ログ2 | ナノ
▼ 喧嘩友達のブランチ

*リクエスト:ブランチと両思いだけど喧嘩仲間を続ける夢主


大きな音と衝撃と一緒に地面に背中から落ちた。全身にビリビリとした振動が伝わってきて、もうこれ以上反撃をする気にはなれなかった。

起き上がる気力が湧かなくて、ぼんやりと空を眺める。見上げた空は綺麗に澄み渡っている。あまりの青さに目が眩んで、瞬きを二度三度繰り返した。こうして空を眺めるのは久しぶりかもしれない。
そう感慨に耽っていると、その青を背景にして、見慣れた赤が飛び込んできた。





「いやーっ、名前と喧嘩なんて久しぶりやのー!!」




鋭く尖った歯を見せながら大きく笑う昔馴染みに、少しだけ非難の目を向ける。別に私をすっ転ばせた元凶だからじゃない。ただ、彼の笑い声は耳に無駄に響くから、もうちょっとボリュームを下げてほしいという気持ちを込めて睨んだ。でも睨まれた本人は「なんや、いくらワシが男前やからってそない見つめんない!照れるやろー」と見当違いの言葉を吐いた。
体を起き上がらせて、銀髪に覆われた頭を軽く引っ叩いた。


「喧嘩じゃないって。手合せだよ、手合せ」
「喧嘩みたいなもんやろが。それにしても、ちゃんと美食屋としての実力はあるようで安心安心。これで弱っこかったらワシんとこ連れてきたろ思っとったんやで」
「……」


それってつまり、グルメ界に連れて行くってことか。なんて恐ろしいことを考えていたんだ。確かに私は美食屋としてちゃんと鍛錬してるけど、流石にグルメ界に足を踏み入れる気になれない。
先程殴られた頬を擦る。この痛みも、随分と懐かしく感じる。彼の言うとおり、久しぶりの喧嘩(彼に言わせればだけど)だ。というより、会うこと自体が久しぶりな気がする。
昔は会わない日がなかったくらい毎日遊んでいた。遊びの内容は大抵喧嘩で、いつも「ブランチの負け!」「名前が負けたやろが!」と最後に言い争っていたっけ。でも今じゃ、最後に会ったのがいつだったのか思い出すことも難しい。電話や手紙で何度か近状報告をしてたけど、お互い不規則な生活をしているし、会いに行けるほどの暇な時間がないから、こうして直接会えることは殆どなかった。
そんなことを考えていると、ブランチが此方を窺うように顔を覗き込んできた。そういえば頬にずっと手を当てていたことを忘れてた。



「……なんや、そんな痛いんか?」


擦っていた頬に赤い手が添えられた。似合わないくらい優しく撫でられて、耐えられずに思わず払った。


「だ、大丈夫。手加減してくれたんでしょ?」
「手加減ン?んなもん名前にするわけないやろが」
「してる。でなきゃブランチと対等に喧嘩できるわけないでしょ」
「そうかぁ?」


納得しかねるように首を捻っているブランチに、思わず笑みが零れた。
確かに昔はブランチとの力の差はそこまでなかった。私が勝ったことも少なくはない。でも、それは子供の頃の話だ。今じゃ男女の差がはっきりと出ている。そうでなくても、人間界で美食屋をやっている私が、グルメ界の激しい環境の中で生活しているブランチに太刀打ちできるはずがない。なのに、さっきの手合せではちょっとした怪我しかしてない。
無意識で手加減している。その事実は私を嬉しくさせた。


「なーに笑っとんのや」
「ん?いやさ、ブランチに愛されてるなーって思って」
「な……」


赤い顔を更に赤くさせ、私の頭をべしべしと叩いてきた。照れ隠しなんだろうけど、結構力が入ってて痛い。


「ちょっ、痛い!」
「うっさいわアホ!突然何言い出すんねん」
「本当のことでしょ、照れないでよ」
「照れてへんわ!」
「照ーれーてーるー!」
「じゃあかしいっ!!」


多分だけど、ブランチは私のことを喧嘩友達と昔馴染みとか、そういったものとは別の対象として見ていると思う。たまに私のことを柄にもなく心配したりとかするし、彼氏ができないと言うと安心したように笑ったりした。私もブランチに彼女どころか女の知り合いが私しかいないと聞いたときは嬉しくなった。だって私はブランチのことを、異性として好きになったから。多分、ブランチはそのことに気付いてるはずだ。
でも私たちは互いの感情に気付かないふりをして、昔と変わらない関係を維持している。ブランチと特別な関係になれるのは、とても魅力的なことだ。でも、そうなると今の関係が崩れ去ってしまう。今の喧嘩仲間で昔馴染みという関係が心地いいから、どうしてもこれより一歩進む気になれない。ブランチはどうかは分からないけど。

多分これからも、私たちはこの心地いい関係を継続していくんだろう。
……
←back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -