どーも突然だけど初めまして。

名もない俺の解説に暫く付き合って欲しいんだけど、…今、お時間よろしいですか?あ、数分なら割けると。なるほどですねー、ありがとーございます。それでは貴重なお時間頂きましたし、要領良くサクサクいきますか。





*****





ウチのマネージャーは割りとかわいい。派手な美人じゃないけど、清潔感のあるかわいさって言うの?それが全体を覆ってる。しっかりしてるけどうるさくなくて、ノリはいいけど距離感あって付き合いやすい、いーいやつなわけ。



その上、気配り気遣い気立てが恐ろしく良く(なんていうか、現代っ子っぽくない。)キャプテンのフォローと言うか尻拭いに始まり、後輩の指導に顧問や監督とのミーティング、公式から練習試合までのスケジュールに準備と裏方を全部担ってくれてる。サッカー部のマネージャーなんて、部活中働きっぱなしで、漫画みたいな綺麗なシチュエーションは欠片もない。泥にまみれたユニフォームが次から次に生産されるから、手も荒れる。冬なんて悪夢。



割りと大所帯のウチのサッカー部を支えてるのに、いっつもニコニコ笑ってて。まぁ多分自覚がないんだろうけど、それが凄いなって思うわけで。



「キャプテン。」



そう、近くにいるといつも石鹸とかそんな邪魔にならない良い匂いがするんだよな。化粧の臭いプンプンさせてるクラスメートの女共との格差だよなー。この、短く整えてるだけの爪も安心感があるし。



「キャプテン!」



俺に彼女がいなければ…迫ったかなー。いやいや彼女も十分かわいいんだけど、ついつい一緒にいると過るのは邪な考えだよな。イヤだねぇ男って。ま、高2ですから許して下さいよ。



「いっ…!」
「明日は練習試合なのにボーッとし過ぎ。」
「だからって頬っぺたつねることないだろー。」
「明日は大川学園が9時に来るから、みんなは8時30分に集合ね。」
「スルースキルが研かれてますねぇ。」
「キャプテンのお陰で。」



いつの間にか目の前に立っていた部活終わりのマネージャー。部ジャージも似合ってるけど、やっぱり制服かわいいわ。天パって本人は嫌がってるけど、少し巻いてあるような柔らかい髪型の雰囲気も人気の一つだろうなぁ。



「手厳しいマネージャーから合格点ふんだくりたいしなぁ。」
「全国常連の大川学園と練習出来るなんて、ほんとにラッキーだよ。でも、ウチの得点力の高さだっていい線いってるし。明日も頑張ろ!」



そう言って部室の鍵(錆びてて閉めにくい)を慣れたように扱う結城が、まさかフリーなんて誰も思わないよなぁ。



「ほら、彼女待たせてるんだから門までダッシュ!」
「一緒に送るわ。」
「二人で帰ってって、いつも言ってるでしょ。」
「危ないから一緒に帰ろうっていつも言ってるでしょ。」
「自転車で直ぐだってば。」
「あのさーいい加減早く彼氏でも何でも作れよな。」
「何よそれ。」
「てかさ、どいつに言われたらいいわけ?」
「脈絡ないなぁ。どいつって言われても…アレかな!私のためにハットトリック決めました!なんて言われたら頷くかも。」
「案外夢見がちなのな。」
「…そうかな。」



まさに"シュン"と言う効果音を鳴らしながら、ふわふわした髪が揺れた。



「結城ってC翼なら三杉くんが好きだろ。」
「…日向くん。」
「うぇ!王道じゃないの?!じゃあイナイレだと、」
「絶対豪炎寺くん!」
「なるほど、ならジャイキリはザキさんだろ。」
「ダメですか。」
「ホイッスルの水野くんって言われた方がまだよかった…」



男ならわかる。"かっこいい"よりも何よりも、"硬派"スペックの17歳は…三次元に、厳しいのだ…!その上ハットトリックとなるともう…



「俺は、椿をおすすめするぞ。」
「可愛い男の子はあんまり…」
「え、じゃあ俺って範疇外なの?」



何も発することなく、自転車に跨がって颯爽と帰っていった結城は、ジャイキリ椿に中身も似てる(らしい)俺を置き去りにした。その夜、結城の友人であり俺の可愛く優しい彼女に慰められたのは言うまでもない。





*****





「今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」



大川学園のキャプテンは、中等部の頃から県内でも有名で、高等部に進む前にはクラブユースの誘いを蹴って部活に留まったと言う噂をよく聞く。確か何代か前の大川のキャプテンもそうだったなぁ。



「ウチのマネージャーです。ドリンクとか、控え室とかの担当も彼女です。」
「結城です、よろしくお願いします。」
「あ、え、っと…よろしく。」
「では早速ご案内しますね、こちらです。」



大川学園は全国でも強豪校なのに、マネージャーがいない。この目の前にいるキャプテンは男から見てもイケメンと言うか男前なのは認めるけど、正直ズラッと並んだ集団は男臭い…あぁあ結城が眩しいぜ!



