お買い物は大好き。
あたしに似合うものを欲しいだけ買えば、より一層あたしが引き立つでしょ?友達も、それから彼氏も同じこと。






「出掛けましょうよー」

「絶対に嫌」

「…ハァ〜」

「何よそのため息」

「何でもねえっす」



彼氏はイケメンでお金持ちでセンスが良くないと嫌だった。今の彼氏はその内二つは揃ってるけど、センスはあんまり良くない。顔もスタイルもすごく良いのに、活かしきれてない。今日はそんな彼氏の部屋でくつろいでいる。何故って暇だったから。赤也とはまだ付き合って三ヶ月しか経っていない。長く続いた方だ。いつもは数週間で終わり、そして毎回あたしがフラれる。



「のど渇いた」

「何がいい?」

「あまいミルクティー」

「そうだと思って、作っておきました」

「熱いの飲めない、少し冷ましておいてくれた?」

「当たり前」

「上出来」



赤也は彼氏っていうより忠実な執事。だって付き合って三ヶ月も経つのに、手も繋がないしキスもしないしエッチだってしてない。丸井や仁王に紹介されたのが赤也との初めての出会い。かっこよかったから、愛想よく笑ったら一目惚れされたみたい。よくあること。ちょっと笑ったら、みんなあたしの虜。

しつこく迫られて、仕方なく付き合ってあげている。赤也はあたしが大好きだから、嫌がるようなことは絶対にしない。



「あの、」

「何?」

「昨日、俺誕生日だったんですけど」

「えっ」

「まぁ、知らなかったなら、良いっす」



そうだったんだ。知らなかった。まぁいいかな、赤也だし。別にいつ別れてもいいもん。代わりはいくらでもいる。でも、ここまで従順なのは珍しいから、ちょっと惜しいかもしれない。



「…あ、おかわりいります?」

「え、ああ…ありがとう」

「ちょっと待ってて下さいね」



赤也はニコッと笑ってキッチンへ。その笑顔が、なんだか無理矢理な気がする。…やっぱり、ちょっと、可哀相かもしれない。今までケーキくらいは焼いてあげてたのに。赤也にだって誕生日プレゼント、買ってあげてもいいかもしれない。



「ハイ、どーぞ」

「…赤也も飲めば?」

「え?」

「ほら、あたし二杯めだもん。もういらないから」

「…あ、そっすか。なら俺飲みますけど」

「それでね、あの、」

「ん?」



考えてみればあたしから外出に誘ったことなんてない。どうやって誘えばいいの?よくわからない。普通に行きたいって言えば良いだけなんだろうけれど。今まで、全部言わせてきた。あたしがしたいこと、してほしいこと。それが察せないような女慣れしてない男とは付き合ってこなかった。あたしに釣り合わない男はいらないし、貢がない男もいらない。あたしはそういう女。



「…出掛けたいんすか?」

「え」

「あれ?違います?」

「あ、うん、そうなんだけど…」

「じゃあ服買いに行きましょーか!」

「う、うん」



赤也はミルクティーを一気飲みしてジャケットを一枚羽織ると、あたしのコートを持ってきてあたしに着せる。ブーツのチャックも赤也が止める。あたしが自分からすることなんて何もない、全部赤也がやってくれる。









「あ、セールやってる」

「本当だね」

「あれって先輩の好きなブランドじゃないっすか?」

「うん…そうかも」



駅からおりると、あたしの大好きなショップばっかりが並ぶ通りが目の前。いつもなら楽しい気分なのに、なんだかぐるぐる違うことばかり考えている。違うこと?何よそれ。



「先輩?結衣先輩?」

「え?ああ…」

「大丈夫っすか?具合悪い?」

「ううん、大丈夫」

「なら良いんすけど」

「…じゃあ、今日はこのお店からね」

「了解!」



何で手が繋げないかと言うと、赤也があたしの荷物持ちだから。重いものなんて持ちたくないあたしは、お買い物をした時には赤也が全部荷物を持ってくれている。頼んだ覚えはないけど。だから、手は使えない。キスはメイクが崩れたら嫌だから。エッチは汗をかくから。じゃあいつするのかって、知らない。いつか無理矢理されるんだろうか。…嫌だな。

今まで付き合ってきたひと達からは、そういう類いは全部のらりくらりとかわしてきた。だからフラれたこともある。「性格ブス」だなんだと罵られて別れたこともある。ろくな別れ方をしていない。



「せ、先輩っ」

「え?きゃっ」



ぼーっとしながら試着室から出て来たら、試着室の前で待ってた赤也が慌てた様子であたしを押し込んだ。おかげで後ろに倒れそうだったけど、赤也に抱きしめられたので助かった。



「せ、んぱい」

「え?」

「し、下着!ちょっと見えてるっ!」

「…ああ、本当は中にインナー着るからね」

「あっ、そうなんすか…」

「うん」



赤也が顔を真っ赤にしてる。よくあることだけど。あたしがちょっと微笑むだけで顔を赤らめるから、そういうところは他の男と違って可愛いと思う。それから赤也は急に謝って、試着室から出ていった。何のことに謝ったんだろう?それにしても、今まであんなに近くづいたことなかったから、少しだけドキドキした。だって顔は良いし。腰に回された腕が、さすがテニスで鍛えてるだけあって男らしかった。ちょっとだけ、ときめく。もしかしたら、赤也はあたしに勝手に抱き着いたことに関して謝ったのかもしれない。



