その声を辿って(竹谷・久々知)


誰かに側にいて欲しいなんて、言ってはいけないことだと思っていた。それよりもずっと、私には言えない台詞だなぁとも思っていた。だから何も言わずに私を解ってくれる人が欲しかった。解って貰えなくても、知ろうとしてくれる姿を見せて欲しかった。無意識に我儘な私の側にいようとしてくれたのは、竹谷くんが初めてだった。



「結城、飯食い行こうぜ。」
「今日はA定食?」
「おう!待ってろ唐揚げ!結城もだろ?デザート付くし。」
「唐揚げ一つあげるから、デザート二口頂戴?」
「仕方ねぇなぁ。」



竹谷くんの隣にいると、にこにこしていられた。決して可愛くはなくても、そうありたいと本気で思えた。竹谷くんとの前で泣くなんてこと、考えられなかった。



「竹谷くん、お休みどこ行こうか?」
「山!川!」
「言うと思ってた。」



私のことを好きで大事だと解りやすく表現してくれる相手がずっと欲しかった。竹谷くんは私の理想の相手そのもの。



「竹谷、呼び出し掛かってるぞ。」



なのにどうしてだろう?見た目も、中身も、態度も正反対の久々知くんに惹かれたのは。


何を考えてるかも解らない。私を知っているのかさえ想像出来ず、終始動かない表情がむしろ苦手なはずだった。竹谷くんと一緒にいても、話題を振られることはなく会話すらなかった。



「結城。」



初めて名前を呼ばれたときの、驚きと言ったらなかった。最初はそう、単純な興味だ。竹谷くんの、大事な友人と言う立ち位置を持った彼への。私は変わってしまったんだろうか?隣に理想の相手がいて、幸運にもその相手が私を見てくれている。それなのに、



「結城、隣いいか?」



竹谷くんと一緒に過ごして、気づいたことがある。私は別に、彼に幸せにして欲しかったわけではなかったこと。



「また、髪に花びらが乗ってるぞ。」



久々知くんを見ていて思ったことがある。



彼の隣で笑えなくても、彼を思って泣くことが出来るって。私と一緒にいても、大口開けてゲラゲラ馬鹿笑いしてくれるわけじゃない。思い立って頭をわしゃわしゃ撫でてくれることもない。お構い無しに力一杯抱き締めてくれることもない。いつもただ、困ったような無表情で名前を呼ぶだけ。髪に触れるだけ。



それでも、そんな彼の姿が一日の終わりに浮かんでしまう。



「結城!」



竹谷くんの、私を呼ぶ声はどんなに大声でも優しい。



「結城。」



だけど久々知くんが私を呼ぶ声を、もう一度、もう一度聞きたくなる。



竹谷くんが、隣で私に笑ってくれているのに。


 

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