おいおいマジかよ。果たし状かよ。なんでなんで、私なんかしたかな。えー…。がっくし。何故ラブレターじゃないんだ。ラブレターであって欲しい。でも、こんな文の最後に夜露死苦と書いてあったら果たし状にしか見えない。不良の。っていうか暴走族?とりあえずやってらんねー。



パーソナリティ



「お前顔やばいぞ死んでる」

「果たし状もらった」

「果たし状とかまじウケる」

「ウケねえよていうか今テンションだだ下がりなの、黙ってブタ」

「語尾がブタとか終わってんな」

「お前のことだよ丸井!」



うざい。丸井消えろ。仁王はいつものように遅れて来る。告白を断っているからだ。何故だ。何故仁王にラブレターや可愛い告白が来るのに何故私には来ない。しかもたまにブタの下駄箱にもラブレターがこんにちは〜しているのを目撃する。そして今まさにブタがちらつかせているのはラブレターだ。ラブレター様様だ。



「ラブレターとか普通だろい?」

「何が普通なんだよバーカ。ああ、養豚場への招待状?あはは丸井ったらモテモテ〜」

「てめえぶっ殺すぞ」



まぁそんな感じで丸井といちゃいちゃ(笑)してたら本当におモテになる仁王が教室に入って来た。今日もラブレターがスクバからはみ出ている。嫉妬。



「俺がおらんとこでいちゃいちゃせんで」

「ブタ〜だ〜いすき〜お肉の中で1番好き〜」

「お前のこと本気で殺意わく時あんだけどどうすればいい?ねぇ、欲望に忠実に生きていい?」



ブタはともかくとして仁王のラブレターの数々を見つめた。可愛らしい封筒にハートのシール。私もこういう可愛い青春したい。可愛い封筒もらいたい。ぐだぐだ私がぼやいていると、仁王が不思議そうに首を傾げた。ナニソレ可愛い。だからモテるのか。くそう。



「お前さん女なんじゃからこういうラブレターは貰わんよ」

「なんで!」

「お前さんに渡すのは男なんじゃからしかたないじゃろ」

「あ」



今気付いた。だっせえだっせえと騒ぐ丸井は無視だ。じゃあもしかして!これもラブレターってこと!?喜び勇んで私の今朝届けられたラブレター(仮)をスクバから捜す。あれ?無い。いや机になんか手紙らしきものがあったのでたたき付ける。ラブレターなら何でもござれな仁王がそれを鑑定する。仁王はじっと見つめてからため息をついて首を振った。



「果たし状じゃな」

「NO!なんで!」

「だってここにある名前、俺と丸井のファンクラブの会長じゃけえ」

「………」

「だっせえ」



ショック。私は机に突っ伏した。もう何も見えない。仁王は私の頭を撫でてくれた。優しい。さすがモテる男。丸井は私のスクバからお菓子を奪おうとしている。さすがブタ。とりあえず殴る。



「いってえ!」

「ていうか夜露死苦なんて書くファンクラブ会長見たことないんだけど」

「夜露死苦?そんなもん書いとらんよ」

「ええ?」



よく見ると今朝のものとは違う封筒だ。可愛い封筒だ。でも中身は本物の果たし状だなんて、ギャップ萌えもいいとこだ。そんなギャップ萌えはいらん。私はたった一つの愛が欲しい。ていうか今の一言で二回も呼び出されることが決定した。身がもたない。それに夜露死苦レターはどこだ。ああ、教科書に挟んでた。もうダメだやる気ない。生きる気ない。



「じゃあ死ね」

「もう嫌だ丸井がこんなこと言う〜」

「よしよしお前さんも楽になれ」

「私に死ねと?もう良い仁王なんか知らない」

「え〜ブタと一緒なんか嫌じゃ〜」

「仁王てめえぶっ殺すぞ」



こんな風に身も心もズタズタな時は幸村くんを見に行く。あの素敵な微笑みで私を癒してくれるに違いない。どうか癒してくれ。廊下に出るとそんな王子様幸村くんと柳がいた。神様ありがとう。私はふらふらと覚束ない足取りでそちらに向かうと、幸村くんが気付いてくれて手を振られた。全力で振り返す。



「どうしたの?顔死んでるよ」

「きゃあああ」

「おい俺に抱き着くな盾にするな」

「ふふ、面白いね」



だって今私の頬に手を置くんだもん叫びたくなるよね。自然すぎてびっくりした。まじで王子様だな幸村くんは。その拍子に夜露死苦レターと可愛い果たし状が落ちた。拾ったついでに幸村くんが読んだ。あれ?駄目だよ幸村くん勝手に読んだら。とは言えない。手紙を読む時に影が出来る程の長い睫毛、幸村くんは美しい。柳は私を引き離そうとはせずに幸村くんと手紙を読んでいる。柳がふむ、とか言ってる。だから駄目なんだよ勝手に読んだら。



「君も大変だね、仁王と丸井のとばっちり」

「ですよね!」

「しかしもう一つの果たし状の字には見覚えがある」

「夜露死苦レター?」

「言わせるな」



いやん柳が冷たい。そんなことをしていると二人は真田に声をかけられていた。私は規定外のカーディガンや髪色に真田から文句を言われると面倒なので退散する。ちなみに金髪だ。丸井や仁王の髪色に負けらんないしね。無駄な張り合いまじウケる、私たち馬鹿だ。B組に戻ると仁王と丸井がお菓子を食べていた。朝からスナックなんてヘビーだな、と思いながら私もつまむ。