「すいません、トイレ行っていいすか?」

「いいよ」

「じゃあ好きに回ってて下さい、探すんで」

「わかった」



そういえば、前の彼氏がトイレに行った時に勝手に回っていたら怒鳴られたことがあった。あの時に浴びせられた罵声は忘れられない。ちょっと怖かった。何が悪いの、あたしの時間じゃない。って言ったら殴られそうになった。怖かった。

一人でぶらぶらしていると、メンズのショップがあった。かっこいい。ショーウインドーにある、マネキンが目についた。



(かっこいいな…)



マネキンの服装が、あたしの好みにぴったりだった。着こなすにはかなりスタイルが良くないとかっこよくない。赤也が着ているのを想像した。……うん、悪くない。








「ね、君ひとり?」



やっぱり来た。さっきからちらちらこっちを見ていたから、予想はしていたけど。最近は赤也が番犬のように側にいたからナンパはなかった。しかもコイツしつこい。早く来なさいよ赤也。赤也に早く渡したいもの出来たんだから。あたしはすっかり裸になったさっきのマネキンの前で赤也を待っていた。



「シカトー?」

「……」

「おい、ふざけんな」

「っ、」

「泣くの?可愛いねー」



泣くわけないし、ありえない。泣いたらメイク崩れちゃう。そしたら赤也の前に立てない。ぐいぐい引っ張られる腕が痛い。何なのコイツ、ちょっとイケメンだからって。赤也ほどじゃないわよ。あいにく人気が少ないし、照明が暗い。



「涙目とか誘ってんの?ホテル行かね?」

「いやっ」

「いいね、そういうの可愛い」



耳元で低い声、気持ち悪い。赤也と違う。鳥肌が立つ。気持ち悪い、不快。腰に手を当てられて、小さく悲鳴。赤也と違う。さっきの男らしい腕と違う。気持ち悪く汗ばんだ手があたしの太ももを撫でる。嫌だ、あたしまだ処女なのよ。キスだってしたことない。そういうのは好きな人とするの。早く来てよ、何で来ないのよ。赤也、赤也、



「あ、かや…っ」

「結衣!」

「チッ、男付きかよ」



男はあたしを突き飛ばした。そのままあたしは床に倒れ込む。痛い。赤也は慌て走って来て、あたしを抱き上げた。放心状態のあたしを静かなカフェの1番奥の席に座らせてくれた。震える手で水を一口飲んだ。



「こ、わかっ…た」

「すみません、ホントすみません!」

「あかや…」

「俺の責任っす、何でもします!本当にごめんなさい!」

「……」



怖かった。ナンパで迫られたことは何度もあったけど、あそこまで身体を密着させたり触られたことはなかった。怖かった。赤也が来るのが一歩遅かったら…考えるのも恐ろしい。吐き気がした。もう一口水を飲んだ。



「先輩、落ち着きました?」

「うん…」

「せんぱい…っ」



赤也を見上げた。赤也が泣きそうだった。どうして、泣きそうなの?ねぇ、それって同情?赤也が優しいから?あたしすごく性格悪いんだよ。どうして、付き合うの?同情?優しさ?優しいから別れられないの?それとも、あたしのこと、好きなの?



「…せんぱい?」

「っ、ううっ…」

「え、え、先輩!?」

「くっ、あかや…ぐすっ」

「ええ!?」



ああ、メイクが崩れちゃう。泣いちゃ駄目なのに。汚いあたし見てほしくないのに。でも、泣きたい。赤也の優しさが痛いくらいあたしの心に響くから。本当にあたしってばか。何で気付かなかったの。



「先輩!どこか痛いんすか!さっき倒れた時に怪我しましたか!?」

「ちがっ、…うっ…」

「気持ちの問題すか?そうですよね、本当ごめん、どう償えば…!」

「ちがう、のぉ…!」

「…え?」



突然号泣し始めたあたしに、自分が助けられなかったからだと勘違いする赤也。優しい。好き。ごめんね、こんな女でごめんね。でも、言わせて。わかったの、気付けたの、今ならちゃんと言えそうなの、あなたが好きだってこと。



「すき」

「え!」

「あかや、すき…っ」

「え、あ、」

「今まで、最低な態度だったけど…!」

「…せんぱ…」

「すき、好きなの。赤也が…いちばん、やさしくてっ…」

「…うん」

「だめ、いかないで」

「…え?」

「どこにも行かないで」

「先輩…」

「あたしの全部あげるから、あたしから離れないで」



最低だあたし。やっぱり自分のことばっかり。でもこんな最低なあたしに優しくしてくれた赤也が好き。赤也はあたしの向かい側の席から、隣の席に移動した。まだ涙は止まらない。赤也は頬に伝った涙を指ですくって、ニッコリ笑った。目を細めて嬉しそうに笑う。あたしが赤也からの告白をOKした時と同じ笑顔。



「結衣」

「…え?」

「好きってもう一度言って」

「好き、大好き」

「キスしていい?」

「たくさんして」



あたしから抱き着いた。「愛してる」のあとに、キスが降り注いだ。メイクなんて崩れていい。キスするたびにあたしの世界が崩壊する。別にもういらない。だってあたしは赤也の世界に行くんだから。もちろん、誕生日プレゼントを持って。





崩壊した世界から脱出。



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赤也はぴば!
これ長編書きたい。


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