※成人設定



蔵が来る前に、違う服に着替える。黒のV字カットのシャツにデニムのミニスカート。鏡に映った自分の姿。うんうん、我ながらセクシー。決して蔵好みじゃない、セクシーなお姉さん。アイラインとマスカラで目を黒く大きく、やり過ぎないように綺麗に。ぷるぷるになる甘い香りがするピンクのグロスを塗って完成。蔵の大嫌いな服装で、蔵の大嫌いなメイクで蔵を待つ。



「おーい、入るで」

「いいよ」

「……うん?」



蔵は部屋に入って来るとギョッとした顔をしてから、少し眉間にシワが寄った。はは、嫌そうな顔。でもそんなの知らない。私はそれを見てみぬフリをした。



「何?どうかした?」

「その服、だいぶ前に俺イヤて言うたやんか」

「ごめんね」



私が素直に謝るとちょっと気分を良くしたのか、少し笑って何も言わずに上着を脱いだ。馬鹿な男。ていうか男はたいてい馬鹿だ。こっちが下手に出たり謝ったりすると支配した気になっている。



「久しぶりにお前にゆっくり会えて嬉しいわ」

「蔵は忙しいもんね」

「すまんなぁ」

「いいよ、会えて嬉しい」



蔵は忙しい。浮気してるから。蔵は私の隣に座って抱きしめてきた。今日も私があげた香水とは違う香りのする蔵を抱きしめる。蔵は私の髪を撫でて、ため息を吐いた。突然、蔵が口を塞いできた。ペロリと唇を舐められて深いキスをたくさんされる。蔵の熱い舌が私の舌とぶつかって、絡めとられる。私の頬をがっちり押さえてるから逃げられない。蔵の熱い吐息が頬に当たってうっとうしい。突然されて何だかされるがままになってるのがムカついて思い切り蔵の手を叩いた。



「何」

「す、すまん…」



私は思い切り嫌そうな顔をした。蔵の悲しそうな顔。笑える。蔵とは高校からの付き合いだ。もう長い。私にしては珍しく続いた。蔵は昔からどこに行ってもイケメンでカッコつけてる。まぁカッコイイんだけど。でも私の前じゃこんなに弱気だ。きっと私が変えてしまった。ちょっと優越感。



「キス、したいねん」

「………」

「あかん?」

「たくさんして」



私がそう言うと蔵はニッコリ笑って唇を重ねた。今度は丁寧にキスを始めた。触れるだけキスはくすぐったい。私が舌を出すと擦り合わせたり愛撫してきた。唾液が混ざって、いやらしい音。蔵は興奮したのか私の身体ごと引き寄せて密着させて、せわしなく私の背中やお腹を撫でた。うっとうしい。でもさせておく。蔵の手が私の頬を通過して後頭部を支えた。指が私の小さな耳に触れた。



「んっ、ふぅ…くら?」

「…お前、ピアス、」

「そう、開けたの」

「開けんでって、俺言うたよな?」

「だから何」

「……なんも、あらへんけど…」



キレてみた。わざと強い口調で言ってみた。すると蔵は戸惑うような顔をして、情けない声を出した。そんな蔵を心の中で鼻で笑った。気を取り直して「似合うでしょ?」と微笑むと、安堵した顔で曖昧に頷かれた。以前蔵は私がピアスを開けることを本気で嫌がっていた。でも昨日開けた。蔵は許してないけどね。



「お前とのキスが1番気持ちええ」

「なんで?」

「俺あんまキスん時にガツガツされんの苦手やから」



1番って、誰と比べてんだよ。まぁいいけどね。どうせキスの時にガツガツしてる女は、昔隣のクラスのヤリマンだろうな。ていうかまだキープしてんのかよ。蔵も飽きないよね。



「私も、蔵のキスが1番好き」

「ほんま?嬉しい」



それは本当のことだ。蔵のキスは、器用な舌が私の舌や口内を擦ったり吸ったりして気持ちいい。キスをする時の蔵の恍惚とした表情も綺麗。蔵のキスは特別。激しいキスも触れるだけのキスも好き。私は蔵が好き。私が褒めると、蔵は女の子みたいに嬉しそうに笑った。ムカつく。



「ねぇ、舐めて」

「ん、」

「違う、私の足」

「はっ?」

「舐めてよ、私の足」



勘違いして唇を舐めた蔵は大層驚いていた。そりゃそうだ、私はサディストなわけじゃない。でも、してほしい。困惑してぐずぐずする蔵にイラついて舌打ちした。また、びっくりする蔵。その顔ももう見飽きた。



「早く。出来ないの?」

「ど、どないしたん?」

「どうもしてない」

「いつもとちゃうやん、なぁ、落ち着こ?」



落ち着くべきは蔵の方だ。馬鹿みたいに焦ってる。私の顔を覗き込もうと、蔵はベッドから私の目の前にしゃがんだ。馬鹿ね。私はバレないように笑って、蔵の綺麗な顔面を蹴った。うっ、という声が聞こえて蔵は床に手をついた。信じられない、という顔をしている。可愛い。



「な、なんなん…怒ってるん?」

「違うよ、蔵に舐めてほしいだけ」

「せやけど…」



蔵は迷ってる。私の足を舐めることぐらい、少しのプライドが邪魔するけど、やってくれる。でも、蔵は横目で壁を見遣りながらもう一度私を見た。



「なんか、隣の部屋から、物音すんねんけど…」

「隣の部屋?ああ、猫飼ってるの」

「猫?ほんまに?」

「本当だよ。ねぇ、早く」

「…あんなぁ、」

「蔵のキス、好きなの」



だから、して?

