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▼ 素直じゃない大竹

美食會には、女は数えられる程しかいない。幹部以上となると片手で数えられるくらいだ。私の目の前にいる名前はその内の一人で、ジョージョーの補佐として素晴らしい手腕を発揮してくれている。一時は女だということで切り捨てられそうになったが、今では有能な部下だ。
偶然本部の廊下で遭遇し、嬉々として声をかけてきた。前回使用した新型GTロボの操作はどうだったのか聞きたいようだ。操作機能だけでなく、新しく追加された擬態機能も中々使い勝手はよかったが、やはり全力は出せないと感想を伝えた。「スタージュン様の能力を存分に発揮できるロボなんて不可能ですよ」口角を上げてそう言った。丁度いい機会だ。私も彼女に聞きたいことがある。


「話は変わるが、お前は最近、大竹によく構っているようだな」


笑みが失せ、顔色が青や赤へと忙しなく変わり始めた。

互いの利害の一致から、最近攫ってきた料理人と「コンビ」を組むことになった男。その男、大竹は最近気が滅入っているようだった。暫くすれば解決するかと思い放置していたが、日に日に表情は険しくなっていき舌打ちの数が増えた。その態度が気に食わんと喧嘩を売る奴まで現れる始末だ。大竹は料理人だ。取り扱う食材には当然デリゲートなものも含まれている。このままでは任務に支障が出る可能性がある。早急に解決しなくてはと思い、尋ねてみたところ「…喧しい女がいるんだよ」と苛立たしげに漏らした。本部で会う度しつこく絡んでくる女がいて、何度も文句を言っても聞き入れようとしない。毎回無駄なやり取りをさせられてストレスが溜まり、いい加減あしらうのが億劫になってきたらしい。少数である女の内、本部にいるのは一人しかいない。そう思い名前に聞いたところ、心当たりがあるようだ。


「だ、誰からそれをっ…?」
「本人からだ。ストレスになっているようでな、悪いがそういった行為は止めてもらえないか。料理の腕に影響する可能性がある」
「う……うぅ」
「別に好意を持てと言っているわけではない。奴の神経を逆撫でるような態度をしないよう、」
「ちょ、ちょっと待ってください!」


大人しく聞いていたかと思えば、突然私の話を制止した。


「誤解です、スタージュン様は誤解をしています!」
「何をだ?」
「わ、私大竹さんを嫌ってなんかいません!」



話によると、こういうことだ。
大竹が丁度美食會の一員となった頃、偶然顔を合せたのが最初の出会いらしい。その時から大竹のことが気になり始め、以降会う度に声をかけて距離を縮めようとしていた。だが大竹には鬱陶しいことこの上ないようで、会う度冷たくあしらわれている。迷惑に思われていることは知っているが、引くに引けないからやめなかった。そう説明された。私の想像とは真逆だった。つまり、名前は大竹に悪意ではなく、好意を抱いている。だが相手にされていないどころかストレスの原因となっていると分かっているのなら、さっさと諦めればいい話だ。いまいちその気持ちは理解できないが、それは私には関係ない。別に大竹への思いをどうにかしろと要求しているわけではないのだ。ただ、奴にストレスを与えるような真似は止めてくれればそれでいい。そう伝えるが、肯定の返事をせず吃ってしまう。どうやら、どこまでがストレスを与える行為なのか判断ができないとのことだった。そればかりは私も知らない。大竹本人に尋ねるしか方法はない。


「でも私、別に大竹さんにしつこく迫ってるわけではないんですよ?ただちょっと会話がしたいだけで…現に三回拒絶されたら引くようにしていますし」
「ならばそれを止めたらどうだ」
「そんなっ!!ひ、酷いですスタージュン様、週に一回会えるかどうかぐらいの割合しか会ってないのに、それを止めたら後はどうしたらいいんですか!?話しかけずに眺めていろってことですか?」
「そんなストーカー行為をしても何の解決策にもならん」
「なら何か妥協案を出、」


「スタージュン、料理長がお呼びだ」



離れた位置にある柱の後ろから現れた姿を確認し、驚いた。声の主の姿を確認した途端、名前は私の前から走り去り、一目散に駆け寄っていった。


「大竹さんっ!」
「寄るな、鬱陶しい」
「今度食林寺に行くらしいですね!よかったら私も同行させていただけませんか?迷惑はかけませんから!」
「それは先月の話だ。もう終わった」
「な……そ、それでしたら今度の任務に是非!」
「おいスタージュン、さっさと行くぞ」


その声に応え、その場から去ることにした。後ろから何か声が聞こえてくるが、それが私に向けられたものなのか、大竹に向けられたものなのか判別がつかなかった。


「副料理長とあろう者が、あんな所で無駄話とはいい身分だな」
「すまなかった」
「場所を考えてくれ…あんた等が通路に居たせいで、通れなかった」


料理長からの呼び出しというのは嘘だ。つい先程大竹と共に料理長の元へと行ってきたばかりなのだから。私を名前から引き離すのが目的だったのだろう。
話の途中から、柱に潜む存在には気付いていた。それが大竹だということも承知していた。だが名前から逃れるためだと分かったため、敢えて声をかけることはしなかった。まさか自分から姿を現すとは思っていなかったが。


「直ぐに終わるはずだったんだが、思いの外長引いてしまってな」
「そうか」
「ああ」
「………何の話だったんだ?」


隣に視線を落とすと、不機嫌そうな顔があった。


「聞いていなかったのか?」
「距離があったし、あんた等の声が小さくて聞き取れなかった」
「……気になるのか」
「はっ!心底どうでもいいな。ただ、あの馬鹿と長々と話すような話題があったのかと疑問に思っただけだ」


どうでもいいのなら、そもそも話題にすることすらしないだろう。それに、言うほど長く話し込んではいない。割り込んできた時といい今の反応といい、これは、もしや。
…どうやら、名前の行動は無駄ではなかったようだ。


「お前は誤解をしている。私が名前に付き合わせたんだ…お前を諦めて、私にしないかとな」
「……はぁあっ!?」



立ち止まる奴を置き去りにし、足早に廊下を歩く。戸惑う悲鳴を背に浴びながら、少しだけ奴等の今後に興味が沸いた。
……
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