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▼ 死んだトミーロッド

(不器用恋愛設定)

変な夢を見た。
目の前に立っていたトミーロッドが、光り輝く何かに巻き付かれて、あっという間に飲み込まれた夢。簡潔な内容だ。
あの光は何なのか分からないけれど、恐らく夢の中のトミーロッドは死んだのだろうなと察した。それにしては消えていく彼の表情はやけに清々しかったなぁ、なんて思いながら、私は当の本人の元へ仕事のために向かった。





「今日、面白い夢を見たよ」


食材を適当に袋に詰めていくトミーの背中に、そう話題を振ってみる。
予想通りに此方を振り向こうともせず、興味のなさそうな返事を返された。


「へぇー」
「トミーが死ぬ夢」


食材を拾い上げる手が止まった。
此方を振り返ったトミーの表情が分かりやすいほどに引き攣っている。よく見ると頬に血管が浮いている。
歪んでいる赤い唇から、地を這う低い声が発せられた。


「…へぇ。夢の中とはいえボクを殺すなんて、偉くなったもんだネ」
「別に見たくて見たわけじゃないよ」
「それでも不快なの」
「心が狭いなぁ…将来禿げるよ」
「夢じゃなくて現実でお前を殺してやろうか?」
「遠慮しまーす」


望んでみたわけじゃない夢にそこまで怒らなくてもいいのに。本当に心が狭い奴だ。こんな人間にはなりたくない。
何かが私の顔に向かって飛んできた。それを片手で受け止める。ずっしりと重いそれは、トミーがさっきまで持っていたものだ。生臭い臭いが鼻を刺す。心なしか袋は生暖かい。
私に持てということか。これくらい自分で持てばいいのに。よっこらせ、と掛け声とともに肩に背負う。


「どうせお前は嘲笑ってたんだろ」


不機嫌な声が上がった方に顔を向ける。
声色と同様に不機嫌そうに顔を顰めたトミーロッドが私を睨んでいた。


「何が」
「夢のお前のこと。消えてくボクを笑ってたろ」
「いややい、笑いはしなかったよ」
「じゃ、いつも通り呆然と見送ってた?」
「……」


黙る私を、トミーは鼻で笑うと踵を返した。そのまま帰ろうと足を進める背中を眺める。


「……手を伸ばした」


ぽつり、と。小さく溢した言葉に、トミーは一拍遅れて振り返った。


「今、何つった?」
「……別に。悪口言ったわけじゃないよ」
「それは分かったから。言えよ」


誤魔化そうとするけど意味はなく、二度目の催促をされる。言葉から察するに、呟きを聞いていなかったわけじゃなようだ。どうせなら何も聞いていなかったら出任せ言って怒らせて終わらせたのに。ため息を一つ吐く。
目の前の上司は私を逃がすつもりはないらしい。鋭い目が私を射抜く。まるで拷問されているようだ。
渋々と口を開く。


「…だから、手を伸ばしたんだって」
「何に」
「お前に」


光に呑み込まれていくトミーロッドに、夢の中の私は現実じゃ想像できないくらいに慌てていた。
このままだとトミーロッドは消えてしまうんじゃないか。その予想に恐怖を覚えた。どうしてなのか分からないけど、夢の中の私の頭の中はそれで一杯だった。嫌だ、消えないで。その一心で消えていくトミーロッドに手を伸ばした。せめて掴めればこの場に引き留められるかも。そう思いながら必死の思いで手を伸ばした。
でも、夢の中の私の腕は何も掴むことはできなくて。あっという間にトミーは光に呑み込まれ、私の手は光だけが残る空間を虚しく切っただけだった。
夢はそこで覚めた。
もしあのまま夢を見ていたら、私はどうなっていたんだろう。もしかしたら泣いていたかもしれない。それくらい夢の中の私は心が乱れていた。

話し終わり、トミーロッドに視線を向ける。複雑そうな表情をしていた。
どうせ馬鹿にするんだろうと思っていたのに。予想外の反応に思わず戸惑ってしまう。


「な、何、どうしたの」
「……別に。さっさと帰るよ」


今度こそ背中を向けて、私を置いてさっさと去ろうとする。
その背中を追いかけながら、夢のことを思い返す。

もしも今、トミーロッドが夢のように消えそうになったとしたら。私はどうするんだろうか。
……
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