結衣ちゃんは、かわいい。なんでって、どこがって、そんなの言葉で表現できない。でもすごくかわいい。見ていて幸せになる。だからついつい授業中も気がついたら結衣ちゃんを目で追っとった。それをし始めた高一の春、ブンちゃんにそういうのが恋の始まりだと言われた。いや、1番のきっかけは放課後、忘れ物を取りに教室へ戻ると曲がり角で結衣ちゃんにぶつかった。結衣ちゃんがぶつかったはずみで後ろに倒れそうになって、俺は反射的に抱きかかえるように庇った。


『うっ、わわ!(近っ!)』

『に、おくん!ごっごめんね!』

『いや、俺こそ…っ』

『仁王くん…?え…仁王くん…?』

『う、うー…』

『にっ仁王くん!?』


まず最初に思ったのは、女の子がやわらかくて良い匂いがするってこと。そして女の子とあんなに密着したことはなかったから、ぶわっと一気に身体が熱くなった。いつものポーカーフェイスを気取るのも忘れて、情けなくもへなへなと力が抜けてしまった。結衣ちゃんはそんな俺に戸惑いつつも、「だ、大丈夫?」と心配してくれた。


『だいじょぶじゃない…ナリ…』

『っ!…仁王くんて、意外とかわいいんだね…』

『!!』


そう言われたのは初めてで、情けない姿を曝して言われるとも思わんかったから。恥ずかしさとよくわからないドキドキが、頭を占領していたのを覚えとる。







朝起きると、携帯のランプがチカチカと光って開くとメールが一件。カーテンからゆるく注がれる朝日が眩しくて、伸びをひとつ。…あー、まだねむいナリ。もぞもぞしながら結衣ちゃんからのメールを見て、頬がゆるんどる俺キモいかもしれん。けどもやっぱ幸せ。丁寧に返信メールを打って、起き上がって制服に着替える。本当は朝弱いんじゃけど、結衣ちゃんがメールや電話で起こしてくれるし、何より結衣ちゃんとの朝の登校が嬉しくて。若干着崩した制服と結んだ髪を鏡でチェック。朝飯も本当は食べとうないけど結衣ちゃんが食べた方がええ言うたから食べる。そんなこんなで約束の時間になって、結衣ちゃんとの待ち合わせ場所に向かう。


「中山先輩、一緒に行きましょうよ」

「ごめんね、待ってる人がいるから…」

「でもっ……その人が違う子と一緒に行ってるの、見ました」

「えっ!」


…ちょっと待てどういう展開!?いつものように待ち合わせ場所の喫茶店の前に結衣ちゃんはおった。けど、よくわからん後輩らしき人物が一人。眼鏡をかけとる……あっ、確か結衣ちゃんの委員会の後輩か。でも問題なんはそいつが嘘をついとること。嘘ついて、無理矢理結衣ちゃんの手首掴んで一緒に学校まで行こうとしとること。許せん、結衣ちゃんを助けてやらんと…!


「あれ、中山さん?」

「ゆっ幸村くん」

「きみ誰?何で無理矢理中山さんの手首掴んでるのかな」

「えと、こ、れは…」

「中山さん、行こうか」


…ちょっと待て何で幸村が。結果的に幸村が助けてくれたおかげで結衣ちゃんは無事だし、後輩は幸村が手刀で掴んどった手を離させとったし。万事オーケーだけど!何でそのまま結衣ちゃんと朝の登校しとるんじゃ。今更出て行けん。幸村と結衣ちゃんは今年度からクラスも委員会も一緒。教室で結衣ちゃんと話しとっても、たまーに邪魔するかのように委員会の話してくる。つか、さっき「きみ誰?」言うとったけど、自分の後輩でもあるじゃろ。ま、どうでも良いけど。…あーあ、一人で行くの、さみしい。







「仁王くん、今日は昼練あるの?」

「あっ、結衣ちゃん」


結衣ちゃんは朝のことをなんも聞かんかった。結衣ちゃんの子以外と朝一緒に行くわけないって伝えたい、けど、伝えたら「じゃあ何で助けてくれなかったの?」ってなる。いや、結衣ちゃんはそんなこと言わんと思うけど…。でもこの事実が1番嫌だと思うのは俺というか…ああ、何で助けられんかったんじゃろ!なんか、ああー…


「…結衣ちゃん…」

「どうしたの?その炒め物、美味しくなかった、かな…?」


昼休みは屋上で結衣ちゃんが作るお弁当を食べることになっとる。たまに、結衣ちゃんの委員会だとか、俺の昼練で一緒に食べれんこともあるけど。俺が情けない声を出すと、結衣ちゃんは不安そうに尋ねてきた。


「や、うまい、んじゃけど…」

「良かった」

「ほんで、あの、」

「…なあに?どうしたの?」

「ちゅー、したい」

「えっ!と…」


ああ、結衣ちゃん困っとるし…!突発的に言ったから、嫌がられるかもしれん。でも、朝一緒に行けなかったし授業中も席が離れとるから要するに昼までずっと結衣ちゃんと話せなくて、そのくせ結衣ちゃんがあの後輩に絡まれたり幸村と結衣ちゃんのツーショットばかり頭に浮かんどって、


「仁王くん…っ」

「あ…」


ぎゅっと俺のシャツを掴んで、頬を赤くさせていた。あ、していいんか。良かった…。思いきって結衣ちゃんの脇腹あたりに手を添えて抱きしめるように動くと、結衣ちゃんはさらに緊張した面持ちになっとる。付き合って半年経った今も、慣れんらしい。かわいい。まぁ、俺も緊張しとるんだけど。ちょっとずつ顔を近づけて、結衣ちゃんは目を閉じた。この時が1番緊張する。鼻息荒いとか思われとうないから少し息を止めてみたり。結衣ちゃんのくちびるまで、あと三センチ。


「「!!」」


ピピピッ!と着信音が結衣ちゃんのピンクの携帯から聞こえる。反射的に目を開けた結衣ちゃんは、お互いの顔の近さに思わず恥ずかしそうに顔を背けた。…なんちゅータイミングの悪さ。俺のときめきを返せ!と携帯に八つ当たりしたところで意味がないので、「出てもええよ」と身体を離す。身体を離した時、ちょっと物寂しそうな顔を結衣ちゃんがするもんだから、困った。理性的に。


「…はい、わかりました、じゃあ…」

「…何かあったん?」

「今日のお昼休み、委員会あったらしいの」

「え」

「仁王くんごめんね、今からでも行かなきゃいけなくって…それで、あの…」

「ん、結衣ちゃんまたな。お弁当美味しかったナリ」

「ありがとう、また後でね」

「…結衣ちゃん?」

「……っ、」

「!!」


結衣ちゃんは最後に爆弾一つ置き去りにして、お弁当を持って屋上を出ていった。頬が熱くて、後の授業は出られるんかと心配になった。急にほっぺちゅーとか、ズルイ。



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