「あっあの、仁王くん、」

「なん?」

「…ううん、何でもないっ…」


何でもないと言いつつなんか助けて欲しそうにびくびくしとる。もしかして、痴漢…!?サッと辺りを見回すけど、結衣ちゃんの後ろには扉、前には俺で、痴漢できるヤツなんておらん。不思議に思っとると、電車が大きく揺れた。その揺れで思い切り抱き潰すように体重をかけてしまう。慌てて身体を離そうとしたけど、驚いて身体が動かんかった。だって、結衣ちゃんが小さく喘いだように聞こえたから。顔を俯かせた結衣ちゃんは真っ赤にしながら咄嗟に口を抑えた。も、もしかして、今の、本当に?混乱しとると、結衣ちゃんは自ら俺の胸に倒れてきた。


「に、仁王くんっ…」

「え、結衣ちゃん、どうしたん?」

「きゃっ…」


耳元に顔を寄せて聞くと、びくっと結衣ちゃんが肩を震わせた。俺の一挙一動にびくついとる結衣ちゃんはかわいい、というか、いじめたくなる。ここまで考えてあれっ?と思った。結衣ちゃんをいじめ、たい!?何それなにそれナニソレ。俺ヘタレじゃしそんなん有り得ん。で、でも…。顔真っ赤にして涙目になっとる結衣ちゃんには、なんか、こう…ゴクリと生唾を飲んでしまう。それに、もっとこういう反応をさせたいっちゅーのが本音。もやもやいろんなこと考えとると、結衣ちゃんが俺を呼ぶ声で我に返った。


「あ、あのね、にお、くん…」

「うん?」

「に、仁王くんの、足が…」

「足?」


足になんか全く意識なかったから、そこに目をやると結衣ちゃんの足の間に俺の足が入っとった。もう一度結衣ちゃんを見ると「あ、当たっ…て、るの…」。あた、当たってるって、俺の足が、結衣ちゃんの、あ、あ、あそ、アソ、コ、に、


「ご、ごっごめん…!」

「仁王く、」

「(あ〜っ俺変態みたいじゃ!)」

「にっ仁王くんっ!」


思い切り自己嫌悪に陥ってたら、大人しい結衣ちゃんにしてはちょっと大きな声で呼ばれた。


「あっあのね、仁王くん、わかってイジワルしてるのかなって思ったんだけど…」

「ちっ違うナリ!」

「う、うん、仁王くんそんなことするひとじゃないし、」

「ほんまごめん、キ、キライにならんで…!」

「きっ嫌いになんかならないよ!」

「え、?」


「はっ恥ずかしかったけど、仁王くんにイジワルされても、」
「こわくないし、なんだか、変な気分…だけど、」

「そ、そういう仁王くんのこと、も、好き…だよ」


カチッ。

何かスイッチの、入る音。



「へえ?」

「に、にお、う、くん?」


俺は結衣の腰に腕を回して、もう片方の腕で結衣のちいさい身体を抱きしめながら後頭部に手を添えた。じっと見つめとると結衣は「そ、んな見ちゃだめっ…」と呟きながら俯いた。垂れた髪を耳にかけて、現れた耳に舌を這わせるとイイ反応。ふっと息を吹き掛けると結衣が震えながら俺の服掴む力が強くなった。


「イジメられたいん?」

「っ、え?」

「こうやって、恥ずかしくされたいん?」

「に、おう、くん」

「ほら、欲しそうな顔、しとる」


後頭部に滑らせた手を今度はサラサラしとる結衣の黒髪を撫でながら薔薇色の頬へ、首筋へ。とろんとした様子で俺に注がれとった目は、俺の指が結衣のブラウスの第一ボタンを外したとこで意識が戻る。


「な、何してっ…!」

「暑そうじゃった」

「暑くない、よ」

「それとも、熱い?」

「きゃっ」


見えた鎖骨からうなじまでベロリと舐め上げた。視線を横にやると近くの若いサラリーマンが真っ赤になりながらこっちを見取った。俺と目が合うと、慌てとる。盛大に舌打ちしてから、ガン!と扉を蹴った。俺たち周辺の男はみんな明後日の方向に目をやることにさせた。突然の俺の蹴りに相当びっくりしとる結衣に向き直ってニッコリ笑う。


