注意!
※腐女子向け
※82要素あり
※仁王がビッチで両刀(性的な意味で)
※病んでる










「気持ちいい?」

「すごく」

「苦しい?」

「たまに」

「きっかけは?」

「面白そうだったから」

「そう」

「でも、飽きてきた」



娼夫がないた



美しいから写真を撮る。何枚も撮ったその顔は色褪せることなく美しい。同じ表情など一つもない。だから撮る。焦燥感にかられながらも、撮る。撮らなければならない。その美しさを逃してはならないから。


「お前は飽きんの?」

「飽きない」

「しあわせ?」

「とっても」

「うらやましい」

「そうかな」

「うん」


夢中になったのは、三年前。まだ大学生だったヒロに会った瞬間、一目惚れ。それからずっと、写真を撮ってきた。私の家には病的なほどにヒロの写真や映像があるし、パソコンのデータはパンパン。私はヒロの専属カメラマンだ。


「ヒロ、今日は何人目?」

「さん…いや、5人かのう」

「疲れたでしょ、お風呂入りな」

「一緒入ろ」

「いいよ」


ヒロの城はここよりもずっとずっと広い。金持ちの客が与えたマンションの一室で、毎日好きな時に食事も掃除も洗濯もなにもかも、ヒロの望んだタイミングで出て来るようなお城。そんなお城にたくさんの客が出入り。ヒロの仕事場でもある。だからたまに息苦しくなって、ヒロは私の家に来る。ヒロの写真が壁中に貼られた、私の家に。廊下もキッチンもトイレも、お風呂場にだって、全部ヒロしかいない。


「俺がたくさん」

「そうね。嫌?」

「んーん」

「来た人はね、私のこと気味悪いって言うわ」

「俺は?」

「貴方の写真買いに来たのに、そんなこと言うわけないじゃない」


ヒロの写真や映像は、ある界隈では300円からマンションもフェラーリも買えるような値段で取引されることもある。だからお金には困らない。私は美しいものを撮っているだけで、お金をもらっている。これ以上の仕事はない。幸せ、なのかもしれない。白濁の入浴剤が入った湯に浸かる、ヒロを撮る。


「ヒロ、晩御飯は何にしようか」

「焼肉」

「じゃあアイツに美味しい焼肉食べたいって甘ったるく喘ぐのよ」

「わかった」


ヒロは女も男も相手にする娼夫なのだ。ホストをやっていた時もあったけど、派閥争いだとかに辟易したらしい。目の前でテレフォンセックスをするヒロを撮る。今度は動画。甘い声が、浴室に響く。







「んん、美味い」

「ねぇ、さっきのイッた?」

「ちょっとだけ」


あーあ、お風呂の水が洗濯に使えないじゃない。届けられたお肉や野菜を焼いていく。でもまぁ、この満足そうな顔が撮れたので良いとする。


「お前さんは綺麗なのが好きなん」

「うん。ヒロの友達にも、綺麗な子がいたね」

「アイツはプライドが高いからだめ」

「ヒロは?」

「お前さんの1番であるくらいには、プライドある」


そうだね、ヒロは私の1番。永遠に美しいヒロは、私の1番だよ。







「アレ食べる?」

「うん」

「無くなったから、買っといたよ」

「ありがとさん」


焼肉を堪能したら、デザート。冷たいそれをもぐもぐしてるヒロを、撮れない。こればかりは、撮れない。口端に着いた茶色を拭いてやると、鼻を啜る音が聞こえる。


「芥子いれすぎ」

「ごめん」

「すっぱいし、しょっぱい」

「ごめんね」


それでも食べ続けちゃって、なんだか妬ける。







『ンッあ! そこ、は、ひああっ!』


真っ暗闇の中、パソコンの明かりが煌々としている。今日中に編集しなければ。ノイズを消して、映像をクリアにして。男の下品な汚い声が聞こえるが、私やヒロの大事な客なのでコイツの声は消せない。一度ヘッドフォンを外し、眠気覚ましのコーヒーを飲む。


