『……』

「赤也?」

『……』

「…そっち行くから家で待ってて」


昼前、寝間着から私服に着替えていると携帯が着信を知らせる。赤也からだった。意味不明な電話だけど、何となく予想は出来た。

赤也の家は歩いて15分くらいで着く。大きくて綺麗な青い屋根の家が見えたら表札は切原。インターホンを鳴らしてもすぐに出ないし、鍵は開いているのでとりあえず入る。赤也の部屋に上がると予想は確信へと変わる。


「大丈夫?」

「……」

「声が出ないのね」


苦しそうだった。風邪を引いたらしい。だから言ったのに。季節の変わり目にクーラーつけっぱなしはダメだよって。またこのことが知れたら真田はたるんどるだなんだ怒鳴るかと思うと、ため息が出る。そのため息を勘違いした赤也の眉が下がる。


「ごはん食べた?」

「、」

「じゃあ作るから、ポカリ飲んでのど飴舐めてて」


買ってきたポカリを渡すと半分無くなる。のど渇いてたんだ。あーんと開く赤也の口にのど飴を入れてやると、赤也の顔がちょっと緩んでいる。頭を撫でてやると声にならない声を上げて私に抱き着く。嬉しいけど、痛々しい。

甘える赤也をおいて、キッチンへ向かった。清潔感のあるキッチンでお粥を作っていると、物音がして振り返る。赤也が咳をした音だった。


「声は?」

「…せ、ぱい」

「ちょっと良くなったね」

「ん」

「まだお粥熱いから、身体の汗拭いて着替えよっか」


赤也の背中は白かった。まだまだぐったりしている赤也の身体の汗を拭いてやると、疲れと照れが合わさった顔をしている。お粥は自分で食べられるようで、一口一口ゆっくり食べていた。


「どう?」

「…美味しかったっス」

「そう、良かった」

「はぁ、俺、」

「くだらないこと言わないで早く寝てね」

「せんぱい、」


うーっと唸ると何か言いたそうだったけど、無視する。クーラーを消して薄いタオルケットを被せると暑いと言わんばかりに蹴り飛ばす。おい。私はもう一度かけてやってから、近くの団扇で赤也を扇ぐ。








まずい。寝てた。

あれから赤也の寝息が聞こえたので何となくホッとして寝ていたらしい。そうしたら目の前のベッドはもぬけの殻。何か欲しくなって出かけたのかな。悪化するかもしれない。私に頼めばいいのに、もう。


「4時か…」


確か赤也が寝たのが2時過ぎだったのでたっぷり1時間半は寝たらしい。昨日の寝不足のせいだ。それにしても、赤也は無事かな。途中で倒れてないかな。心配になった4時半過ぎにガチャリという音が玄関から聞こえる。


「あ、起きたんスね」

「調子は?」

「身体軽くなった」

「良かった」


赤也の手元に視線を下ろすとコンビニの袋があった。やっぱり何か買ってきたらしい。ちょっと落ち込む。


「ごめん、寝ちゃって」

「ぐっすりだったんで、起こさなかったっス」

「昨日寝不足だったからね」

「あ、これ食べましょ」


赤也は私の目の前に座ってコンビニの袋を差し出した。取り出すと二つの杏仁豆腐。コンビニの、ちょっと高めのデザート。


「先輩、これよく食べてるでしょ」

「あ、うん。ありがとう」

「今日の失態の反省と、お礼っス」

「いただきます。もう、気にしなくていいのに」

「どーぞ。…だって、久しぶりのデートだったのに、」

「いいって」


今日はデートの予定だった。休みが滅多にないテニス部に所属する赤也との、本当に久々の外出デート。外出デートの提案したのは赤也だった。いつも赤也の家に行く私に気を使っての提案だった。


「この杏仁豆腐で充分、嬉しい。おいしいよ」

「っ〜先輩!」

「わ、」

「めっちゃ好き!」

「はいはい私もだよ」


赤也の身体から少しだけ汗の匂いがした。こんなに身体を近くするのも久しぶりな気がして、ちょっと切ない。でもそれ以上に愛しい。素直な赤也はかわいい。


「…先輩、杏仁豆腐ついてる」

「ん?」

「かわいー」

「ちょっ…!んん、」


赤也は私の口端を舐めとると、そのまま唇にふれた。赤也のキスは長くて、漏れる吐息が熱いからまだ熱があるかもしれない。好きとありがとうがキスの合間に聞こえてたまらない。額をくっつけ唇だけを離して見つめ合う。


「あのね、」

「?」

「さっきまるで俺の、つけてるみたいだったっス」

「……」

「だから、ね?」

「調子に乗るな」

「あいたっ」


しかし結局どうやったって逆らえない私はどうしようもない。







甘いため息をはく。



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相互記念。
レン様に提出。
苦情はレン様に限ります^^
これからもよろしくどうぞ!

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