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▼ トリコ、結婚するってよ

「うちね、トリコと結婚することになったの」


リンちゃんから結婚の報告を聞いて、思わず自分の耳を疑った。だって、あのトリコがまさか結婚なんて。何よりも食べ物を愛していた彼が。
ずっとリンちゃんがトリコに片思いをしていたのは知っていた。何度も何度もアタックしては反応がなくて、嘆いては今度こそ…!と燃えていた。それを一緒に見てきたサニーは「あの食いしん坊に色恋沙汰とか無縁だろ…」と呆れていた。私も、ちょっとだけサニーに同意した。だって本当にトリコは異性に興味を持っていなかった。リンちゃんが露出の高い服を着ても「暑いのか?」と聞いてくるし、胸を押し当てるように引っ付いても「鬱陶しいな」と抵抗したりしていた。これじゃあ多分、リンちゃんは一生片思いだろう。そう思っていたのに。
現実味がなさすぎて、気のない返事ばかりしてしまった。でも幸せ絶頂のリンちゃんには、そんなことはどうでもいいんだろう。喜々としてプロポーズをされた状況を説明し始めた。その内容は私の耳を通っては出て行ってしまって、全く頭に入ってこなかった。
正直諦めていた、リンちゃんの片思い。それがまさか、通じる日がやってくるなんて思いもしなかった。





そのまま、どうやって電話を切ったのか覚えていない。気がついたらトリコの家の前に立っていた。
最近はグルメ界に行くための用意で忙しいようだから、もしかしたらいないのかもしれない。そう思いつつもチャイムに手を伸ばす。こんなところに来ても意味がないと分かってるのに。それでも、どうしても尋ねたかった。
チョコレートでできた扉が開いて、見慣れた顔が覗く。


「よう、どうしたんだ名前?何か用か?」


丁度いいタイミングだったのか、トリコが出迎えてくれた。いつもの笑顔が眩しくて、胸が締め付けられる。
トリコが、ゼブラのように耳がよくなくて良かった。ばくばくと跳ね上がる心臓を、服の上から押さえつける。

「大した用事じゃないんだけど…あのさ、トリコ」
「ん?」
「リンちゃんと、結婚するの?」


カラカラと喉が渇く。ちょっとだけ声が震えてたかもしれないけど、目の前の鈍い彼は気にしてないようようだ。


「おー、そうだぜ」


まるで大したことでもないように、気の抜けた返事が返ってきた。それは否定ではなく、肯定。

つまり、本当に彼はリンちゃんと結婚するのか。


「そ、っかー……」
「つっても、まぁ式挙げんのはグルメ界から帰ってきた後だけどな。流石に今、呑気に式挙げる余裕なんてねぇし」
「そう、だね」
「それに、全て片付いた後の方が清々しくていいしな!」


その声、その表情が。彼が食べ物のことを話すそれと同じだと気付いてしまった。
トリコはリンちゃんのことが、本当に好きなんだ。


「…トリコなんかに、リンちゃんは勿体無いなぁ」
「何だそれ!オレのどこが駄目なんだよ」
「何よりも食べ物を優先するとこ、かな」
「そこはオレの長所だろ!?」


うん、知ってる。リンちゃんは、何よりもグルメを追い求める貴方のことが好きだったから。
私もね。そんなトリコのことが好きだったんだよ。



「早く、帰ってきてね。結婚式楽しみにしてる」
「おう、サンキュ!」







さようなら、私の初恋。
……
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