「竹谷八左ヱ門と彼女について」報告:尾浜勘右衛門
八左ヱ門って、いいやつだと思うんだ。同性票を集める典型的なタイプって言えばいいのかな。細かいことは気にしない豪快さと、周囲を気にかける繊細さも同時に持ってるような…不器用な人間には少し羨ましさを感じさせるって言うか。でも嫉妬とか買わないとこが人徳のある八左っぽい。
八左が笑うとどんなに壁が高くても、よじ登っていけるんじゃないかって僕はいつも思う。相手をどんな時でも大切に扱えるって言うのは見習いたいよね。何より後輩想いだし。可愛がってなかったら毎日毎夜、毒虫なんて探してられないよ。責任感の前に感情が前面に出るところも、あの伊賀崎がなついてる所以なのかもしれないな。
仲間内で揉めても、八左がいれば安定剤になって元通りになっちゃうんだよね。組が違ってもあいつに友達が多いのは納得出来る。いいやつなんだよほんとーに。
まぁ、だからといってお稚児趣味…じゃなくて幼女専門って言うか、つまりロリ…さすがにそこまで言っちゃ駄目だよね!でも年下に手を出した言い訳を聞く気にはならない。ニコ下って言えば聞こえは良いけど、十ニ歳だよ…八左も新しい領域に飛び込んだよなぁ。
疑問:ガチなの?
「勘ちゃん、俺は泣くべき?疑問なんて雷蔵より大雑把だ…!」
「直球の方が男らしいかなって。」
「そこで求めなくてもいいんじゃないか。」
「いつなんどき機会が転がってるかは分からない。」
「何の。」
「何だろ。」
「俺、戻っていいか?それこそ志乃が待ってるし。」
「…志乃ちゃんて、フワフワした髪の毛を一つに結ってて、身長は八左の肩位で、華奢で色が白くて、どう考えても八左と付き合いそうにない感じの女の子?」
「そう、そう、そう、最後だけ違う。」
「その子なら直ぐ後ろで僕を睨み付けてるけど。」
八左の直ぐ隣の木の裏から、およそ三年生とは思えないただならない空気が発せられていた。チラチラと覗く姿は、いつか本で見た舶来品の人形みたいだ。
「うわっ!こんな間近にいたのか。どうした志乃?」
「竹谷先輩が苛められてる…」
「「え?」」
「竹谷先輩を苛めましたね…」
「えっと…?ただからかってただけなんだけど…」
「尾浜先輩はただでさえ竹谷先輩と仲良しなのに、苛めて弄んで楽しんじゃうなんてズルい!私もしたことないのに!」
小首を、コテンと傾げた。八左の後ろに隠れて上目遣いに見上げる姿は可愛らしいのに発言が。
「小首まで傾げちゃって十四歳男子なのに可愛いとか…何なんですか!」
「何なんだろうね。」
「伊賀崎くんとか、生物一年四人衆とか強敵はたくさんいるのに…豆腐に続いて…うどんもか…!」
「ああいやうんえーと落ち着いて話そうか!(うどん。)」
「この状況、本妻が妾の営む小料理屋に乗り込んだ時に似てる!やっぱりそういうことなんですか…!」
「そういうことって…」
「尾浜先輩は竹谷先輩の二号さんなんですね?」
電波だ。
「勘ちゃん、とりあえずまた明日!」
「うん竹谷、明日授業で会おうな!」
「ちょっ、話はまだ終わってませんよ!尾浜先輩!」
八左に引きずられて行く、途中から俵抱きにされた志乃ちゃんは、手足をバタバタさせて抵抗している。少し前だったら、誘拐犯として八左の髪の毛をむしったのに。今じゃ八左に向かって敬礼したい気分だ。あの子は破壊力が半端ない。
あんなに愛らしい見た目で生まれたのに、頭の中が宇宙回路の電波ちゃん。嗚呼、天は如何にして二物を与え賜わなんだ!
