指を通せばサラサラしてるであろうあの美しい髪、スポーツ鍛えられた逞しいお身体、そうかと思えば繊細で細長いあの指!銀フレームの眼鏡も知的な雰囲気をよりいっそう強くさせて。でもそれだけじゃなくて、優しさと誠実さも兼ね備えてらっしゃるの。頭からつま先まで、そして内面にいたるまで全てがステキ!芸術の域に達しているあのお方!…ああ、今日もヒロシ様は麗しい。


「…きっしょ」

「きちんと日本語をしゃべってくれないかしら、仁王くん」

「あんな生真面目、よくそこまで熱狂的になるのう」


ヒロシ様とダブルスを組ませてもらっている身分でよくもそんなことが言えるわね!私が代わりたいくらいだと言うのに!まぁ、足手まといになってしまうから、いつも遠くから応援するだけだけど。


「そんだけ俺に噛み付けるんなら本人にだって告白できるじゃろ」

「なっ何言ってんのよ!ばかじゃないの!?」

「いたっ!あーもう、落ち着け」


ヒロシ様に告白だなんて!そんな恐れ多いこと!!したい。でも出来ない。この複雑な乙女心を理解出来ないなんて、何でコイツ人気があるのかしら?全くもって理解不能。それに対してヒロシ様は。風紀委員の時も堅物委員長とは違って怒鳴らないのよ。あくまでも論理的で優しいご指摘。ウットリしちゃう。


「きもい」

「アンタの方が気持ち悪いのよこの白髪!」

「中山…」

「あら気に障ったかしら。でも悪いのは規則を破る仁王くんなんだからね」


染める色、考えた方がいいと思うわ中二病くん!そんな私は風紀委員。何の役職もついていないけど、もしヒロシ様が委員長になるってことなら絶対副委員長やってたわ。だいたい風紀委員になったのも、ヒロシ様目当てなんだから。こんなことヒロシ様にバレたら不純だって軽蔑されちゃうかしら?たぶんヘーキよね、ヒロシ様優しいし。ちょっと困った顔をなさるだけ。ヒロシ様の…困った顔…。


「あーっステキ!ワンダフル!」

「中山、いい加減静かにしなさい」

「じゃあ静かにしますけれど。先生、問2の答えが間違ってますわ」


そういえば授業中ってことを忘れてたわ。隣の仁王くんは「コイツ性格悪い…」とか言う。意味がわからないわ。ペテン師に言われたくないわよ。あーあ、こんな性格最悪で素行も悪くヒロシ様を困らせてばっかりの暗黒面に堕ち切った仁王くんなんかが、ヒロシ様の親友だなんて!嘆かわしいこと。本当に、ヒロシ様は寛容な心の持ち主だってことが伝わるわ。まるで悪魔と天使。ヒロシ様の素晴らしい性格によって、この目の前の悪魔がヒロシ様みたいに更正されることを願うわ。だからと言って、仁王くんなんかに惚れませんけれど。


「お前さんみたいな女、絶対付き合いとうない」

「告白してもいないのにそんなこと言うの、やめて下さる?不愉快よ」

「…へーへー」

「私は前世も現世も来世も!ヒロシ様に永遠に恋するのよ」

「きっしょ…」

「相変わらず日本語が不自由ですこと!さぁ、仁王くんは真田くんに呼ばれてるはずよ」

「何で中山がそれを…」

「連行するように頼まれたのよ。さぁ早く!仕事を増やさないで」


数学の授業がやっと終わって昼休み。いつもならヒロシ様が1番よく見える場所でランチを頂くのだけれど、今日はこのバカのせいで風紀委員のお仕事。あーあ、嫌になっちゃう。ため息を盛大につきたい気分。でもそんなことしたら、身体に悪いわ。仁王くんをさっさと真田くんに渡してしまって、私はヒロシ様を応援したい。


