「なんだか久しぶりだね。」
図書室に向かう途中で、不破くんに会った。私は多分、突然に弱い。事前準備をしっかりしないと戸惑うし、何より軽い会話の話題が思い付けない。
考えて整えたものなんて、半分以上が余分なんだろうけど。
「そうかも。」
「連休だったし、あ…体調はどう?」
昔から四月の終わりに熱を出す私は、一番見られたくない姿を彼に見られていた。そしてきっと自惚れていいなら心配もさせた。
「もう平気。いつもより元気。」
「そっか、良かった。」
放課後の廊下に、声と人が溢れてる。部活のユニフォーム姿で走る友達に手を振ったり、早々に帰る先生には挨拶したり。流れに逆らうように、ふたりで外れに位置する図書室を目指した。
いつもよりゆっくり、歩いてしまった。気づかれてもいいと思いながら、優しい彼はそんな指摘をしないって、予想して。
***
「彼氏、頼りがいありそうだね。」
チリッと空気を痛く感じたのと、向けられた話題に疑問を持ったのは同時だった。
「カレ?」
「この間、穂村さんを連れ帰ってた、」
「あの、ね?小中が同じなの。仲は良いけど、彼氏じゃないの。」
いつもされる誤解を、笑い飛ばせなかったのはどうしてだろう。言われたくないって、彼にはそう思われたくないって、すごく強く感じた。
「そっか。」
「うん。」
気にしてくれたのが嬉しかった。次の言葉を待ってた。何て聞いてくれるのか、期待してしまった。
「休み明けに、穂村さんが読みたがってた続き物の新刊が入るよ。きっともう届いてるんじゃないかな。」
彼はいつものように口許に笑みを浮かべて、図書委員の模範のような言葉だけを口にした。
私の欲しかった言葉なんて聞けるはずもないのに、また簡単に望んではひとり落ち込んだ。
どうして彼のことではこんなに、私は傷つきやすくなってしまうんだろう。
「ほんと?借りられてないといいな。」
用意出来なかった言葉は、浅いのに、ただ必死だった。
***
話し掛ければいい。聞いてみたらいい。不破くんはどんな本が好き?休みの日にも図書館に出掛けたりするの?せっかくだから一緒に帰ろうよ?誘ってみても、大丈夫だってわかってる。
それでもどうしても怖くなって、言葉も態度も、らしくなくなる私が嫌になる。
「あ、借りられてなかったよ。」
変わらない彼の態度が今は辛かった。
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