生徒会室にはわたしと柳しかいない。

わたしにとって、この状況はすぐにでも回避したかった。けれど山のようにある仕事が邪魔をする。


このやろう会長め、何故カラオケ行ったんだよ。









「そうだな、プレゼントはお前がいいな」

「はあ?」



ばきっとシャーペンの芯が折れた。その様子を見て、目の前の奴はくすくす笑う。

まだ梅雨に入らない、比較的過ごしやすい6月の初めの週。
最悪なことに今日は6月4日で、それはこの柳蓮二の誕生日だった。何故知ってるかと言うと幸村がわたしのスケジュール帳にでかでかと赤いペンでしるしをつけたから。



「お前が俺の誕生日を知ってるとは予想外だったがな」

「はあ?どーでもいいし。それに言ったじゃん、幸村のせいだって」

「きっかけは何にせよ、俺はお前に覚えてもらっている事実が嬉しいと言ったんだ」



思わず小さく舌打ちをした。言わなきゃよかった。さっき、何となく沈黙が続いたから柳に「今日誕生日?」と聞いてしまった。柳は驚いたように固まったけど、次の瞬間にはニヤニヤと笑っていた。

めんどうなことになったと思った。柳は舌打ちをしたわたしを見て、もう一度笑った。うざい。



「で、くれるんだろう?誕生日プレゼント」

「………」



おこがましいことこの上ない。

テニス部って自分の顔の良さにかまけて、当然誕生日プレゼントなんてもらえるものだと勘違いしてない?腹が立つ。この前の丸井の誕生日だって、委員の仕事をしているわたしにしつこく付きまとって迷惑だった。



「テニス部のレギュラー嫌い」

「ふむ、何故だ」



わたしはさっき思ったことをそのまま言った。やっぱり柳は笑った。むかつく。



「お前は素直だな」

「べつに」

「その書類はまだか?なら、」

「良いから。わたしがやる」

「そうか」



わたしがレギュラーの中で1番嫌いのはこいつ、柳だ。理由はたくさんあるけれど、特に嫌なのはまるでわたしのことを馬鹿にしたように笑うから。それからわたしのこと好きでもないくせに、試すようなことをする。

わたしにいちいち構って、いじわるしたり時々優しかったり。きっと柳の彼女はこうやって、何でもなくても優しく指を絡まれたりするんだろうと思った。触れた指先が熱くて、嫌いだった。


本当、好きでもないくせに。


ちなみにテニス部で好きなのは弦一郎と柳生とジャッカルだ。
特に弦一郎は幼なじみだし、他の二人も優しいから好き。その他の幸村などなどはいただけない。仁王なんか詐欺容疑で捕まってしまえ。



「さぁ、そろそろ仕事も終わるだろう」

「…………………何」

「一緒に帰るぞ」



決定事項ですか。



「嫌」

「つれないな」

「弦一郎と帰る」

「駄目だ」

「柳に指図される言われはないよ」

「……」



わたしは柳から背を向けて片付けを始めた。柳の視線が痛い。
さすがに怒らせたかも。

でも、わたし悪くないし。



「…じゃあわたし、帰っ」

「おい」

「っあ、」



ガツン、と頭を壁にぶつけた。柳のせいだ。柳が急に腕を引っ張るから。

いつもは細められた目が、今は鋭い瞳がのぞいている。



「な、に」

「……」



わたしの腕を掴んだまま壁に張り付けて、柳はロボットみたいに固まってしまった。怖い。強く見つめられて、わたしもその瞳に吸い込まれるように見つめ返してしまう。



「近い、よ、やなぎ」

「……ああ」



「ああ」って何なのよ。でもこんなに近いと、さすがに照れる。しかも何故か息を止めちゃうから苦しい。

すると柳がわたしに身体をべったり密着させてきた。そんなことされたら尚更息を止めるしかない。ぎゅうぎゅうと柳の身体を押し付けられて、苦しい。



「(もう無理っ)ふ、はっ…やな、ぎ」

「(何なんだそれはわざとなのかわざとなんだな吐息混じりで苦しそうに俺の名前を呼ぶなんてまるで)…………中山」

「、なに」

「顔、赤いぞ」

「なっ」



柳は意地悪そうに口角を上げた。ごくん、と唾を飲み込んだ。

こういうとこが、嫌。



「、柳なんか…」

「嫌いか?ひどいな」

「柳だってわたしのこと好きじゃないのに、期待させるようなことするじゃん。そっちの方が、ひどい」



わたしは、そんな柳が嫌いだ。



「期待させないで」

「……」

「…なんか、言ってよ」



ピシッと柳の動きが止まった。そしたら右手を口元に持っていって視線を床に下ろし、さらにフリーズ。吐きたいのか。ひどい。そんな態度をされて、泣きそうになるわたしも何だかおかしい。こんなことで傷つくなんて、おかしい。



「や、なぎ」



自分の震えた声を聞いてさらに泣きたくなった。こいつの前で泣くなんてありえない。泣きたくない。でも、泣きそう。ようやく柳はわたしに視線を戻して、ゆっくりと口を開いた。



「それは、」

「…?」

「期待しても良いんだな?」

「え、」



さっきの乱暴な扱いとは逆に、優しくわたしの髪を撫で付けた。指先がわたしの頬にも触れて、びくりと肩が跳ねる。うう、また柳が近くなった…!なにこれ拷問?



「顔を赤くしながらの無言は肯定と見なしてやろうか」

「な、えっ」



ねっとりとした吐息混じりの低い声がわたしの耳に響く。嫌じゃない。

そんなことを思ったなんて、わたしの砦は決壊したみたい。あとはもう、侵略されるだけ。





(思考回路すらも溶かされる)



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これほんとは柳の誕生日に書き上げたかったのに。ごめん←
一応はぴば夢。
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