す。が、顔に出ていたようだ。


「顔色が暗いですね。怪我でもしましたか?」
「い、いえそうではないのですが……」


言いにくかったが、ユー樣にいらん心配をかけさせるわけにはいかない。両方の耳を見せて、ピアスが壊れたのだと説明した。
ああ、凄く気に入ってたし、ユー樣に似合っていると褒められたのに……何でこんなショボい任務でこうもあっさりと壊れるんだ。



「また買いにいこうかなー…」
「……私の物でよければ譲りましょうか?」
「え?」
「ピアス。まあ、私の趣味で選んだ物なので名前は気に入らないかもしれませんが」
「いえいえ、滅相もない!」


ユー様のセンスが私の好みからずれるなんてこと、絶対にあるわけない!今まで貰ってきた家具だって、買い直す気にもならないくらい素敵な物ばかりだったし!それにきっと丈夫だろうから安心安心。どんなピアスなのかな、ユー樣がお付けになるということは、やっぱり高級感溢れる素敵な、




……あれ。ユー様ピアス付けてたっけ?
……
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