「なぁ、結衣のこと、変な目で見とるヤツがおる」

「わ、たし?」

「そう」


結衣の頭を俺の胸に押し付けるとシャンプーの甘い香り。結衣の耳元に口を寄せて低い声で囁いた。


「見られて嬉しい?感じとる?」

「きゃっ!…ち、ちがうっ…」

「そんなこと言って、嬉しそうナリ」

「ああっ!、だ、めぇ」

「駄目、なん?嫌なんじゃのうて?」

「に、お…くん」

「やーらしい顔、しとる」

「い、じわる…」

「ほら、誰でもええの?こういうコト、誰にされても嬉しいんじゃろ?」

「ち、ちが、」

「嘘つきは嫌いじゃ。ドMでインランの結衣はどうされたいん?」

「にお、う、くん…っヒ、ドイよ…ぐすっ」

「こっち向いて俺の名前呼んで、ほら、結衣」

「ま、さはる…雅治が、好き、だからっ…」

「よく出来ました」


「結衣、もっと泣き顔見せて」










「ほんっっとうに!ごめん!!」

「仁王くんっ、もう頭上げて…!」


あれから最寄駅を知らせるアナウンスが入るまで結衣ちゃんと身体を密着させ、公共の場では迷惑というかかなり語弊があるような言葉を甘く甘く吐いていた。我に返った時には結衣ちゃんは誰が見ても正しく勘違いしてしまうくらい色っぽい吐息を繰り返しとった。そんな結衣ちゃんを問答無用で俺の家に連れ帰り、俺は結衣ちゃんをベッドに座らせて今までのケモノのような言動、行為を床で土下座して謝った。うう、自分でも恥ずかしい…!そういう願望があったなんて…!


「仁王くん、気にしないでいいから、ね?」

「でも、おれっ…」

「私、ちゃんといつもの優しい仁王くんのこと知ってるもん」


ふわふわと笑う結衣ちゃんは天使みたいじゃ。優しい。俺のヘタレなとこも好き言うてくれるし。


「それにね、最初は別人みたいな仁王くんが怖かったんだけど、途中からそんなに怖くなかったの」

「え?」

「だって仁王くん、耳赤かったから、ちゃんと仁王くんだなって思えたから」


うーわーそんな時まで耳赤かったとか格好つかん。かっこわる。ちょっとしょぼんとしとったら、結衣ちゃんは「安心したよ」と俺の頬を撫でた。


「仁王くんは気にしなくていいんだよ」

「そうかの…」

「だってね」

「うん?」


「さっきの、えっちな仁王くんも、」
「かっこよかっ…たし、好き」
「も、もし!仁王くんにそういう願望があるなら、わ、わたし、」
「仁王くんになら、そういうコトされても、いい、よ…」

「イ、イジワルでえっちな仁王くんも、大好き、です…っ」


カチッ。


スイッチが入る音




「やーっぱり電車の中で感じとった」

「きゃ、あっ」

「パンツは乾いとるけど、ナカはまだ濡れとるんじゃなか?」

「に、おうくん…」

「名前で呼ばんとキス一回」

「え?あ、ンっ!」


ベッドに無理矢理押し付けて、キスを貪る自分が信じられんかった。いきなりのキスに抵抗する間もなく舌を絡めとられて、ただされるがままの彼女が愛しい。少しだけ唇を離すと彼女の吐息がかかって、心臓だけはヘタレなのかバクバクしとる。唇を離しても舌を絡めたまま、舌への愛撫を繰り返しとると彼女がいやらしく鳴く。涙が零れた瞳を覗くとケモノになった自分が映っとった。


「やっ、んん、ま、さはるっ」

「結衣ちゃ、ん、結衣、ちゅっ」


俺に無理矢理されても嫌がらん彼女はマゾ、俺はヘタレかもしれんが心の奥底では彼女を目茶苦茶にしてやりたい。なら、たまにはケモノになってもええじゃろ。彼女が快感に震えながら俺の名前を呼び、首に腕を回すのを感じながらケモノらしく白い肌に噛み付いてやった。彼女の指が、俺の真っ赤な耳に愛しそうに触れた。





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郁斗さんへ
遅くなってすみません!
あまりヘタレが出せませんでした…すみません…!
ヘタレ仁王は難しいですorz
苦情は郁斗さんのみです。
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