「ハッ、なんでお前に一々言われなあかんねん」
「あんな、こっちが迷惑してんねん!」
「お前が迷惑しとるくらいで、なんで俺が帰らなあかんねん」
「ほんまうざい!死ね!」
「お前が死ね」
バチバチ。
睨み合うウチらからは火花の飛ぶ音がしそう。ほんまうざい。小さい頃はそうでもなかったのに。いつからこんなに突っ掛かるようになったんやろ。
「はよ帰って」
「何回言わすねん、カギないから家に入れんて」
「ウチん家来なくてもええやろ」
「近いからや」
「あんたをいっつも囲っとる女の子たちんとこ行けばええやん!」
「めんどい」
「……」
ウチの家族もみんな今日に限って帰るのが遅い。つまりはずっと光と二人っきりってこと。ため息が出た。光はまるで自分の家のようにソファーでくつろぎ、雑誌を読んどる。帰る気はないらしい。光は一個下の幼なじみ。家も近いし何かとよう絡むんやけど、最近はうざくてしゃーない。他の人の前やったら、クールぶって無口キャラやのに。ウチと会ったら「キモい」とか「ブス」だなんだ言いよって、喧嘩ばかり。ああ言えばこう言う。ほんまは仲良うしたいのに、光はウチに意地悪ばかりする。ウチやって、嫌なこと言われたら傷つく。
「なぁ、光ママいつ帰って来るん?」
「そんっなに俺が邪魔なん」
「そら邪魔や。はよ帰って」
「無理や」
「ウチやって用事あんねん、光がおると困る」
「……なんで」
「察して」
「…彼氏か」
チッと舌打ちをする光。意味わからん、被害こうむるのはウチなんやけど!最近、ウチは彼氏と上手くいっとらん。原因の一端は光。家族ぐるみで付き合いがある(ウチのママは光大好きやし)光はよく勝手に家に入り浸ることがある。せやから家に電話したりウチん家に来た時に、光がおるのが気に食わんらしい。ごもっともや。明日は彼氏ん家に行く予定。せやから明日のためにケーキを作ったりせなあかんのに、光がおると集中出来ん。
「さっさと別れろや」
「…は?」
「彼氏と上手くいっとらんのやろ?別れたらええやん」
「…誰の、せいやとっ…」
「ブッサイクな顔」
「っ!」
もう嫌や。なんでそないにウチに突っ掛かるやろ。ウチかて、彼氏と上手くいかんこと気にしとるしイライラしとる。神経逆なでするようなことばっかウチに言う光は意地悪や。悪魔や。…しかもブサイクて。わかっとるし、そんくらい。光はイケメンやから、ウチの顔は崩壊しとるて思うんはわかるけど。それにしてもひどい。
「………」
「反論しいひんの?」
「…も、ええわ」
「ふーん」
涙が、出そうになった。もう、ええわ。ウチはやることやろう。とりあえず晩御飯の準備をする。
「……光も食べる?」
「お前が作った飯なんて怖くて食べれへんわ」
「……」
親切で聞いてやったのに。最悪や。ほんまイライラする。その気持ちが包丁に表れる。野菜を乱暴に切っとると、光が台所まで近寄ってきた。冷蔵庫にあるミネラルウォーターを……口飲みてどんだけ家気分やねん。じとーっとこっち見とる気配があるけど、無視や。
「ん、」
「…は?」
「包丁貸し」
「なんでやねん」
「お前だけにやらせると怖いんや」
素直に手伝うって言い方出来ひんのか。でも、まぁ、顔色が変わらんあたりほんまにそう思っとるんやろな。悲しいことに。奪われた包丁は光が握り、料理をする姿は中々様になっとる。…このイケメンが。イケメン嫌いや。調子乗って、平気でいろんな女の子傷つけたりするんやもん。
「手ぇ止まっとる」
「え?あっ!……つ、」
「何してんねん、あほ」
「指切ってもうた…痛…」
「ボケッとしとるからや」
ハァ、なんて思いっきりため息をつかれる。なんやねん、年下のくせに大人ぶって。救急箱を取り出そうとすると、何故か光に包丁で切った方の手を掴まれる。
「…なん?」
「血、出とる」
「せやから絆創膏はるんやん」
「……」
「光?」
光が触れとる部分が熱い。急に黙る光に緊張する。それに、光の手を掴む格好が王子様みたいや。せやったらウチはお姫様?かっこわら。ウチは光を見つめることしか出来んでいると、傷口を見とった光が顔を上げて目が合う。嫌ーな笑みを浮かべとる。ニヤリ。そんな効果音が付きそうやった。
「…なっ…!?何してんねん、やめっ…」
「んー」
「舐めたら汚いやん!あ、あかんて…!」
「ちゅぱっ……うっさい…」
「や、やだっ…ひかるっ…」
「(かわええな)」
「痛ッ…光!」
「治療や」
