「あれー、中山さんはお休み?」

「結衣ちゃん学校来てますよー」

「でもまだ戻ってないみたいね、保健室かしら」


結衣ちゃん、具合でも悪いんかな。机の下で携帯を操作するが、そういう連絡はない。大丈夫じゃろか。うーん、心配。一応メールを打っておく。するとすぐに、携帯がぶるぶる奮えとる。開くと、結衣ちゃんからの着信。あれっと思う。結衣ちゃんだって今が授業中くらいわかるのに、何で電話?


「…結衣ちゃん?」







電話を繋いだまま教室を飛び出して、委員会室へ。いきなり幸村に「幸村っ鍵!」と叫ぶ俺にみんなびっくりしとったけど、物分かりの良い幸村はサッと投げ渡してくれた。電話からは結衣ちゃんの声と、誰か男の声。変なコトされたら、どうしよう。いや、どうしようじゃなくて、俺は、


「結衣ちゃん!」

「に、お…くん」

「っ…」


今朝の、変な後輩が倒れ込んどる結衣ちゃんに跨がろうとしているまさにその時だった。身体が熱くなると同時に、頭だけは冷たくなる感覚した。怒り心頭って、このことかもしれん。

カチッ。




ぼくはきみだけの
番犬なの





「何しとんじゃお前さん」

「僕は…っ…中山先輩に、告白したかったんです!」

「…ほー」

「告白を邪魔する権利は、貴方に無いです」

「告白するんに、嘘で釣って委員会室に鍵までかけるたァ、たいそう本気みたいじゃのう」

「…悪いですか」

「悪いも何も、やりすぎじゃろ」

「ウッ!」

「結衣のこと押し倒して、何しようとしたんか言うてみんしゃい、オイ聞いとんのか」



一発殴ってから、胸倉を掴み上げると息を飲んだ後輩。まだまだ足りない。結衣を閉じ込めて、何をしようとした。触れるなんて許さん。コイツは、俺の結衣に―――。遠くの方で、結衣の俺を呼ぶ声が聞こえた。






「…ふ、んんっ、ぁ」

「はっ…」


あの後輩は悔しそうに出ていった。優しい結衣はその後ろ姿に告白の返事をしていた。後輩の足音が消えて、少しホッとした様子の結衣を後ろから抱きしめたのは五分前。真っ赤になる結衣の顔だけをこちらに向かせて息もつかせんくらい激しいキスをしとるのは、いつだったか。


「や、んんッ……そんな、しちゃ、に、おく、んっ」

「はっ、あ、結衣…名前呼べって言うとるじゃろ」


こんな風に乱暴にしちゃだめじゃろ、ともう一人の俺が言う。余裕でいられるか。結衣は俺の名前を吐息混じりに呼ぶ。もっともっと。あんなヤツに使っていた時間があるなら、俺だけに触れられてればええんじゃ。


「はあっ…まさ、はる…」

「なぁ、セックスしとうなった」

「えっ…」

「嫌なん?」

「嫌じゃ、ない、けど…」

「何」

「今の…雅治、ちょっと怖い…よ…」


だって、だって。


「…雅治?」

「…朝、一緒に行かれんかったし」

「うん…」

「俺じゃのうて幸村が、そんで、授業中も席が遠いから話せんし、」


「昼休みキスしようとしたんに邪魔されて、でもほっぺにちゅーしてくれて、」
「授業前に話せるって思っとったけど戻らんし」
「電話で聞こえた会話聞いたら、なんか、もう…ほんで来たら、押し倒されとるし、」


ずるずると壁づたいにしゃがみ込んで、立てた膝に顔をうずめた。結衣ちゃんのばか。結衣ちゃんが無事で良かった。まだ未遂で、良かった。好いとうよ結衣ちゃん。優しい結衣ちゃんが好きだから、悪くは言えないんだけど、出来れば他人に触れてほしくない。


「にお…あっ、雅治…」


本当は呼び方なんてどっちでも良い。俺を呼んでくれれば。俺に合わせてしゃがんどる結衣ちゃんは俺の頭を撫でて、「助けてくれてありがとう」と言った。それから俺の手を掴んで、自分の鎖骨あたりに置かせた。…え。


「…私もしたい、です」

「ええっ」

「雅治…の、深いキス…好きだよ」
「仁王くんの優しいキスも好き」

「どっちの仁王雅治にも、触れて欲しいの…っ」


小さく震える、かわいい中山結衣をそっと抱きしめて、出来るだけ優しくキスをする。少しずつ深くしていって、でも息つぎはさせてあげる。くちびるを離し制服に手をかけていくと恍惚とした表情が見えて、喉の奥で笑った。





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るんるんさんへ
大変、大っ変遅くなりました!
フリリクの中で最後という風になってしまって…すみません。難産でした。ですが楽しかったです!お気に召して下されば幸いですが、苦情感想承ります^^

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