聖なる夜の。5




クリスマス・イルミネーションで輝く街を下にして、サンタ達は夜空を駆ける。
トウヤは、地図を片手にソリを飛ばしていた。
「うーっ、寒……。つーか何でまた今年はこんなに多いんだ?」
背後を見やりながら一人愚痴をこぼす。そこには、いつもの倍はあろうかというプレゼントが入った袋の山があった。
「とりあえずさっさと終わらせなきゃなー。」
逢えなくなった時から、ふとした瞬間に脳裏に浮かぶ緑の髪の彼の記憶を振り払うように、トウヤはさらに仕事の手を早めた。


「さて、これで終わりだ。よいしょ、と。」
窓から出てきて身軽にソリに滑り込んだトウヤは、一息ついてから懐に入れていた包みを取り出した。
「これで最後なんだけど、お前達どこだか分かるかい?」
そう尋ねると、『まかせろ』という様に首を縦にブンブン振って、空に舞い上がった。そして北へ、北へとどんどんスピードを上げて走る。
……まさか。
メブキジカ達がどこへ行こうとしているのか察しても、信じられない。違う所かもしれない、しかしそれでも逸る気持ちを抑えられない。


果たして前方にあの城が見えてきて、期待は確信に変わる。
やがて城に着き、包みを持って窓から廊下に入る。いつかと同じようにそっと、音を立てずに目的の部屋を目指す。扉の前にたどり着き、そっと開けてみると、

「やあ、久しぶり、トウヤ。ずっと待っていたよ。」

そんな声が聞こえた、と思うと同時に抱きしめられた。
「やっと会えた……」と耳元で囁かれ、反射的に赤くなる。Nは自分を包みこむように抱いていて、自分の体は彼の胸にすっぽりと収まってしまう。
……って、ちょっと待て、抱きしめ……って、ええ!?
「何でお前、俺より背が高くなってるの!?」
ありえない!あんなに小さくてかわいかったのに!俺よりでかくなるなんて詐欺だ!等とギャーギャートウヤは騒いで暴れるが、Nはしっかり彼を抱きしめたまま動じない。
「それはそうだよ。最後に会ってから何年も経っているんだから。ボクはこんなに大きくなっちゃったけれど、トウヤ、君はあの時のままだね。」
そう言って頭を撫でられる。トウヤは照れ隠しに「うるさいな」と言うが、自分を抱いている腕を外そうとはしなかった。
「ホラ、プレゼントだ。というか一体なんでまた今になって頼んだんだ?今まで希望は出されてなかったとか聞いたけど。」
「あれ、もしかして怒ってる?トウヤかわいい」
「んな恥ずかしいこと、言うなよ馬鹿!つうか別に怒ってないよ俺は。」
とりあえず包みを渡して離れようとするが、やはりNは彼を抱きしめたまま放さない。
「プレゼントね。毎年ずっと手紙は出していたよ?でも、欲しいものが届けられる事はなかった。」
そう言って一旦抱擁を解き、包みを解いて中に入っていた封筒を取り出した。トウヤは、訳が分からない。
「そう、あの時に願い、今ようやく貰えたクリスマスの贈り物は、………トウヤ、君だよ。」
封筒を破り、中の手紙をトウヤに見せる。確かにそこには、彼の願いを叶える事を了承する旨を述べた文があった。
「……んな……っ……、なんで、俺なんかを……?」
「そりゃもちろん、君が好きだからに決まっているよ。」そうサラッとNは答え、言われた言葉が瞬時に理解できないトウヤをまた抱きしめた。
「え、えーと、俺の聞き違いじゃなきゃ、いま好きと仰いましたかNさん?」
「うん、そうだけど」
「そ、それってまさか、あの、好き?likeじゃなくてloveの方の?」
「うん!」
満面の笑みで言い切った。そういえば抱きしめられている今、首筋に何か温かいものが触れているような……
自分が今何をされているか何となく分かってしまったトウヤは、恐る恐る「……い、いつから……?」と聞いてみた。
「君がボクのところにやって来たあの日から、好きだったんだ。」
孤独な日々から、自分を救ってくれた人。年に一度、それも短い時間しか会えなかったが、それでもずっと楽しみで。
「ねえ、ボクと一緒に暮らさないかい?」
そう問うと、トウヤは驚いたような顔をしたが、すぐに顔を俯かせた。
「でも、俺、サンタの仕事を辞めることはできないよ……」
例の、不老の魔法には、そういう制約があるのだ。「だから、お前の願いには応えられない…」と腕をどかせ、離れようとした瞬間、夜空から、澄んだ優しい鈴の音が降ってきた。