事もあろうに光は、ウチの傷口を舐めとる。しかも指をくわえて舐め回しとる。キモい。っちゅーか光がこういうことしとると、なんか色っぽい。なんか変な気分になる。どんどん自分の顔が熱くなるのがわかる。しかも光の舌が傷口をえぐるように這うから、ちょっと痛い。光が離してくれた頃には、光の唾液で指はベタベタやった。
「な、何するん…!」
「別に。治療してやったんやから感謝しぃ」
「どこが治療や!ほ、ほんま何すんねん…」
「なん?感じたん?」
「なっ…!ちゃうに決まっとるやろ!あほ!」
「そらそうやろなぁ、処女やし」
「〜〜っ!もう!台所から出てって!」
「はいはい」
何やねん、ちょっと経験豊富やからって!ウチはほんまに好きな人とそういうコトしたいんやもん。別に焦らんし。でも、光がいろんな派手な女の子連れとる姿見ると、なんかモヤモヤする。焦っとるんやろか。
お肉と野菜の炒め物にご飯とお味噌汁。二人やし、簡単でええやろ。二人分の食器をテーブルに並べると、大人しく光は座っとる。引き出しから、光専用のお箸を出す。
「「いただきます」」
「…これ食べたら出てくわ」
「あ、もう光ママ帰ってくるん?」
「今日は両親も兄貴たちも帰らん」
「へ?」
「邪魔なんやろ?せやから友達ん家に行く」
あんなに出て行かないと言ってたのに今度はあっさりと言うもんやから、拍子抜けした。沈黙が続く。なんか、罪悪感。ちょっと戸惑ったけど、お箸を置いて口を開く。
「…泊まる?」
「……は?」
「光が嫌やったら…ええけど」
「彼氏は」
「…もう、気にせんでええから」
「なぁ」
「ん?」
「お前、彼氏と別れろや」
「なん、で」
「傷つくのお前やんか」
捨てられとうない。
ウチが今の彼氏と付き合っとる理由はそれだけやった。イケメンな彼氏は浮気しとる。ショックやったけど、我慢した。ウチなんか、所詮キープ。そんなん知っとった。せやけど、嫌われたくなかった。明日、彼氏ん家行くんはただのご機嫌取り。ウチの料理だけは褒めてくれたから。ウチは、持って行ったケーキが他の女の子が食べとるのを知っとる。
「あんな奴と付き合うの、あほだけや」
「あほ、やもっ…」
「泣くとか、めんど」
「…泣いて、へん、」
ウチは光が好きやった。
けど、どんどん自分の道を進んで女の子に囲まれる光に告白することなんて出来んかった。何よりも、幼なじみっちゅー関係が邪魔をした。ウチには浮気症の彼氏をフる勇気も、ずっと1番好きやった人に告白する勇気もあらへんかった。
「なぁ」
「…っく、なに?」
「………」
「ひか、る?」
「あんな…」
「…うん」
「お前と幼なじみでおるの、嫌やねん」
「…え……」
「あー、ちゃうから。そうやなくて……チッ…」
「ごめ、んなさい…」
「謝んな。だから、」
「…?」
「…好き」
「へ…?」
「お前のこと好きやから、幼なじみでおるのが辛い」
「…え、あ、」
「付き合え」
ぎゅっと掴まれた手。低体温の光の手がこんなに熱い。それを感じたらウチの頬も熱くなった。「…あー、」なんて言いながら顔を隠す光は、小さい頃の素直な光とリンクする。光はウチの隣の席に移り、ぎゅっと抱きしめた。
「急、すぎて…意味わからん…」
「…お前の泣き顔見てたら、言いたなった」
「光…」
「なんであんな奴に泣かされてんねん」
「…っ、う…」
「泣かすんやったら、俺が奪ったる」
急に素直になるなんて、卑怯すぎる。いつも憎まれ口ばっか叩くのに、今は優しく抱きしめられる。もう、涙はうれし涙に変わってしまった。
「返事」
「え?」
「返事、はよ寄越せ」
「……ウチが、」
「?」
「素直に抱きしめられとるこの状況が、返事」
「…ええ答えや」
耳元で小さく笑う声が聞こえる。ウチも光の背中に腕を回す。ああ、やっと捕まえた。
君だって、僕だって
(素直じゃないだけ)(それなら今度は一緒に素直になってみる?)
「そんじゃ、ベッド行きますか」
「…えぇっ!?」
「お前の脱処女っちゅー一大イベントせなあかんやろ」
「なっ、なっ…!あほやろ、ウチなんか相手して何が楽しいん!?」
「お前以外誰がおんねん」
「……(きゅん!)」
「ちゅーか、指舐めたあたりからやばいねん、正直」
「はぁア!?……っん」
「ちゅっ、…」
「ふあっ、んん……やめ、ひかぁ…っ」
「(えっろ…)」
「…っはぁ、光のあほー!」
「(顔真っ赤、かわええ。はよ犯したい)」
「(…なんか嫌な笑顔…!)」
---------------
企画 「君のとなり」へ提出
要望があれば、これの続編裏夢書くかも。