ログ2 | ナノ
▼ トミーロッドに悪戯された

*連載主

かったるい会議がやーっと終わった。何でこんなのに参加しなきゃなんないんだか。大抵事後報告でも事足りる内容ばっかなんだから、欠席してもいいと思うんだけど。今日だって、全員参加しろって煩く料理長が言ったから来たってのに、内容は暫くグルメ界を中心に活動していくから気を引き締めろっていう只の叱咤。そんなことを聞くためだけに集められたなんて、全くもってくだらねぇ。もう暫くは会議に参加しない。重要なことだったらスターにでも教えてもらえばいいし。皆が其々帰っていく中、珍しく参加してた名前が何故か座ったままだ。


「おい、何まだ座ってんの?」


頭を後ろから小突けば、そのまま勢いよく机にぶつかった。微動だにしない。不思議に思って顔を見えるよう横に動かす。瞼は閉じられていて、肩が規則正しく上下している。どうやら寝てるようだ。いつから寝てたんだこいつ。まさか会議の途中から?よくもまぁ料理長に気付かれなかったもんだ。感心すると同時に呆れる。いくら退屈だからって、ここまで堂々と眠るか普通。態々起こしてやる義理もないし、放っとこ。さっさと帰るか。
踵を返してポケットに手を突っ込むと、何か小さな筒に触れた。取り出すと、口紅だった。蓋をとって捻ると、僅かな赤が顔を出した。そういえばもう量が少なくなってきたから、捨てようと思ってポケットに突っ込んだんだっけ?忘れてた。
ふと、後ろを振り返る。相変わらず机に突っ伏している姿が視界に入る。


……いいこと思いついた。
勿体ないし、使ってやるか。チョード目の前に良いモノがあるしね。











いつもと見慣れない景色が目の前に広がっていて、一瞬これは夢かと錯覚した。実際は反対で、夢から覚めたところだ。どうやら会議の途中で眠ってしまったようだ。いつから寝たんだろう。思い出そうとしても、記憶に靄がかかって全く思い出せない。更に言うなら会議の内容も思い出せない。何のために会議に参加したんだか。まぁ、大した内容じゃなかったんだろう。多分。変な方向を向いて寝ていたせいか、少し首が痛い。さっさと自室に戻って寝直すかな。
椅子から立ち上がり、誰もいない空間から出ていく。
廊下を歩いていると、向かい側から大きな人影がやってきた。


「あ、やあグリン」
「ん〜……ひ、ヒッヒッヒっヒッヒッヒ!!ヒぃ〜ヒっヒッヒッヒ!!」



突然の甲高い笑い声に、思わず耳を塞ぐ。手だけでは完全には遮断できず、鼓膜を甲高い声が遠慮なく震わす。今ほど耳栓がほしいと思ったことはない気がする。只でさえ元から高い声なのに、場所が廊下なため、反響して更に耳に障る。いきなり何なんだ。


「ヒッヒヒ、っお前、鏡見てこいよ。ヒーヒッヒッヒッヒ!!」
「え、何、何かついてる?」
「おー。つーか描かれてるぜ」


人差し指で右の頬をピンと弾かれた。グリンの言葉に首を傾げる。さっきまで寝ていたから、頬にその跡が残っているのかと思ったけど、どうやら違うようだ。描かれてるってどういうこと?弾かれた頬に手を当てると、何かぬるりとした感触がある。涎かな。触れた掌を確認すると、僅かに赤く汚れている。
これは……口紅?


「……何これ」
「トミーのやつだろ!本部でそんな色の口紅持ってる奴なんてあいつぐらいだしな〜!」


ああ、つまり寝てる間に落書きされたってことか。成程。マジックじゃなくて口紅って斬新だなぁ。何書かれてるんだろう。馬鹿とか?グリンに何が描かれているのか聞いてみるけど、鏡で実際に確認しろとしか言わない。でも生憎、今は自分の姿を確認できるものは持ち合わせていない。仕方ない、部屋に戻るか。