「おお、全ての仕事を終えてくれたようじゃの。」

「え、長!?」
彼らの目の前に降り立ったのは、サンタ達の長だった。
「何で、ここに……!?」
「なに、そこに居る彼へ贈り物を届けに来たのと、お前さんに褒美を渡すために来ただけじゃ。」
そう長は微笑み、トウヤの頭をくしゃっと撫でる。
「……今までよく働いてくれた。これはほんの感謝の気持ちじゃ。」
そして、告げる。
「今、この時を以って、汝、トウヤの、サンタの任を解くものとする。もうお前さんは自由じゃ。好きに生きるがよい。」
「え、でも、……いいんですか?」
「勿論。不老の秘法も解いてしまったが、お前さんの願いは叶う。どれ、何か不満かね?」
「……いえ、むしろ嬉しいです……魔法が使えなくなるのは残念だけど。」
そうトウヤが言うと、長はおかしそうに笑い、Nの方へ向き直った。
「さて、Nよ。彼を縛るものは解いた。こう見えてこの子は、少々世間知らずな所があるのでな。色々苦労はあるだろうが、よろしく頼むぞ。」
「はい!ボクの願いを叶えて下さって、本当にありがとうございました。」
そう礼をいうNにも笑いかけ、長はひらりとソリに乗り込んだ。
「ああ、そうじゃトウヤ、お前さんが連れていたメブキジカの内の一頭をあげよう。これも、わしからのプレゼントじゃ。」
そう言って、窓のそばに待機していた一頭のメブキジカを放した。
「あ、ありがとうございます、長!でも、何でこんなに色々と……?」
疑問を放つと、優しい声が返ってくる。
「それはお前さん達の、長年互いを想う絆がこの結果を導いたのじゃ。まあ、愛の勝利というやつかの?」
カラカラと笑って、鞭を一閃。
「それでは、さらばじゃ。わしらはいつも、お前さんらの幸せを願っておるよ……」
ソリが空に舞い上がる。慌てて窓に駆けよって体を突き出し、暁の空を見上げると、
「メリー・クリスマス!よい日々を!」
空に浮かぶ沢山のソリから仲間達の姿が見え、トウヤ達に祝福を贈る。
「皆……ありがとう!俺…皆がくれたこの人生を、精一杯生きるから!」
手を思いっきり振り、トウヤは叫ぶ。

「ありがとう、確かに聖なる夜の奇跡は、存在したよ……!」

サンタ達は輝く軌跡を残しながら去っていく。
「トウヤ……大好きだよ。」
「ん、俺…も……」
そして仄々と明けゆく空と煌く光の粒を背景に、二人の唇が合わさった。



(聖なる夜の、ちいさな奇跡の物語。)





これにておしまい!
最後だけなんだか長くなりすぎてすみません!だって、切る所が見つからないですもん……
そして、クリスマス小説なのにクリスマスにアップしきれてない件について。ホントどうなんでしょうか…お、おかしい…このネタを思いついたのは1、2ヶ月前のはずなのに…(汗)

以下補足説明をば。
トウヤ君はNさんを今まで年下の友達だと思っていたけれど、(そしてNの成長を見るのも楽しみであったけど、)そういう意味での「好き」では見てなかったんです。しばらく見ないうちに大きくなったNさんを見てびっくり仰天なトウヤ君(笑)
一方Nさんの方は段々大きくなるにつれてそういった意味での恋愛感情を持つようになってきました。そしてトウヤ君を下さいと言ったら本人とプレゼントが来なくなったけど、長年我慢した甲斐あって見事ゴールイン。という設定。俺得なだけwww←

意味不明で拙い文章な上、見づらいこの作品を最後まで読んで下さりどうもありがとうございました!!

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