また君を失う(久々知)


幸せな夢を見た。



ただその夢の中で俺はぼろぼろと泣いていた。誰かを自分の腕の中に閉じ込めながら、報われない想いと闘っているのもわかった。



今、確かに抱き締めている存在なのに、この先いくら考えても、彼女を抱き締め続けることが出来ない。望む回答は得られない。



それもわかっていた。それでも、自分は確かに幸せだった。



徐々に朝の光を感じながら、彼女だけが夢の中に帰っていってしまうのがわかった。また、一人になるのか。一人にしてしまうのか。そんな後悔が胸を過った。



最後に、笑顔を浮かべようとしている彼女の唇の形を追った。けれどもそれは、像を結ばずにたち消え、結局光だけが残された。その優しい唇に涙が落ちていくのが、最後に見えた。





幸せな夢を見た。



会話の一つも思い出せないのに、彼女が笑ってくれた気がした。その顔も、おぼろ気なくせに。



少しだけ先を歩くその背中に、手を伸ばした。届きそうになった瞬間、翻って彼女がこちらを伺う。細い腕がこちらに伸ばされる。真っ白な指先が俺の頬に触れそうになる。



彼女の唇が綺麗に動く。何かを囁いているのに、その声が届くことはない。もどかしくて自分から手を伸ばせば、彼女が霞んでいく。また、失うのか。また置いていくのか。



それでも、彼女の気配を感じることが出来て幸せだった。



彼女の夢を見るだけで、俺は幸せだった。





幸せなはずの夢を見た。



夢で感じられるだけ、幸せなはずだった。



そうだろう?何百年前の久々知兵助も、彼女に会えただけで幸せだったんだろう?微笑まれただけで、十分だったんだろう?



その総てを望みはしなかったんだろう?



彼女を幸せにしたんだろう?



彼女の笑顔を望んだんだろう?



誰か、彼女が幸せだったかどうか教えてくれよ。彼女が、笑って生きたのか教えてくれよ。



もう一度会いたいなんて、二度と願わないから。会わせて欲しいなんて、望まないから。


 

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