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▼ 黒子とマジバで遭遇

いらっしゃいませー。

わざとらしいけれど可愛い声に迎えられながら、店内に入る。そのまま直ぐにレジへと直行し、いつも通りの注文を店員さんに伝える。チーズバーガーとマックシェイクを一つずつお願いします。かしこまりました。お会計を先に済ませて、後ろに並んでいる人のためにレジから退いた。ケータイを弄って時間を潰して暫くしてから「お待たせしました」と笑顔と共に注文の品が乗ったプレートを手渡される。
窓際の、二人用の席。向かい側に誰も座っていないことを確認する。…………うん、大丈夫だ。プレートを机に、カバンを足元に置いて一息つく。ガラスの外を見ると、私の通う誠凛高校の誠服を着た、大きな男子生徒が通っていった。二メートルありそう、でかいなぁ。思わず目で追っていると、その男子はマジバの中へと入ってきた。流石にこれ以上目で追うのはやめよう。難癖つけられたら怖いし。
マックシェイクに手を伸ばし、啜る。うん、冷たくて甘くておいしい。これがワンコインで買えるんだからマジバって本当に凄い。







「シェイク、おいしいですよね」
「…………うわぁっ!!?」
「煩いです」


他のお客さんの迷惑になりますから、静かにしてください。
私が叫んだ元凶が、無表情でそう言ってのけた。


「また僕の前に座りましたね」
「き、今日こそはいないと思ったのに…!」
「それ、毎回言ってますよ」
「何で誰もいなかったはずなのに座ってるの……本当怖い」
「まるで人をお化けのように言わないでください」


似たようなものだ。いないと思ったらいつの間にかいるという、むしろお化けより達が悪いんじゃないだろうか……流石に失礼か。






黒子君との出会いは、今みたいに私が部活動帰りにマジバに寄ったとき、同じ席に座ったことから始まった。


その日は別に混んでるわけじゃなく、相席をしないといけない状況ではなかったし、黒子君に用があるから座ったのでもない。私はただ普通に、誰もいない席に座った。
……はずだったんだけど、気がつけば目の前にシェイクを飲んでいる人が座っていた。その時思わず悲鳴を上げた私をどうか許して欲しい。その時は本当にお化けだと思ったんです。


「い、いいいいいつの間に座って、」
「…………ボクは最初からいました。貴女が後から座ってきたんですよ」


これがファーストコンタクト。
それから同じ誠凛高校の一年生ということで少しばかり話をして、連絡先を交換することもなく別れた。同じ高校とはいえもう会うことはないと思ってたし。
でもそんな予想とは裏腹に、黒子君とは度々遭遇することになった。マジバでだけなんだけども。最初の時と同じように、何故か私は黒子君のいる席の向かい側によく座った。しかも気付かずに。一度だけ、彼の膝の上に腰を下ろした時もある。それくらい黒子君は影が薄いんだ。本人もそれは自覚しているらしい。
別に店内は満員とか、席が足りないとかではない。現に周りにはちらほらと空席がある。でも、自分からこの席に座っておきながら立ち去るというのもちょっと酷いような気がする。だから私は、今まで黒子君がいると気付いても席を変えようと立ち上がる真似はしなかった。
そうして友人かどうかよく分からない関係を築き上げ、今に至るというわけだ。


それにしても、この遭遇率の高さは一体何なんだ。私は窓際の二人用の席しか使わないけど、それでも同じ条件の席が三つほどあるのに。いやまぁ、座らなかったときはお互いに気付かずにスルーしてるのかもしれないけどさ。


「……黒子君さ、影の薄さどうにかしないと、いつか車に轢かれても気付いてもらえないなんてことになるかもよ」
「流石にそれはないと思います」


至極真面目なツッコミを頂いた。黒子君には冗談が通じないようで残念だ。まぁ半分本気だったけど。

ふと、突然机上に大きな影が差した。顔を上げて、思わず声にならない悲鳴をあげてしまった。










さっき窓ガラスから眺めていた大男が、鬼の形相で立ち塞がっていたのだ。


もしかして、さっき見てたのがバレた!?





「……火神君、睨むのはやめてください。名前さんが怖がっています」
「ん?……ああ。あんたに腹立ててる訳じゃないんだ、悪ぃ」
「……あ、い、いえ」


良かった。黒子君の知り合いか。
不良なのかな、と少し不安だったけど、部活動の同級生だと説明されて安心した。これで一年生なのか。黒子君なんて私と五センチくらいしか変わらないのに何て差だ。こんなに身長も色合いも性格も正反対なのに仲がいいんだなぁ…と感慨深く眺めていたら「今失礼なこと考えていませんでしたか」と図星を突かれた。そんなことないよと言ったけど、信用してないようだ。疑いの目をチラリと私に寄越してから、隣に立っている火神君と呼ばれた男子に顔を向けた。


「ところで、どうかしたんですか?」
「どうかした、じゃねぇよ!いきなり消えやがって…何で大して広くもない店内でプレート持ちながらお前を探さなくちゃいけねーんだ!」
「消えたと言われても…僕はさっきから此処を動いていませんよ」
「お前の影の薄さが異常なんだよ!」


おお、やっぱり彼は影が極端に薄いのか。私だけかとちょっと心配だったけど、どうやら杞憂のようだ。


「それに、オレを置いてさっさと席に座ったお前が悪い」
「っ火神君!」
「何だよ、本当のことだろ?店内入るまでは一緒だった、」
「黙ってくださいっ」


え、ちょっと待って。火神君は今何と言った?


「あ、あのー」
「ん、何だよ」
「黒子君と一緒に入ってきたんですか?」
「そうだぜ。それがどうかしたか?」


どういうことだ。

私はさっき、此所で座りながらこの人が店内に入ってくる姿を見ていた。つまり、この人は私の後から入ってきたということだ。そして話によると、黒子君は彼と一緒に入ってきたらしい。
じゃあ、何で黒子君は目の前に座っているの?





黒子君は何も喋らず、視線を合わせないよう頭を傾けながら黙々とシェイクを飲んでいる。気まずくなって、私も黒子君から視線を外しつつチーズバーガーにかぶり付いた。

何も知らない火神君は、ただ頭を捻って私と黒子君を交互に見ていた。

……
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