ネジは激怒した。

必ず、かの暴虐無人の武器収集を除かなければならぬと決意した。ネジには感覚がわからぬ。ネジは、木の葉の上忍である。瞑想をし、修行にあけくれて暮して来た。けれども彼女に関しては、人一倍に敏感であった。


【家に帰ると妻が必ずコレクションを増やしています】



○月×日
今日はアカデミーでの出張講習があった。
子供の相手をするのは得意ではない為、至極疲れて帰路についた。
テンテンは忍具屋の限定クナイを買えたとはしゃいでいた。幸せそうだった。

○月×日
今日は森での探索任務。久しぶりのスリーマンセル隊制で、昔が懐かしくなった。リーは今、他里への出張任務に出ていると聞いた。
テンテンは、昨日の限定クナイがとても高性能で気に行ったので、今日もう十本買ったとまたはしゃいでいた。満開の笑顔だった。

○月×日
今日は火影室で、今までの報告書を綱手様に提出した。シカマルに久方ぶりに会ったが、相変わらず頭のいい奴だった。事務が嫌いなわけじゃないが、目が疲れた。視え過ぎるのも問題かもしれないな。家の前で試しに白眼をしてみた時、武器部屋で忍び鎌を磨くテンテンが見えた。武器を見ているときのテンテンは一人でも笑顔なのか。疲れが吹っ飛んだ。

○月×日
家に帰ると、ちょうど玄関に宅急便が来ているところだった。テンテンは頬を赤らめていたのでまさかと一瞬焦ったが、「注文してた鉄球が届いて…」とのことだったので柄にも無く「そっちかよ」と心の中でつっこんでしまった。部屋まで運ぶのを手伝ったが、ずっしりと重かった。テンテンはこれを遠心力で操るのか。すごいな。

○月×日
思ったよりも早く任務が終わって帰ると、玄関にまきびしが設置してあった。何事かと思ったが、「ごめん!まだ帰ってこないと思ってたから、写メ撮ろうと思って」と楽しそうに言っていた。わざわざ武器の写真を撮るなんて、武器自体が本当に好きなのだろう。

○月×日
家に帰ると、彼女がいつも使っているヌンチャクという武器の種類が増えていた。「シーンごとに使う物を分けるのよ」と得意気に話していた。正直俺にはそこまでの違いはわからない。今後の任務の参考までに、今度詳しく聞いてみよう。

○月×日
家に帰ると、焙烙火矢という爆薬みたいな忍具が増えていた。巻物に収納するらしいが、さすがに危ないので、管理は厳重にしてくれと願うばかりだ。

○月×日
家に帰ると、手裏剣が壁にかかっていた。ピカピカでどう見ても新品だが、「何個あっても困らないわ。壁にかけておけばオプジェにもなるし防犯にもいいと思うの」とあまりに楽しそうに彼女が言うので、「そうだな」と頷いてしまった。冷静に考えると、こんなオプジェはどうかと思う。

○月×日
家に帰ると、玄関に立て掛けてあった如意棒が倒れてきた。「背が高くて収納場所に困って」らしいが、今度の休みのとき片づけを手伝ってやろう。

○月×日
家に帰ると、手裏剣が飛んできた。さすがに危なかったが、「今最新のトラップの仕掛けを考えてて…」と必死に謝る彼女を見たら、不思議と応援したくなった。

○月×日
家に帰ると、万力鎖というものが置いてあった。悪役が使いそうな忍具だった。

○月×日
家に帰ると、俺もよく知らない忍具が増えていた。マニアックだ。

○月×日
家に帰ると、家が忍者屋敷になっていた。



「って、そうじゃなくだな!!!」
「わっっ!急に何よ!」

○月×日、今日も家に帰ると下駄箱の上に手甲鉤が飾られていた。もう防犯というより、家の方が物騒な印象だ。忍刀を丁寧に磨いているテンテンに声をかけると、驚いて目を丸くしている。
「最近、いくらなんでも買いすぎじゃないか」
彼女の武器マニアさは前からで、そこは忍具使いなのだからしょうがない。むしろ忍具を見ながらニコニコと楽しそうな彼女を見るとほっとする。でもさすがに、最近の彼女の買いっぷりには目に余るものがある。テーブルの上に置いてあった二人の貯蓄用の通帳を見ると、ここ数週間で急激に残高が減っているのが見てとれた。それとは比例するように、急激に手裏剣マークが押された、武器屋のポイントカード。



ネジは激怒した。

必ず、かの暴虐無人の武器収集を除かなければならぬと決意した。ネジには感覚がわからぬ。ネジは、木の葉の上忍である。瞑想をし、修行にあけくれて暮して来た。けれども彼女に関しては、人一倍に敏感であった。



「お前…これは反省しろよ」

今後のことも考えたら、この消費ペースが続くとまずい。安定的な生活の維持に支障をきたす。さすがにここで止めなきゃならないと思い注意をすると、彼女は少ししゅんとしながら「ごめんなさい」と謝る。
思わず抱き寄せ背中をさすると、小さな背中が更に小さく感じる。少し驚かせすぎたか。悪い事をした。


「ごめんなさい、ネジ。確かに私最近、忍具忍具って、買いすぎだったかも」
「俺も怒ってすまない。テンテンが武器を大好きなことは知ってるし、楽しそうなお前を見ていると俺まで楽しくなる。買うなとは言わないから。でも、少し控えような」
「うん、わかった。ありがとう。本当にごめんなさい、ネジ。何回か危ない目にもあわせてごめんね」
「…あ、ああ、あれは危なかったな…」
「これからは気を付けるね。本当に欲しい物しか買わない」
「ああ、無理はしなくていいからな」


いつも楽しそうに忍具を眺めている彼女を見るのが好きだから。その笑顔をいつまでも守ってやりたいと思う。今日は急に怒って驚かせてしまった。今度お詫びに、彼女の喜びそうな忍具を買って帰ろう。








○月×日
今日は数週間の中長期任務から、久しぶりに木の葉に帰って来た。他里にはまだ珍しい、少なくとも俺は見たことが無い忍具がたくさんあった。テンテンが喜びそうな、一段と殺傷能力が高そうなものを土産に買ってきた。喜んでくれるだろうか。


家に帰ると、玄関で待っていてくれた彼女が出迎えてくれる。この瞬間がとても好きだ。

「おかえり、ネジ!」
「ただいま。これ、土産」
「わぁ〜〜〜!超かっこいい!ありがとう!ネジ!」

途端に幸せそうな顔をする彼女を見て、心が温かくなる気がした。
この珍しい忍具の重さは正直、里までの帰路の疲れた身体に応えたが、こんなに喜んでくれるとは…本当に買ってきてよかったと思える。

「さっそく私好みに改良しなきゃ!疲れてるところ悪いんだけど、武器部屋に運んでもらってもいい?」
「ああ」

廊下を奥まで行った突き当りの部屋、そこが彼女の武器の保管部屋だ。よくここに缶詰めになって、武器を磨いたりしている。
そういえば俺も入るのは久しぶりだな、そう思い扉をあける。そこには数週間前とはまるで違う景色が広がっていた。

「…え、えへ。これでも半分くらいは我慢したんだけど」

机中に種類ごとに置かれた手裏剣のディスプレイ、天井からつり下がる鉄球、壁に立てかけてある如意棒やヌンチャクの数々。


「お前…これ……」


「あ、デジャヴ」




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