「ドリンクに救急箱、コールドスプレーはここに、タオルは足りなければまた用意します。他に必要なものはありますか?」
「あっ…と、十分だと、思うんで。」
「何かあれば、遠慮なく声を掛けて下さい。」
「…っどーも…」



見よ!この爽やかなウチのマネージャー!いいだろう羨ましいだろう、ポニーテールだって似合っちゃうんだぜ〜?と言うかこの二人ってこの二人って…



「ぃって…!」
「キャプテン、ぼーっとしてないで準備。」
「だってあまりにもお似合いだったから…!」
「…何が?」
「アハハハー?」
「彼女と喧嘩でもしたの?」
「俺のサッカーと同じくすこぶる快調です!」
「それならよかった!」


いかんいかん、特技妄想がいかんなく発揮されてしまった…!真面目な後輩たちは芝生でアップを始めてるし、そんなことしてる間にキックオフまで後5分と言うところまできてしまった。大川の選手たちも徐々にグランドに集まっていた。ネット脇で一人ファイルを開いている相手チームのキャプテンに改めて声を掛けにいく。実は中学の時、県選抜に一緒に選ばれたことがあったのだ。



「改めて、今日はよろしくな!」
「…」
「おーい?」
「マネージャー、いいな。」
「だろ?大川も絶対一人は必要だって!」
「……そう、だな。」
「ウチのマネージャーは超優秀だからな、何かあったら遠慮なくほんと言えよな。」
「あぁ。」
「あいつってさ、あんなに出来る女子って雰囲気の癖して、めちゃくちゃ乙女で可愛いとこあるんだよな。」
「どんなとこ、が?」
「付き合う相手にはさ、あなたのためにハットトリック決めました、って言われたいんだって。そんなのありえねぇよな!」
「ハット、トリック…」
「練習試合とは言え、今日を楽しみにしてたんだ、お互い頑張ろうな!」「……そうだな、頑張る、わ。」



俺はその時気づかなかった。普段は冷静だと名高い池田の目が、別の意味で輝いていたことに。



それはまるで、俺のよく知っている、誰かの目のように。





*****





「あんたのためにハットトリックを決めた。」



なんだこれなんだこれなんだこれ。



「えぇ?え、と、えーと?」
「あのハットトリックを貰って欲しい。」



なんだこの少女漫画的展開は!フィールドの真ん中で、池田がハットトリックを決めたサッカーボールを、ウチのマネージャーに渡している。あの、"あなたのためにハットトリックを決めました。"と言うセリフを添えて!マジかよ!ねぇよ!そんな、しかも相手校のマネージャー相手に!



「えと…え、私に、ですか?」
「一目惚れを信じて貰うには、これくらいやり遂げないと…きっとダメだろ?」
「…ええっ!」
「付き合ってくれとは言わない、友達からで十分だよ。ただ俺があんたを好きだってことは知っていて欲しいんだ。」



試合結果3−1。



かなり善戦したとは思うけど、2点差で大川に負けた。ここんとこ冷静な試合展開を発揮するようになった池田が、まさか、自らFW並みに動くとは予想外だった。



「今日の試合、キャプテンとしては最低だった。でも、どうしても決めたかったんだ。」
「あ、の…!!」
「…なに?」
「お友達から、なら、」



うわ…池田が両手で結城の手をブンブン握ってるよ〜ボール落ちたよ〜どうしよう、これどうしよう。なぁ!おい!俺どうしたらいい?大川の生徒さんたち〜って何で池田のこと微笑ましく見てんの〜!?



「これからずっと、よろしくな。」
「はい、」



おい池田ァアア!今地味にずっとって言ったよね、言ったよね?ダメだ結城、完全に逃げ道塞がれてくよー!



「あんたの名前は、」
「志乃。結城志乃です。」



でもアレだね、ロマンチストが二人揃えば案外ベッタベタで王道な展開も描けちゃうのかもしれないな。



「キャプテン…!」
「なんだよ?」
「王子さまがいたよ!」
「うん、幸せにおなり。」



ウチの可愛い優秀なマネージャーが、多少リリカルでメルヘンで乙女チックであろうともいいのだ。幸せになるなら!





*****





「結城〜もう遅いし送ってくわ。」
「だーいーじょうぶ!」
「じゃ、ねぇから。問答無用で送らせて。俺のためにも!」
「俺のため?」
「姫様を無事に送り届けないと王子にヤられちゃうんだよ!」
「池田くん…!」
「そこ違うんだなぁ、キュンてなるポイントと違うんだな…!」



王子様はお姫様限定ロマンチストでした。超リアリストで心配性な池田王子が、部活終わりに毎日毎日、結城を無事に送り届けたか俺に確認するようになったわけで。曰く、"俺に一目惚れされるなら、後最低10人に一目惚れされる"と自慢なんだか恐れてるんだか、とりあえず毎日居丈高なメールがくる。正直怖い。



「明日は土曜だし、久しぶりのオフだけどどうすんの?」
「池田くんの部活してるとこ見に行くんだ。」
「幸せにおなり。」
「もう十分幸せだよ?」
「ぐっ…」



そんな風にして俺を糖分過多で病気にしかけたこのカップルが、高校を卒業しても、ハタチを越えても、結婚しても万年初恋一目惚れ状態を継続させていくわけだ。





*お伽噺+ラブコメ、目指しました。終わり方なんか特に。池田王子はプロに行って海外にも行くんだな!彼女は私生活も選手生活もサポートするんだな!ちょっと5000企画の池田くんにリンクさせてます。







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