「失礼します。真田くん、仁王くんを……」

「おお、」

「ああ中山さん、仁王くん。真田くんから話は聞いていますよ」

「ヒ、…柳生くんがどうしてここに?」

「真田くんは先生に呼ばれているので、代わりは私が引き受けたのです」

「あ、そうなんですか」


真田くんナイス!ああ〜こんなに近くでお話するの今朝の挨拶ぶりだわ。感激すぎ!ヒロシ様の後光が見えるわ…クラクラしちゃう…。それに、いつものくせでヒロシ様って呼んじゃいそう。気をつけなきゃ。仁王くんは気持ち悪いと言いたげに私を睨んでる。仕方ないでしょ!ヒロシ様だなんて恥ずかしいし、好きってことバレたら、やっぱり恥ずかしいし。


「中山、ちょっとお前来い」

「なっなあに…?」

「まぁまぁ」


にやにや笑う仁王くん。腹立たしい。肩を抱かれて委員会室の隅の方へ連れていかれる。そんなにくっつかないで!とも言いたいけど、ヒロシ様の前で大きな声出せないわ。でも勘違いされたらどうしましょう…!ああそんなこと不安がったって、ヒロシ様には関係ないわよね…うう…。ちょっと悲しんでいると仁王くんが囁いてくる。…ドキドキしているなんてありえない。


「お前さん、柳生に告白せんの?」

「え!?」

「どうなの」

「…そそそりゃ告白したいけど」

「それじゃあ俺が協力しちゃる」

「ええ!?」

「うるさい。ま、俺の言う通りにすれば絶対上手くいく」

「………」

「柳生の親友の俺だ、任せてみんしゃい」


片端だけで笑う仁王くんはやっぱり悪魔みたいだけど、協力してくれるのはありがたい。ああ、ヒロシ様に告白するために悪魔に魂を売るんだわ!でもしかたない。意を決して頷くと、「決まりな」と耳元でリップノイズと共に囁かれた。ヒィィイ!もう何なのよこの軽い男は!いやらしい汚らわしいッ…いや、顔は美しい方だとは思う。ヒロシ様には負けるけど。







「…さん…中山さん、大丈夫ですか?」

「ああっ!申し訳ありません!ちょっとぼーっとしてて…」

「いえいえ、珍しいですね」

「はい…」


あああヒロシ様。にっこり微笑むヒロシ様。麗しい。もう恥ずかしくって見ていられないわ!いやでもガン見。結局その後仁王くんはのらりくらりと注意をかわして帰ってしまった。なんてヤツなのかしら!でもこんな状況は悔しくも仁王くんのおかげなのよね…。仁王くんが帰ってしまったこと、それを仕方なく真田くんに報告しに行ったら仕事を頼まれてしまった。そうして委員会室で作業をしていると、忘れ物を取りに来たらしいヒロシ様がついでに手伝って下さっているというわけ。幸せ。


「あともう少しで終わるでしょう」

「あ、本当ですね」

「早く終わらせてしまいましょう」


残念。だなんて言えない。そうよ、欲張ってはダメ。今の最高にステキで幸せなシチュエーションで満足するのよ!窓から差し込む夕暮れによるオレンジが、二人で作業する委員会室をちょっぴりセンチメンタルにさせるの。すこし埃が舞って、光のおかげでキラキラしてる。ああ、また掃除しなくっちゃ。ヒロシ様と二人っきり。好きだなぁ。


「何か?」

「へっ?」

「ああ、特にないようでしたら良いのですが」

「あっハイ」


作業を再開してしばらくすると、携帯が震えた。校則で校内は携帯の電源を切るはずなのに。え…私?ヒロシ様なわけないものね。いやでも私はきちんと切っているはずだし…。伺うようにヒロシ様を見ると、察したヒロシ様は慌てて携帯を出した。不思議そうに携帯をいじるヒロシ様、少ししてから頭を抱えてしまわれた。どうしたのかしら、携帯のことなら気にしなくてもいいのに。


「すみません、電源を切っていたつもりだったのですが…」

「いえ、それくらい誰だってあります」

「……あの、少し休憩しませんか?」

「あっ、疲れましたよね。もう終わりそうですし、あとは一人でやります」

「そうではなくて、」


「貴方と少しお話がしたいんです」と笑ったヒロシ様。あああもう、ステキすぎて鼻血が出てしまいそう。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -