『に、仁王くんっ…あったかいね…』


か、かわいかった…!

真っ赤になりながら俺の手にちっさくて白い手を乗せる結衣ちゃん。昨日初めて結衣ちゃんと手を繋いだ甘いメモリーを部活が終わって制服に着替えながら咀嚼していた。

俺と結衣ちゃんは付き合って三ヶ月目。結衣ちゃんはクラスで大人しめでピンクが似合う女の子。目がくりくりしててよく涙目になるんがかわいい。日直が同じになって、派手な噂がある俺に最初はびくついとったけど、少しずつやわらかい笑顔を見せてくれた。ああ、幸せ。俺はもう死んでもいいかもしれん。だって一年も片思いした結衣ちゃんと晴れて恋人同士、そして手まで繋いちゃった…!


「きっめえな」

「ブンちゃんにはわからんのじゃ、この綺麗な幸せが…」

「あーあ、俺も元カノとヨリ戻そっかなー」


ブンちゃんは汚れとる。だいたい登録されたメアドが女だらけの男がわからん。俺もそうだとよく勘違いされとるけど、違う。髪の毛も部活でのプレーも派手かもしれんけど、女の子に手出すことなんて、ムリ。本当は女慣れもしとらんしちょっとビビり、でもごまかしたり演技は上手いからそれを隠してポーカーフェイスを気取っとるだけ。それを窮屈だと思っとらんし、むしろ今は感謝しとる。結衣ちゃんは俺の派手な噂が怖かったけど、その実態が嘘と知って好きになってくれた言うとったし。ヘタレでも幸せは掴める。


「でもさー、手繋ぐのに三ヶ月って時間かかりすぎじゃね?」

「俺たちはええんじゃ、これくらいが」

「どうだかな」


ニヤッと笑うブンちゃんを見て首を傾げた。どういうことだとブンちゃんを見とると「もしかしたらなー、もしそうだったらイイかもなァ〜」と下品に笑った。何だか嫌な予感じゃ。


「なん、さっさと言いんしゃい」

「もしかしたら、不満に思ってるかも」

「…はっ?」

「仁王が手ェ出してこねぇこと、つまり、セッ」

「ちょ、ちょっと!何言うとるん?」


結衣ちゃんはそんなタイプじゃない。彼氏作るのも初めてじゃ言うとったし、清廉潔白、そういう類の話は顔真っ赤にして黙っとるタイプじゃ。この前も、友達から俺との話を聞かれて真っ赤になって涙目で「は、ずかしいよ…」と言っとったし。そういう時、俺は結衣ちゃん「そんなかわええ顔、他の男に見せたら駄目ナリ」と言ってキスして決め顔、なーんてマネは出来ない。心の中で悶絶の叫び声をあげるだけで、何も出来ん。ヘタレの不便なところ。


「恥ずかしい、ねぇ?本当かよ」

「…ブンちゃんしつこい」

「いやぁ?それって、お前とヤれてねぇのが"恥ずかしい"ってことじゃねぇの?」

「!?」


何それ。…いや、有り得るには有り得る。一応立海でモテる方の俺はさぞかし経験豊富でテクニックもあるんだろうと思われとる。そんな俺が結衣ちゃんとの経験がないことをいろいろ余計なことを言うヤツも絶対おる。それが、恥ずかしいってこと…?


「…そ、んな……」

「それに、上手くいってないようにも見えちまうからな。ヘタレは良いけど周りから誤解うんで中山傷つけるのも違うだろい」

「ブンちゃん…!」


ブンちゃんはけっこう考えとった。疑って悪かったと謝ると、丸井はまたニヤニヤ笑いをしながらこう言った。


「じゃあ、感想聞かせろよ」

「へっ?」

「もしかしたら中山、淫乱ちゃんだったりしてな〜」

「ハァ!?」

「中山をいじめまくって涙目でお前の下で喘いで、」

「っ、ブンちゃん!!」


俺はブンちゃんの言葉を遮って大声を出した。ブンちゃんは少し目を大きくさせてから、「悪ィ、冗談だって」と肩を竦めた。俺はカバンを掴むと急いで部室を飛び出した。真田が「静かにドアを閉めんか!」と怒鳴っていたけどそれどころじゃない。


"中山をいじめまくって涙目でお前の下で喘いで、"


"に、仁王くん…あったかいね…"




…くぅう、ナニソレかわいすぎる。これだから思春期は困る、と心の中で舌打ちした。俺は元々性欲だとかは少ない方だったけど、結衣ちゃんを好きになってから清楚系のエロ本が三つも増えてしまったことは死んでも言えないし、右手で結衣ちゃんと手を繋ぐのは気がひける。そしてただ今、俺の部活を待ってくれとった結衣ちゃんを扉側にして人込みから守るように立って15分。in満員電車。結衣ちゃんは心配そうに俺を上目遣い、そんな顔されると密着具合的にもなんかもうヤバイ。ていうか俺汗くさかったらどうしよ、あああ、テンパる!


「仁王くん、大丈夫?」

「…大丈夫ナリ」


ニッコリ笑って平静を装うと、結衣ちゃんは「無理しないで」と小さく言った。かわいい…。


「も、もうちょっと…」

「え?」

「近くに来たら、楽になるんじゃないかなっ…」


結衣ちゃんは真っ赤になりながらぎゅう、と俺の腰あたりのシャツを握りしめた。えっえっ、ほんまに良いんかな、それって公共の場で抱きしめるっちゅーことじゃし…。でも結衣ちゃんが"早く"という顔をしてたから、そっと身体を近づけさせて結衣ちゃんの顔あたりに手をついとったのを腕を折った。この密着具合、かなりヤバイぜよ。


「仁王くん、汗かいてる」


結衣ちゃんはトントン、と俺の額の汗をハンカチで拭ってくれた。結衣ちゃんの顔はまだほんのり赤い。ガタンゴトンと電車が揺れると、俺と結衣ちゃんの制服が擦れた。ああああなんかエロい。結衣ちゃんは疲れのせいかぽーっとしとる。


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