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▼ ゼブラとバレンタイン

刹那様リクエスト:バレンタインでゼブラ微裏(?)




机の上に幾つか並べられた、少しばかり派手なピンクのハート模様の袋。中にトリュフが入っているのが透けて見える。
念のため、袋に入れられずに残ったトリュフを口に運ぶ。柔らかい触感のあと、甘いチョコレートの味が口の中に広がった。自画自賛かもしれないけど、ちゃんと美味しい。去年は少し焦がしただけでサニーに文句をこれでもかと言われたからなぁ。でも、今年はとやかく言われずにすみそうだ。
ひいふうみい……うん、ちゃんと人数分ある。
包装もちゃんとしたし、バレンタインの準備はこれで万端。


問題があるとすれば、さっきからその上をうろちょろしている手だ。
只でさえ並の人間よりゴツくて大きな手なのに、それが可愛らしい袋の上を通過しているのだからより一層目障りだ。何度叩き掃っているのに、性懲りもなくまた手を伸ばしてくる。なんてチョーシにのっている手だ。手を伸ばしている本人は、そういったチョーシにのっている行為が嫌いだといつも言っているくせに、本人がこれとは一体どういうことなのか。





「……ゼブラ、何度も言ってるけどこれは他の人たちの分。貴方には余ったトリュフだけじゃなくて、チョコレートケーキまであるの。だからこれには手を出さないで」
「何でテメェの言うことを聞かないといけないんだ」


私が作ったやつだからだよ!!

そう何度も言っているはずなのに、ゼブラは頑として聞き入れてくれない。むしろ私が悪いと言わんばかりにおっかない顔を更に怖くして睨んでくる。断言するが、私はこれっぽっちも悪くない。食い意地のはったゼブラが全面的に悪い。
小松君の言うことだったら滅茶苦茶素直に聞く癖に……。どうやって小松君がこんな俺様を手懐けているのか不思議で仕方ない。料理にしろゼブラの扱いにしろ、ちょっと本気で小松君の弟子入りを考えるべきかもしれない。


「明日、もっと作ってあげるから。それで我慢して」
「それなら明日、他の奴に作ればいいだろ。今日のは全部オレに寄越せ」
「だからー……」
「大体、何で他の奴にやんだよ。オレだけにやればいいだろが」
「え……何で?」
「そういう日だろ、今日」



……つまり、バレンタインに私がチョコをあげる相手はゼブラだけでいい、と。それはつまり、嫉妬ということで受け取ってもいいんだろうか。ゼブラの顔をまじまじと見つめていると、顔を思いっきり逸らされた。
うーん。正直、あのゼブラがこうした嫉妬を抱いてくれるのは凄く嬉しい。でも、皆にはもう既に手作りすると伝えてしまったのだ。今更既製品を渡すなんてことはしたくない。それじゃあ味の感想とか聞けないし。ゼブラの感想は「悪くない」と「まずい」のどちらかだから聞いても参考になりはしない。本当にゼブラには申し訳ないけど、今回限りは我慢してもらいたい。


「でもさ、バレンタインに彼氏にだけあげるって人、そうもいないよ。友チョコとか、他にもお世話になった人に渡したりとか色々あるし。あのリンちゃんですら所長やサニーにあげてるんだよ?」
「ありゃあ出来損ないの処分だろ」


……言い方は悪いけど、意味は間違ってないから強く否定ができない。
リンちゃんは、舌の肥えたトリコを落とすためにと毎年チョコ作りを頑張っている。材料だけじゃなくて、ケーキとかガトーショコラとかの凝ったレシピを選んでる。当然、一発で満足のいく出来の物ができる訳がない。何度も失敗して、その中から文句のない出来栄えの物だけをトリコへと渡すようにしているらしい。ちょっと形が崩れたりとか、味に問題のないものは他の人への義理チョコとなって配られるのだ。あまりに酷い失敗のものは……所長に全部あげてると聞いたけど、どうなんだろうか。


考えていたら、ゼブラが近くにやってきたのに気が付かなかった。突然腕が掴まれたかと思えば、ぐいと思いっきり引っ張られた。遂に力ずくで来たか。身構えていたら、唇にぬるりと生温い感触。彫りの深い顔が、今はすぐ目の前にある。舐められた。そう気付いた瞬間に、唇の隙間に捻じ込んできた。流石にそれは駄目だと抵抗していると、意外とあっさり引いてくれた。離れた顔を見て安心したのも束の間、唇を舐めた舌が今度は頬に触れる。何がしたいんだ、そう訝しんでいたら。


頬に鋭い痛みが走った。








「っいったああああああああ!!?」






力の限り目の前の顔を引っ叩いた。大したダメージはないだろうけど、それでも離れるまで何度も平手で叩いた。やっと離れた時には頬が焼けるくらい熱くなっていた。



「このっ変態!!何するの馬鹿っ!!」
「アア!?誰が変態だと名前!!」
「あんたでしょっ!!」



こいつ、噛み付いてきおった!!

頬に手をやると、唾液の滑る感触がまだ残っている。歯型が付いたようで、ところどころが大きく凹んでいる。鏡で見てないから確証は持てないけど、触るとこれだけはっきり凹んでいると分かるくらいなら、これは結構酷いんじゃないだろうか。
今日は二月十四日。頬を何かで隠しても、嗅覚の鋭いトリコや電磁波まで見えるココなら、多分この傷が誰によって、どのようにして付けられたのかバレるだろう。そしたら何て言われるか。




「これで、渡しに行けねぇなぁ?」




……私の負けです。
目の前で遠慮なく包装を破いていく手を、今度は止めることはしなかった。

……
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