「ん、ふぅ…う、うう」

「ヒロ?」


ヒロはベッドでうなされていた。涙を流しながら、身を震わせている。よかったね。かわいそうになるくらい愛されている夢に、うなされているのだ。


「あ、やだっ…ヒ、――」


ヒロの身体に跨がった。寝間着のハーフパンツを脱がし、熱い箇所を触ってやる。ヒロはまだ夢から覚めない。小さく喘ぐヒロの綺麗な白い肌に手を這わせ、性感を高める。敏感。笑っちゃう。本当、綺麗。


『ヒロシ。ヒロって呼んで』


「はぁ、ンンッ」

「嘘つき」


本当はヒロシでもヒロでもない。ちゃんと名前があるってことも知ってるけど、呼んであげない。それはヒロ自身のためでもあるし、私のためでもある。ヒロの瞼に手を当てて、焦らすように触れてあげる。


「気持ちいい?」

「ん、きもち、い」

「はは、どうしようもない」

「暗いのや、だっ、」

「淫乱」

「ちがっ、さみ、しい」


ヒロ、ヒロ。

友達も家族も、みんな君のこと心配してるし嫌ってなんかないんだよ。堕ち切った君を外の世界なんか知らないように、依存させて、一人ぼっち。泣いた顔も凶悪にかわいいし美しいよ。君が愛してやまないあの人は、いつまでも待ち続けてるよ。だって、君とは正反対に真面目だもんね?でも会ったら君、死ぬべきなんだよ。


「だってそんなの美しくない」







「ヒロ、起きて」

「う、……?」

「お客さんだよ」


目が赤いのはいつものこと。いつも通り優しく起こしてやると、手を伸ばしてくる。抱きしめてやると、赤ちゃんみたいな匂いがする。


「いい加減離れて」

「やだ」

「もー」

「ん、ん、まだ…」

「ほら、待たせてるよ」


朝はいつも甘えてくるヒロを玄関まで連れていく。扉を開けてやる前に、振り向くとヒロはきょとんとしている。ヒロ、きっと驚くよ。


「なに、だれ」

「ちゃんと挨拶しようね」

「え」


「仁王くん…」

「!!なっ、え、」


ぶわ、と号泣したヒロはへなへなと倒れそうになったところを、青年が抱き留める。ヒロはぎゅうと青年に抱き着いて離れない。青年も優しく抱きしめていて、スーツが濡れるのも構わない。


「心配、致しましたよ」

「ふっ、うう、ぐすっ」


ぐちゃぐちゃになったヒロは青年に縋るようにして泣き続けている。その顔もちゃんと撮る。青年は困ったような顔をして、ヒロの身体を離した。


「仁王くん、私はもう――」

「え…?」

「ごめんなさい」

「……そっか」

「仁王、くん」

「いい、いい、お前さんが幸せなら…俺は…」


ああ本当に、







「はぁ、はぁ、はぁ」

「そんなに一人でシちゃって、水くらい飲まなきゃ」

「んぅ、」

「大丈夫?」

「あの匂い、忘れたく、ない…」


青年の薬指を切り落としてしまえたら、ヒロは幸せになれたかもね。ヒロはまた快感で身を震わせている。会えてよかったね。決定的な失恋をしちゃったけれど。そうしてさらに美しくなって、堕ちちゃって。


「仁王雅治くん」

「あああ、ッ!」

「名前呼んだだけでイッちゃうなんて」


噛み付いた首筋に血が滲んだ。わざとなんだよ。私が茶髪のショートにして、時折眼鏡をかけるのも。その物欲しそう視線に気付かないフリをして、1番望んでいるものをあげないのも。一面の壁には君、そして私。ベッドに深く沈んで、もう起き上がらなくたって良い。嘘つきは美しい。美しい、好き、好き。


「ひとりにしないで」

「うん」

「抱きしめて」

「もちろん」

「俺だけを撮って」

「1番、美しいよ」

「俺のこと愛してる?」

「はは、面白いこと言うね」


私は君を恋愛感情として好きになったことなんて一度もないんだから。絶望した顔、美しい君を永遠に愛してる。