Appears to have fallen
相手のマッチポイントにピンチサーバーとしての出場
これは望んだ登場ではなかったが現状の自分のコンディションでは他に遣りようがなかった。
てっきり2学年下の影山飛雄は高校でも後輩になるのだろうと思っていた
新入部員の中には知っている顔がいくつかある
でも、あのバレーしか頭にない男の姿はなかった
あのバレー馬鹿がバレーを辞めるとは思わない
後輩に問い掛けたら、あいつは烏野に居ることが分かった
認めたくはないが、俺の唯一の脅威なんだ
「監督、お話しがあるんてすけど今いいですか〜?」
中学での最後の大会
県予選で俺はベストセッター賞を取ることかできた
それは、うちのスパイカーがどこよりも機能していたって事の証明だった
だけど
セッターとして本当に俺がベストだったのだろうか?と胸に突っ掛かっている
このチームでの正セッターは間違いなく俺だ
監督の判断を疑った事はないし、自分でもこのチームなら誰よりも活かせる自信があった
俺が北川第一の正セッターだからこそ
あいつは試合に出ていないだけ
もしも
影山が他の中学でセッターをしていたら
それでも俺がベストセッター賞を取ったのか?
証明したい
監督は渋々ではあったけど、それで俺のモチベーションが上がるなら無駄ではないと判断してくれたようで
大して強くもない烏野との練習試合が組まれた
公式戦でなくとも構わない
俺は影山飛雄よりも優れたセッターであると自分自身に証明してやりたかった
セッターとして。
影山に対して、後輩として可愛いとかそんな情は一切存在しておらず純粋に敵意しか感じない
言いたかないが、あいつだけが県内においてセッターという括りでは唯一ライバルと言える存在
アップを取りながら飛雄の成長でも見ようかと思ったのに
俺の視線はコートに降り立った極彩色の烏に奪われる
岩ちゃんなら兎も角…
190近い金田一が苦戦する相手は信じられない程にコートを縦横無尽に飛ぶ小鳥
念入りのアップを漸く終えて、コートへ入る
俺と飛雄のセッターとしての優劣を決めるのは先延ばしになってしまったけど
練習試合だからって簡単に勝たせるつもりはない
レシーブの穴をつつくが何とあの長身の子は上げる事に成功してしまった
金田一のスパイクをブロックしたと思ったら
もう踏み切って宙に居る鳥に飛雄がトスをあげる
ゾクッと背中を悪寒が走る、俺を射抜く眼光に細胞が反応した
目を逸らす事も出来ず指先ひとつ動かせない
文字通りのその"一瞬"ただ息を飲む事しか出来なかった
頬を掠めた風が衝撃を物語る
光の軌跡を追う流れ星のように打ち抜かれたボールは激しく床を軋ませた
一見、黒い羽だけど光を浴びればキラキラと鮮やかに光る
スパイクを打つ瞬間に絡んでいた視線がまた重なり合う
「俺も狙え!大王様!」なんて騒いでた子とまるで別人だった
「へぇ…!!」
飛雄、面白いの手に入れたんだね
でも羨ましくはない
現実の話
他校に強い選手がいた所でそいつに転校して欲しいと思う奴はいるのだろうか?
ほぼ、いないだろう
監督やコーチの立場でなら、また見方が変わるんだろうけど
一生徒がそんな事を思う訳がない
そんな事を思う暇があったら強くなる為に練習に打ち込むべきだ
…まぁ、既に県内最強に位置してるアレは例外とする
柄の悪い男の後ろに隠れて、この上目遣い
表情と台詞が一致していない不均衡な態度にドキリと胸が鳴る
飛雄がこの子をどう使うのか、次に試合が出来るのはいつだろう?
遠足前の子供みたいにワクワクして、堪らない
それと一緒に足元から駆け上がってくる焦燥感
確信したこの高鳴はもう誰も止められない
今さら止められない
『Vivid』より。
終→