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▼ 江ノ島盾子に殺される

「私、実は名前のことメチャクチャ大好きなんだよねぇ」


私を見下ろしながら盾子はそう吐き捨てた。言っている内容と比べ、声色はまるで機械のように冷たい。


「むくろお姉ちゃんもあんたのこと好きだよ、まぁそれは言わなくても分かってるか」
「……」
「でもね、私の方があんたのこと好き。それこそこうして殺しちゃうくらい!」


血で汚れた包丁を、私の体に勢いよく突き立てていく。
足、太腿と段々と上の方に標準は上がっていく。ご丁寧に急所は外しているようで、私はまだ死んでいない。

どうしてこうなったんだろうか。普段のように二人で駄弁りながらお茶を飲んでいただけだったはずなんだけど。命の危険に晒されているというのに、体は少しも動かせない。盾子がお茶に何か盛ったんだろう。そういえば彼女にしては珍しく紙パックじゃなくてコップの自販機から購入していた。今更気付いてももう遅い。今の私は俎板の鯉だ。目の前の料理人にされるがままだ。


「もっとこう、いいリアクションをしてくれてもいいんじゃない?」


どうやらこの状況下で彼女の望む反応を示さない私がお気に召さないらしい。ぐりぐりと突き刺した包丁を動かし、傷口を抉る。焼けるように、熱い。


「っげほ、ごめ、ん」
「本当にさ!あはは、嘘嘘!そんな貴女が大好きだから!」


笑う彼女は可愛らしい。その手に私の血で濡れた包丁を持っていなかったら、いつものように彼女の頭を撫でただろうに。
楽しそうに笑っているくせにやっていることは残酷で残虐だ。彼女にこんな面があるなんて全く知らなかった。

江ノ島盾子は超高校級のギャルで、人懐っこい性格の可愛らしい今どきの子なイメージしか持っていなかった。実際、この一年間彼女と関わってきたけどイメージ通りの人だった。

そんな彼女が包丁を持って私に襲い掛かってくるなんて、誰が想像できるだろうか。今ですら現実を受け入れることができない。もしかしたら夢なんじゃないか、なんて淡い期待を抱いている。全身にじわりと感じる痛みと血の暖かさで、それはないと分かっているはずなのに。


「残ねえちゃんも、ずっと首を縦に振ってくれなかった。あんたは殺したくないってさ。仲間に入れたいなんて言い出したから思わず笑っちゃった!どんだけ名前のことが好きなんだよ。私の可愛いお姉ちゃんを誑かしちゃってぇ!」


勢いよく包丁が振り下ろされ、私の右手の甲に深く突き刺さった。貫通したのか、鋭い痛みが掌を貫いた。
勢いよく包丁を引き抜いたかと思うと、今度は左手の甲に突き刺さる。


「気持ちは分からないでもなかった。あんたは絶望寄りの性格だったし、きっと誘えば仲間になってくれただろうね…そうでなくても、貴女は最後に殺したかったです。最後に全てを種明かしして、絶望に染まった貴女を是非見てみたかった」


口調が途中から変わったことに気付いたが、それに突っ込んでいる余裕はなかった。血の塊が喉奥から湧き上がってきて、外へと吐き出す。それを見て盾子は嬉しそうに顔を歪ませた。


「だからこそ、さっさと殺しちゃおうって決めたの」


「誰よりも仲の良かったあんたを、好きだったあんたを先に殺したい。これから私達が何をするのか分からないまま死んでいって。計画がうまくいったとき、あんたに見せてあげたかったなんて後悔したい。きっと素敵な絶望だわ!」


酔い痴れるような表情が、段々と霞んでいく。そろそろ私の体も限界のようだ。
目の前でキラリと光る包丁。その鋭い先は、左胸に向けられている。


「殺していい?」
「……ぃ、まさら…?」
「それもそうだね」



あっさりと包丁を振り上げるのを見て、目を閉じる。


彼女がどうしてこんなことをしたのか、これから先何をするつもりなのか分からないまま、私は死ぬ。
……
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