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▼ 三虎は褒めたかった

*ほのぼのと見せかけたカニバ(割合少ない)
*三虎Jrが幼い


オレには二人兄と一人の姉がいる。一龍兄者と、次郎兄者。そして名前。三人とも血は繋がっていないけど、本当の家族のように接してくれている。

その中でも名前は女なのに兄者たちと同じくらい大変な修行をしている。そして沢山の怪我をしてくる。兄者たちは怪我をして疲れていても、どこか余裕があるように感じられる。でも名前だけは、本当に疲れていて今にも倒れそうになって帰ってくるのが多かった。何で名前がそんなになってまで頑張っているのか分からないけど、怪我をしているのを見ると悲しくなる。そんな疲れをなくさせるにはどうしたらいいだろうか。
オレだけじゃ良い案なんて出てこなかったから、皆がいないうちにフローゼにこっそりと相談した。ちょっと恥ずかしかったけど、フローゼは馬鹿にしないで真剣に相談にのってくれた。そうしたら「喜んでもらえるようなことをしたらどう?そうすれば疲れなんて吹っ飛ぶと思うわ」だって。喜ばせる。いいかも。でも、どうしたら喜んでもらえるんだろう?美味しいものを獲ってこようと思ったけど、名前はオレよりも強いから、オレなんかが獲ってこれる猛獣なんて珍しくもなんともないから、あまり嬉しくないだろう。花をプレゼントするにも、お店で買ってきたものならともかく、そこら辺で摘んできたやつをあげるのは安っぽいし子供っぽい。フローゼはいいけど、名前に子供扱いされるのは何だか嫌だ。優しくしてくれるのは嬉しい。でも、オレも兄者たちと接するようにしてほしい。それを伝えるとフローゼは頭を撫でてくれた。何で撫でてくれたのか分からないけど、嬉しい。


「なら、褒めてあげるのはどうかしら?」


褒める。確かにそれならオレでもできる。でも、名前は大人。ただ褒めるだけで喜んでくれるんだろうか?物じゃなくていいの?「あら、三虎は撫でられるのは嬉しくないの?」そんなことない!言葉の代わりに頭を左右にブンブンと振った。頭を撫でられるのは凄く好きだ。それだけで幸せな気持ちになれる。嬉しくないわけがない。そんなオレの姿を見て、フローゼは笑った。


「喜んでもらうにはね、何よりも気持ちが大事なの。三虎に褒めてもらえたら、名前はきっと大喜びするわ」


いってらっしゃい。と優しく背中を押してもらって、オレは外に飛び出した。







名前は直ぐに見つかった。タイミングが悪かったようで、一龍兄者と一緒に組手をしている。邪魔をしたら悪いかもしれない、見つからないように近くの木に体を隠した。でも二人は気付いたようで、組手をやめてオレの側までやってきた。申し訳なくて邪魔してごめん、と謝ると二人共「丁度休憩しようと思ってたからいいんだ」って笑った。多分、それは嘘だ。オレがいるのに気付いたから一旦やめたんだ。兄者も名前も、本当に優しい。この二人だけじゃなく、アカシア様も次郎兄者も優しい。それがくすぐったいけど、嫌な気はしない。


「でも、どうしたの?何か用事?」


あっ、そうだった。
目的を達成しようと口を開いたけど、言葉が出てこない。そういえば褒めようとは思ったけど、具体的に何を言うのか全く考えてなかった。どうしよう。そう考えて、頭に浮かんだのはフローゼの笑顔。…そうだ!




「名前は美味しそうだね」







二人共固まった。



最初に反応したのは名前じゃなくて、その隣にいた一龍兄者だった。

思わず耳を塞いじゃうくらい大きな声で笑ってる。お腹を抱えて、目に涙を浮かべてオレを見る。その反応が予想外で、慌てる。困って名前を見て、次に固まったのはオレだった。


笑ってない。


何で兄者はこんなにも笑っているんだ?それに名前も、困ったように首を傾げている。どうして?オレはただ褒めただけなのに…フローゼが嘘をついた?そんなわけない。だってあんなに真剣にオレの話を聞いてくれたんだ。じゃあ何で?名前は物じゃないと嬉しくない?オレの言葉は困らせるだけなの?




「っあーあー、泣くな三虎!笑って悪かった!」
「ご、ごめんね三虎!どう返事したらいいのか分からなくて」


頭上からかけられる二つの声と、ボロボロと溢れてくる涙を拭う手は、いつも通りに優しかった。だからこそ不思議で仕方ない。何で喜んでくれないんだろう。


「うっ、嬉しくない?」
「ん?」
「褒められるの…嫌だった?」


いつも沢山の温かくて美味しそうな料理を作ってくれるフローゼ。そういう時に美味しそうだねって言うと、フローゼはいつも笑う。そして「ありがとう」ってオレの頭を撫でてくれるのに。名前は困ったように笑っただけだ。そう言うと一龍兄者が「三虎、お前もしかして勘違いしてないか?」勘違い?一体何を?


「美味しそうっていうのは、フツー料理に対しての褒め言葉だぞ。人間に対しては言わん」
「え、」



じゃあ、つまり。

間違えた!?


思い返せば、確かに食べ物があるときにしか言ってなかった。でも兄者たちが前に「次郎は相変わらずノッキングがうまいな」「褒めるなぃ、照れるじゃないか」って言っていたから、てっきり「美味しい」「旨い」は人にも使えるんだと……恥ずかしい…


「まぁまぁ、間違いなんて誰にでもあるよ」
「うう……」
「全く…それだったら『綺麗』とでも言えばいいだろう」
「オレ、綺麗とは思ってないから」
「……」
「っぷ、くくく…子供は素直だな、ぶふぉぅ!」
「…一龍、もっかい組手しようか」





一龍兄者との組手が終わった後、名前が「褒めようとしてくれてありがとうね。嬉しかったよ」って頭を撫でてくれた。喜んでくれた上に頭も撫でてもらえて、本当によかった。
でも、今度はもっとちゃんとした言葉で言えるように勉強しよう。













目の前に横たわっている、女の身体。鮮やかな赤が青白い肌を彩っている。既に絶命しているのが明らかなその姿は、まるで食器に盛られた馳走のように映った。口内にじわりと唾液が湧く。女の血に濡れた、たった今命を奪った右手を視線の高さに持ち上げる。指を動かす度に、ぬちゃりと粘着質な音をたてる。よくよく目を凝らしてみれば、小さな肉片も張り付いている。それを口へ含む。途端、口内に鉄臭さが拡がった。暫く舌で舐り、噛み、その感触を十分に堪能し、咀嚼する。素直な感想が口から溢れた。




「……旨くはない、な」




言葉を知ったばかりだったあの頃。褒め言葉なのだと思い込んでいたために発してしまったあの言葉は、結局見当違いだった。これは食べれたものではない。元から旨いと思ってはいなかったが残念だ。いや、少しばかり期待はしていたのかもしれん。もしかしたら…という、浅さかな期待。だからこそ今、僅かながらも失望しているのだ。もう一度、肉片に手を伸ばす。やはり味は変わらない。だが、このまま名前を腐らしていくのは勿体ない気がする。何かしら手を加えたら少しはましにならないだろうか。誰かに調理をさせようか…駄目だ。他の人間に名前の身体を触れさせたくはない。久し振りに、己の手で調理でもしてみようか。簡単なことしかできないが、それでも今の味よりは我慢できるはずだ。塩でも胡椒でも、醤油もいいかもしれない。私がこの身体を思うように弄れ、かつ己の血肉となるのだと思うと、楽しみで仕方ない。


さて、どう調理しようか。
……
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