「あ?確認しねーのかよ」
「鏡持ってないし、とりあえず部屋戻る。そこで確認するよ」
「そのまんまで?」
「口紅消しにくいから、後でいいや」


お前らしいな、と笑いながら背中を思いっきり叩かれた。咳き込んでいる間にグリンはさっさと何処かへ歩いて行った。何処までも自由な奴だ。人のことを言えた義理ではないんだけどさ。





また廊下を歩いていくと、向かい側から今度はスターがやってきた。手を挙げて挨拶すると、同じように手を挙げてくる。と、その手が不自然に止まった。


「……名前、その頬の口紅はどうした?」


どうやら落書きに気付いたようだ。


「あー、トミーに付けられた」
「何、トミーロッドが?」
「それ以外に誰がいるのさ」


そんな意外そうに驚かなくても。本人に確認したわけじゃないけど、十中八九トミーロッドで間違いないだろう。他に口紅持ってて私に落書きなんてしてくる奴なんて心当たりがないし。それはスターも同じだと思うんだけど、何故か納得しかねるように口篭もっている。珍しい。


「いや、だが……そう、なのか?」
「どういうこと?」
「……いや、いい。失礼した」


何故だか動揺したような様子で去って行った。なんだろう。まるで見てはいけないものでも見たような反応だ。どんな落書きをされたんだ、私の頬。ハートとか?駄目だ想像したくない。トミーロッドも私も、ハートなんて似合わなさすぎる。さっさと消したいな。でも今擦ったところで全部とれないし、逆に広がるだけだと考えると何もしないほうが得策か。







「……あ、トミーロッド」


また向かい側に人影。今度はトミーだ。
ただ、様子がいつもと違う。どうやら機嫌がすこぶる悪いようだ。一目で分かるくらいに不機嫌なオーラを纏っている。何かあったんだろうか。そう思っていると、私の方を見た。途端、禍々しいオーラを更に爆発させた。今日は何もトミーと会話をしてない。つまりトミーを不快にさせるようなことはしてないはずだ。なのに、何で鋭い眼で私を睨んでくるんだろうか。


「………」
「どうした?」
「…お前、何でそれ消してないんだよ」


それ、と指差されたのは落書きされている右頬。今の言葉から察するに、やっぱり犯人はトミーロッドだったか。当然っちゃ当然だろうけど。


「いやさ、口紅って消しにくいから後で消そうと思って」
「…こンの屑がぁあっ!!」


罵声と同時に、握られた拳が私の頭目掛けて思いっきり振るわれた。
間一髪でそれを避けると、今度は目の前から靴の先が勢いよく迫ってくる。手で防げば、それを合図としたかのように更に激しい猛攻が繰り出されてきた。



「えっちょ、何で?何でお前に落書きされた上に罵られながら殴られなきゃいけないわけっ?」
「黙れ!テメェのせいでグリンにからかわれるわスターには勘違いされるわで散々な目に遭ったんだよクソがぁ!!」
「それこそ何で!?私が何したっていうのさ!」
「テメェの行動と思考、全てが悪ぃんだよ!!」


意味が分からない。寝ている間に落書きされて、消すを後回しにして自室に戻ろうとしただけじゃないか。なのに何で落書きした本人が怒ってるんだよもう!











悪戯と軽い気持ちで描いたのが間違いだった。いや、悪戯自体はいい。描いたものが悪かった。特に描くものが思い浮かばなくて、適当に唇のマークを描いた。量が少なかったからハッキリとは描けなかったけど、ちゃんとキスマークだと分かる。他の奴らにレズ扱いでもされちまえと。そんな気持ちだったのにさぁ!それを見たグリンからは「何だあれ、ハートマークよりも熱烈な印付けたじゃねぇか!ヒッヒ」とバカにされ、更に、更にだ!スタージュンからの言葉が一番許せなかった。

「お前は名前とそういった関係なのか?その、頬にキスするような…名前がお前に付けられたと言っていたんだが」


あんの糞アマが。








「すと、ストップ!とりあえず落書き消させてよ」
「そんな気になるんならテメェの皮膚ごと剥いでやるよ!!」







紛らわしい言い方をしたこいつは許せないし、更にこいつにまで馬鹿にされるわけにはいかない。こいつに確認させる前に消す。絶対に消す。

……
←back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -