※童話風味。



昔々ある所に、一匹の小さな、小さな蛇がいました。

その蛇はとても珍しい色をしていたので、他の蛇からは避けられ、独りで生きていました。
それに毒も持たなかったので、敵に出会うとただ隠れるだけでした。


ある日、その蛇は人間の子供に捕まり、いじめられました。
しかし、そこを通りかかったある人に助けられました。

その人はとても変わっていて、拾った動物や助けてやった動物など、沢山の動物達と一緒に、一人で暮らしていました。その蛇もまたその人と共に暮らしました。



助けられて数年経ったある日、その人は蛇に言いました。

『殺してくれ』と。

この家にいた熊や狼、他のどんな動物でもなく、毒を持たないただの小さな蛇に。

無理だと、その蛇は拒絶したかったけれど、どうしてその人の望みを断れるのでしょう?本当に死を願っているのだと、その人の目が言っていて、その小さな蛇はならばせめて痛くしないように、苦しまないようにと、優しく、優しくその牙を首に突き刺しました。

その人は『ごめんね、ありがとう。』と言い、優しく蛇の頭を撫でました。その手が力なく地に落ち、瞳から光が消えたのを見て初めてその蛇は、自身が毒を得た事を知りました。

そしてその蛇は、他の動物達が気付く前に夜の森へと去って行きました。



それから数えきれないくらい年月が経ち、あの蛇は、少しは成長したけれど、それでも小さいままでした。

毒という武器を得た初めの内は、噂を聞いてやって来た自殺志願者達の望みを叶えていましたが、いつしか噂はねじ曲げられ、猛毒を持つ蛇を退治しようと人々が沢山やって来ました。

そしてそんな彼らから身を守っていく内に、いつしかその蛇は、あの優しかった人の事や、どうして自分が毒を持ったのかといった事も忘れていきました。


自らの領域に入って来る者は容赦なくその一咬みで倒す、という事を繰り返していたある日、ある一人の子供が迷い込んできました。

その蛇はいつも通り殺してしまおうと、足に巻きつき自由を奪ってから咬もうとしました。

けれどその子供からは、今にも死ぬという状況なのに、今までの人のような嫌悪だとか恐れだとか死にたくない、生への執着だとかは感じられず、むしろ笑っていました。

何でそんなに嬉しそうなんだ、訳が分からず戸惑って動けない蛇に子供は、「きれいだね、そのウロコ。ねぇ、君も一人なの?」と笑いかけました。
その言葉に、忘れ去っていた遥か昔の記憶が、蛇の脳に蘇ります。


その子供はちょっと寂しそうに笑って、「おれね、あんまり体がじょうぶじゃないんだ。友だちもいないし。ホントはこうやって森にきちゃダメだっていわれてんだけど…君がおれのことたべたいっていうんなら、たべてもいいよ?どうせおれ、そんな長くないんだし。君みたいなきれいなヘビにたべられるんなら、おれもうれしいなぁ」と言いました。

それを聞いた蛇は、しかし、その子供を殺す事などできませんでした。だって、本当の望みは違うから。頭の中や心の上の方では死んでもいいと思っていても、心の底の方ではまだ生きたいと願っているから。あの人とは、違う。


それならば、とその蛇は巻きついていた体をほどき、子供の額に軽く鼻をくっつけ、草むらの中へ消えていきました。

自分を殺さなかったその蛇の行動に驚きながらも、「また、会おうね!」とその子供は叫びました。



そして月日は経ち、子供は大きくなり、元気に育っていきました。

ある日、その子供の前に、片目を前髪で覆った一人の少年が現れました。

その少年は、自分はあの時の蛇だと、その子供に言いました。
驚く子供に蛇であった少年は、彼が願ったから、人になったのだと言います。


「ある人が願ったから、毒を持たない、ただの小さな蛇だった俺は、人を一瞬で殺せる毒を持った。そして、お前が願ったから、俺は、人になったんだよ」
「俺が、願ったから…?」
「ああ。お前が、望んだから。友人が欲しいと、お前が願ったから、な」


それを聞いた子供は、段々嬉しそうな顔になり、「じゃあ、ずっと一緒にいてくれる?」と聞きました。

「ああ。お前がそう望むのなら」
「わあ、ありがとう!俺、松風天馬って言うんだ!君の名前は?」
「…倉間。前に俺を助けてくれた奴はそう呼んでいたな」
「ふーん倉間かー。でもそれって名字だよ?なんかよそよそしいから、じゃあ、名前は『典人』ねっ!」
「はあ!?オイ待てどっから出てきたその名前」
「うーんとね、覚えてないんだけど、俺の大切な人の名前!誰かがそう付けたらいいよって言ったんだ!」
「、そうか、典人…か………。いい名だな…」
「よーし決まりっ!じゃあ行こう、典くんっ!」
「の、のりっ…!?」



こうして、人になった蛇と、一人ぼっちだった子供は、ずっと一緒に、幸せに暮らしましたとさ。




その小さな蛇が愛したのは、





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2011/10/31完成 2011/11/08up





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