部屋に戻ってから筆を取り、図式を書き起こしてみた。
八左→→→←志乃ちゃん位に考えていたけど、あの様子を見るに八左→←←←志乃ちゃんが真実かもしれない。見た目で判断することを、僕は本日を持って放棄する。
「勘ちゃーん…」
「八左!」
その後も一筋縄ではいかない志乃ちゃんのことを考えては、頭を抱えていた。そんな風呂上がりにボーッとしている僕の所へ八左が眉を下げて現れた。
「昼間はごめんな?びっくりしたろ?」
「そりゃあもう。」
「志乃は妄想癖が激しいんだよ。」
「しかも楽しんでるよね?」
「彼女ながら質が悪い。それ以外は可愛いんだけどなぁ。まぁ慣れれば案外いけるけど。」
毒されてるし!志乃ちゃん…君ってば十二歳にして何者なんですか。
「孫兵といれば“私は体の良い身代わりなんですね”」
「悲劇の主人公は定番だよね。」「一年といれば“私にはもう飽きたんですね”」
「捨てられる役って言うのもオツなもんだよね。」
「兵助と部屋で宿題してたら“私がニ番手だったんですね”」
「…あのさ、何で付き合ってんの?」
「それ以外は好みなんだよ!」
「やっぱりガチなの?」
「年齢差はたまたまだって!動物が好きなとことか、爬虫類が大丈夫なとこ、野山を歩き回るのが好きなのも俺とはぴったり合うんだよ!」
「まぁ確かに。」
志乃ちゃんをきちんと認識する前は、噂で聞くだけだった。八左が年下の彼女をとても大切にしていること。時間があれば二人で散歩に出掛けたり、町に遊びに行っていたこと。
「我慢するの?」
「我慢って言うか、志乃の一人芝居みたいなもんだから楽しむしかないかな。」
「とことん甘いよね。被害者を前にした発言とは思えない。」
「勘ちゃんには悪いことしたよ、でも許してやってな。」
「八左の彼女だしね、電波ちゃんだしね。何言ってもつまりは無駄だしね。」
「微妙にムカつくけどよろしく。」
そう八左がいつも通りニカッと笑ったかと思うと、障子越しに影が写った。八左の顔が苦笑いに変わる。それでも優しい目だけはいつもと何も変わらなかった。
「志乃!帰るぞ。」
「尾浜先輩に一言物申すー!」
「はいはい。」
「ぎゃ!横抱きは卑怯ですよ、王道じゃないですか!このまま夜の散歩にでもしけ込もうって魂胆ですか!竹谷先輩にしてはやりますね…!」
「一応先輩だからなー。じゃあご希望ご期待通りにしけ込みますかね?」
「ぎゃ!急にかっこよくなるのは台本にないんですけど…!」
やっぱり一人芝居系電波ちゃんだ。あの顔でぎゃ!って…八左はギャップ萌えとかも好きなんだろうか。とことんニッチなニーズに応えてるなぁ。いや、考える方が恥ずかしいけど素直な八左のことだから、志乃ちゃんだから好きなんだろうな。それでも他人から見たら八左はつまりこうだ。
結論:単にストライクゾーンがどえらく広い。
「志乃ちゃんはなんで八左が好きなの?」
彼女がいることを知られてから、普通に接してくれるようになった志乃ちゃんとは、割りと仲良くなれた。八左待ちの時は宿題片手に遊びに来たりもする。今日は報告の資料も兼ねて、打ち解けたら絶対に聞こうと思っていた質問を投下してみる。
「顔も性格も好みど真ん中なんです。」
「…」
整った志乃ちゃんの顔が僕を見てる。真剣に言ってるよ、ね?
「あんなにかっこよくて性格もいいんですよ!女の子はもちろん、男の子を惑わす位チョロいに決まってます。彼女としては気が安まりません!」
「それは彼女としての贔屓目、だよね?」
「贔屓目、ですか?」
小首を傾げて困った顔をする。大真面目に八左のこと心配してるんだ。
ある意味ガチなのは志乃ちゃんだ。
「僕は今、深い愛をこの目で確認したよ…!」
「えぇ!?確認出来ないくらい私の愛は深いですよ?」
志乃ちゃん並みに、とまでは言わないけど僕の彼女もこんなに想ってくれてるなら幸せなんだけどなぁ。うーん…ちょっとだけ八左が羨ましいや。[ 5/7 ][*prev] [next#]