「…あれ?これ私のじゃない?」

「そうじゃない?」

「おい丸井ィイこれ放課後食べようとしてたんだけど!」

「でもお前呼び出し二個あんじゃん」

「…あああもういいや食べよ食べよ」



ふて腐れてバクバクお菓子を食べていると丸井に「デブるぞ」と言われた。お前だけには言われたくないんですけど。仁王は指についた塩を舐めとってたけど、何か思い付いたのか「んー」と声を漏らした。ていうかエロいよ仁王。周りの女子が写メっているのに気付けよ仁王。



「こっちの呼び出し、俺達が行っちゃるよ」

「俺、たち!?俺も入るのかよ!」

「当然ナリ」

「えっ…うそ、まじで!」

「俺は嘘つかんよ」

「いや今嘘ついたよね詐欺師だよねアンタ」

「……もう行かん」

「うそ!冗談!仁王まじ天使!」

「まぁな。俺らのせいだし、行っちゃるよ」

「はぁー俺もかよーめんどくせえよーあーあー」

「やばい…仁王…かっこいい…」

「惚れた?」

「惚れた惚れた!」

「じゃあ付き合うか」

「うん!いたっ!何すんのよ丸井ー」

「やめろよ?まじでそういうのやめろよ?絶対許さねえから!」

「男の嫉妬は醜いのう」

「本当だよ丸井。でも許さない、だって。ロミジュリだね、引き裂かれた二人!的な」

「こうして二人の愛は深まるのであった…」

「であった…」

「もうお前らなんか知らないまじで知らないからな」

「あー丸井が拗ねたー」



私が「冗談だよね〜」と仁王に言うと仁王は鼻歌まじりに携帯をいじってるので無視された。ちょっと合わせてよ。丸井はぶーぶー文句言いながら私に抱き着いてきた。とりあえず頭を撫でておく。それに気付いた仁王も抱き着いてきた。なんだコレ。視線痛すぎ。



「お前…」

「なに?」

「胸、けっこうあるんだな」

「シャラップ!」

「すいませーん…あ、いたいた。ちょっとアンタ!」

「え?私?」

「そうそうアンタだよ」



セクハラ丸井を引きはがしていると天パの中二が現れた。私に用があるらしく呼ばれた。しかも廊下に出ろと。もしかして夜露死苦レターの子かもしれない。



「だれ?」

「切原赤也っす」

「へぇ、この手紙の子?」

「そうっす」



切原くんはポッと頬を染めた。可愛いなこの子。しかし手加減は出来ない。ギュッと拳を固くした。ていうか公衆の面前で決闘なんて良いのかな。



「あの、それなら手紙見てわかると思うんすけど、俺と付き合って下さい」

「………うん?」

「…え?手紙見てねえの?」

「なんか誤字脱字あるし、ていうか放課後じゃないし、…切原くん何しに来たの?」

「放課後まで待ち切れなくて告白しに来た」

「えーっ、ていうかラブレターだったの?これが?夜露死苦ってあるけど…」

「先輩不良らしいから書いときゃいいかなみたいな?」

「何そのバカな発想可愛いんだけど」

「なら付き合う?」

「えーっ…」

「えー」

「「……」」



沈黙。しかし空気を読まない丸井はお構いなく「あー!」と叫んで私のスクバやらを引っ掴んで切原くんに突進した。ぐへっと倒れ込む切原くん。丸井は引き続き「仁王!」と叫ぶと同時に私の腕を掴んで走り出した。仁王も重い腰を上げて後ろで走ってる。振り返ると「すまんの」とウインクしながら言って、クラスの女子に事態を収拾するように頼んでいた。さすがだ。

5分後、私たちは校庭にいた。一限目からのサボタージュ決行である。本鈴が鳴るのを聞きながら校門を出た。



「何で?」

「だって今日一限目から数学の小テストあるって気付いたんだよ」

「それだけで一限目からサボるの?バカじゃん?」

「うるせー」



まぁいいか一日くらい。ていうか丸井のせいで切原くんドンマイなんだけど。ごめんね切原くん。とりあえず私たち三人は仲良く数学の小テストを後日受けることになってしまった。めんどくせ。数学が得意な仁王はぶつぶつ文句を言っている。



「つか学校出たはいいけど何する?」

「考えてない」

「うわ最悪」

「カーディガン買いたい」

「え?」

「カーディガン、袖ボロボロなった。買いたい」



仁王、それアンタが袖伸ばしまくって着てるからだよ。でも仁王が珍しく提案したので「じゃあカーディガン買いに行くかー!」と無駄にテンションを上げて街に出る。私は丸井に言わなければならない。膨脹色のカーディガンはやめた方がいいと。でもまた丸井はバカみたいに騒いで膨脹色のカーディガンを選んでいる。



「俺これからピンクのこといちごみるく色って言うわ」

「なんで?」

「俺の可愛さが引き立つから」

「死ねよ」

「生きる」

「じゃあオソロにしよ、いちごみるく色」



また仁王が意味のわからない提案をしたのでカゴには同じ色のカーディガンが三つ。会計を済ませると丸井はドラッグストアに行きたいと騒いだ。根元、若干黒いもんね。



「俺、青にしよっかな」

「は!?丸井が!?」

「うん」



死んでも赤にすると中一の時に言ってたのに。仁王も驚いて銀の毛染め粉を落としている。丸井の赤い頭を撫でると、しゃがんでいた丸井がこちらを向いた。



「だってお前、幸村くん好きだろい?」

「うん」

「じゃあ青にする」

「ええっ」



仁王もそれを聞いてから黙ってカゴに青の毛染め粉を入れた。ええナニソレ。じゃあ私も青にしようっと。あれ?結局オソロじゃん。



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企画「3年B組」に提出
楽しかったです!
丸井仁王ヒロインのあほで馬鹿やってる感じ大好き。


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