私は蔵の耳元で気持ち悪いくらい甘く囁いた。こうやって囁いて理性だとかプライドとかを捨てない奴を私は知らない。私が白い素足を組み直すと、蔵はゴクリと生唾を飲んだ。親指をくわえて、そっと舌を這わせた。丁寧に一本一本舐めていく。ふくらはぎや足首、足の裏にも足の甲にもきちんとキスをして、唾をつける。ああ、興奮する。きっと私の下着は濡れてる。蔵も、興奮してる。私が優しく蔵の頭を撫でて止めさせると、蔵は名残惜しそうにもう一度舐めた。変態だ。私もだけど。蔵をベッドに座らせると、甘えたように私の腰に纏わり付いた。いつもこんな風に可愛いと良いのに。



「よかった?」

「すごくね」

「せやろなぁ、お前の顔、めっちゃエロかったで」

「そう?」

「なぁ、する?」

「ごめんね、今日生理なの」

「そら残念やわ」

「蔵のえっち」

「お前もやんか」



蔵は笑ってるけど、内心舌打ちものに違いない。別に身体目的じゃないだろうけど。すると電話がかかってくる。私だ。電話をとると、男だった。蔵の後輩だ。



「…ん?ああ、今はまだ無理。ごめんね」

「……」

「光は生意気なの、…え?あはは、わかってるって」

「……」

「はいはい、じゃあね光」

「光?財前か」



電話を切るとすぐに聞かれた。電話の間中、ずっと強く握られた手が痛い。「痛いよ」と振り払うと怒ったような悲しいような顔をした。



「俺以外の男、名前で呼ばんで」

「光に頼まれたの、ごめんね」

「せやけど、イヤや」



泣きそうになる蔵の頬を撫でると、その手を掴まれてキスをされた。こんなことどうせ他の女にもやってるんだろうなと思って冷めた目で見つめた。



「なぁ、俺んこと好き?」

「好きだよ」

「ほんま?せやけど今日みたいなお前、わからんねん…なぁ、聞いとる?」



聞いていない。こんなやり取りはもう何回もした。こうしたやり取りをし始めた時から、蔵の浮気が始まった。いつだってちやほやされて生きてきた蔵にとって、私みたいにフラフラして自分だけを見てくれないことが淋しくてしょうがないのだった。愛されたいから浮気するなんて、滑稽だ。



「なぁ、俺、」

「好きだよ」

「俺は愛しとるで」



嘘つき。蔵は自分のことの方が好きなんだよ。握られた手を黙って見つめていたら、恥ずかしがりもしない私の反応にため息をついた。私が蔵の手を離した時、蔵の携帯が鳴った。可愛い声がかすかに聞こえる。あんなぶりっ子が私の代わりなの?代わりにもならないって蔵が1番分かってるくせに。



「ほな、呼ばれたから行くわ」

「うん、またね」

「淋しい?」

「全然」

「………」

「うそうそ、来週会ってね」



蔵の大好きな甘えたような声を出すと満足そうな顔をして出て行った。あーあイライラする。ニコチンが足りない。机の引き出しからタバコを取り出す。いつもは部屋で吸わないけど、今は我慢出来ない。こんな姿蔵が見たら卒倒する。見てみたい。隣の部屋からまた物音が聞こえた。あいつわざとなんじゃないかな。そう思ってると無遠慮にドアが開かれた。



「うわタバコ吸っとる」

「嫌?」

「平気っすけど」



昨日光が来て、私の耳に穴を開けた。私は気に入っている。光は私の隣に座ってくると、突然キスしてきた。唇を離すと光が倒れ込んできた。危ないのでタバコの火を消した。



「何?」

「部長のキスの方がええの?」



可愛い。ふて腐れたような顔をした光は可愛い。私が笑って光の頭を撫でると嫌そうな顔をされた。



「なんで部長浮気するんやろ」

「なんでだろうね」

「こんなええ女なんに」

「そう?」

「俺と趣味合うし、料理上手いし」

「ありがと」



今の服装やメイクは光好みだ。光は蔵と付き合う前の私が好きらしい。まぁ付き合ってから蔵に合わせようとしたからいろいろ変わった。でももうそれにも飽きたけど。



「先輩、好き」

「私もだよ」

「ヤリたい」

「はは、若いなぁ」

「やって先輩が言うたんやろ」



私は光とのセックスが好きだ。蔵よりも。「そうだったね」と返すと光はニヤリと笑って私を押し倒した。ええ、私生理って言ったじゃん。



「嘘やろ」

「まぁね」



バレていたらしい。なんかもうヤることが決定事項らしい。元気すぎる。



「綺麗な黒髪やな」

「ありがと」

「染めんで」

「うん、わかった」



付き合う前、付き合っていた当初、蔵にも褒められたこの黒髪。いつもの私だったら、きっと染めていたのに、今の今まで染めていない。そしてこれからもきっと染めない。もう、蔵に褒められたから染めないのか、光に止められて染めないのか、わからなくなってしまった。きっとどこかで、お望み通りの愛で心を埋める彼を想った。







今頃だれかの綺麗な爪先を撫でている





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企画「浮気」へ提出。
遅れてしまって申し訳ありませんでした!(';ω;`)

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