「不破雷蔵と彼女について」報告:竹谷八左ヱ門



彼女の我が侭は大概可愛い。彼女の我が侭を可愛いと思えなくなったら、少しだけ考えなおした方がいいかもしれない。関係性ってやつを。まぁ知ったような口を利いたけど、実際の俺は二つ下の生意気な女の子に振り回されっぱなしだ。あぁ悪い、今日は俺の話じゃないんだったな。



折り返しって中弛みとか言われるけど、精々真面目に調査してみるかな!そうそう、俺の担当は仏の顔して平気で阿修羅みたいな行動をとる奴。怒らせると半端なくこぇーよ。



だけど、「悪魔みたいな」彼女の攻勢・無理難題の注文には、いつでも優しく受け身でいる。女の子に紳士なんじゃなくて、自分の彼女にだけ骨が溶けるくらいに甘い、雷蔵の話だ。



前置きしたように、雷蔵の彼女は悪魔よりも性格が破綻してる。俗に言う所の、母親の腹ん中に良心云々置いてきたって感じ。立花先輩でも顔がひきつることを平気で言うし、やる。そこで俺が提案するのはこれだ。



疑問:雷蔵はどこまで彼女を野放しにするつもりか。



「ちょっと竹谷、地面に這いつくばんの止めてよ。」
「毒虫逃げたから仕方ないんですってば。」
「伊賀崎のお尻が突き出てるのは景観保護条例敷くけど、あんたのは別。」
「だからしょうがないんですってば!」
「蹴られたいわけ?私そっちの気はないけど。立花呼ぼうか?」
「…ほっといて下さい。」
「掘っといて下さい?」
「あんた変態か!?」
「なによ、雷蔵に言い付けたげようか?」
「〜っスミマセンでした!」
「それとね、あんたの右斜め上、悠々と虫さんが横切ってる。」



結城先輩は、この学園の女王様だ。早く卒業して欲しいと思っている奴はゴロゴロいるに違いない。六年の先輩たちも敬遠して近寄らないし、くのたまでも嫌われると生きていけないとかよく聞く。同性に厳しいらしく、一度陰湿な嫌がらせをしていたくのたまを殴り飛ばしたそうだ。そして受けていた方の頬も張り倒していた。「する方は胸糞悪いから殴る。される方はくのたまのくせに負けっぱなしが見ててむかつくから叩く。」ある意味公正で天晴れだ。そんな結城先輩と仲良く出来る兵助の彼女は…よくわかんねぇな。



「雷蔵、ごはん食べたら部屋に来て。」
「志乃さん、今日は夜から実習なんだ。」
「今すぐ来て。」
「食堂来たばかりなんだけど…」
「来て。」



どんなに疲れていても、忙しくても、予定が詰まっていても、衣食住より結城先輩の言葉は雷蔵にとって絶対だ。強制よりも雷蔵を縛る。それがどうしてか、俺たちには皆目見当もつかない。雷蔵はいつでもニコニコしながら先輩に着いていく。呼ばれれば少しだけ抵抗しても飛んでいく。まるで使命か何かのように。



その日も、集合時間ギリギリに現れた雷蔵は、少しだけ疲れが見えていた。今日の実習内容は楽じゃない。くのたまも六年務めれば察していいはずだ。雷蔵が大切なら振り回すのも程度を知ればいいのに。



「雷蔵も断ればいいのに。」
「何を?」
「先輩の呼び出し!ほんとに彼女かよ、困らせないで送り出せばいいじゃんか。」
「ハチ?志乃さんのこと悪く言うと怒るよ?」
「…雷蔵がいいならなんも言わないけど。」
「みんなの普通が僕たちと違うだけで、十分幸せなのにな。」
「雷蔵っ…!あの女の魔の手から逃れたくなったら、いつでも言うんだぞ?」「あのね、人の話を聞いてるかな。」



雷蔵の肩をポンポン、と叩いて俺は泣きそうになる。結城先輩みたいに傍若無人で二言目には奇想天外な思い付きや、他人を嘲笑う嫌味、優しすぎる彼氏を困らせる我が侭しか言わない彼女なんて、雷蔵には似合わない。もっと柔らかい雰囲気の、おしとやかで他人に対する労りを持った相手を探すべきだ。



「それよりハチ、一緒に菫を探してくれない?」
「す、みれ…?雷蔵、真夜中だぜ。どうしたんだ、何かの実験か?」
「ううん。志乃さんが欲しいって言うから。」
「…あんの桁違いの我が侭おんっー!」
「いけず言うのはこの口かなぁ?」
「いいいひゃいひゃめろらいじょー!」
「あはははは。すごい顔してるよハチ!後で志乃さんに見してあげようか。」
「やめれ!」
「で?探してくれるの?」
「探させて頂きます。」
「実習そっちのけでよろしくね。」
「ちょっ、俺の単位ぃ!」



その夜、雷蔵監督下に置ける野郎供たちの菫の花探しが敢行された。…なんって勘違いメルヘン!ここは100エーカーの森か!俺の報告はメタ発言自重しない!ちなみに、兵助は彼女が普段世話になってるから自主参加、三郎は彼女に菫を贈るために自主参加、勘右衛門は雷蔵と視線を合わせないようにしたけど自主参加。俺は言うまでもなく強制参加ですから。



「雷蔵!菫の花は?」
「はい志乃さん。」
「ありがと!」
「満足した?」
「全然足りない!だから夜にも遊びに来てね。手ぶらじゃだめよ?」
「はーい。」



ぐっすり眠って晴れ晴れしい顔した結城先輩と、対照的に寝不足で目が腫れてる雷蔵。なんかこれおかしくないか?もっと言うべきことがあるんじゃないか?お礼だってさぁ!



「雷蔵ってよく付き合ってられるよなぁ。端から見てても信じられない。」
「志乃さん?可愛いじゃない。いつも一生懸命で。」
「誉めてんの?」
「僕と付き合ってる時点で花丸付きだね。」
「何言ってんだよ…振り回されてんのは雷蔵だろ?次から次にあれしろこれしろって。かぐや姫並の難問も出すし!」
「五分と五分の約定だからね。」
「約定?」



相変わらず今日の朝飯で悩んでいるのに、表情が輝いているのはなんだろう。



「他の男の名前を呼ばないで、馴れ馴れしくしないで、女の子らしく振る舞わないで、頼るのも甘えるのも泣くのも僕の前だけにして。」
「なにそれ。」
「その代わり、どんな我が侭でも僕は受け入れるから。それが付き合う最低条件。」



思い返せ俺。結城先輩の普段の姿を!もし今言ったことを、忠実に守り続けているとしたらそれって。



「ほんっとに可愛い彼女だよね〜。」
「俺、頭悪いからよくわかんね。」
「それ知ってるから!後志乃さんてさ、みんながいるときと二人きりのときと、態度が別人なんだよ?」
「想像つかねーよ。」
「ついたらぶん殴る。」



どのみち俺に残された生き残り手段は、どれも縄が腐ってそうだ。でもさ雷蔵、結城先輩って、付き合う前から悪魔だった気がする。女王様に進化させた雷蔵、お前を俺は学園代表として怒るべきなのか!?



「らいぞーう!!今からお団子食べに行こー!!」



放課後、雷蔵に衝撃告白をされてから結城先輩を改めて見てみた。あれ?あんなに女王様だと思ってたのになんだか今は可愛く…



「たぁけやぁ!私の雷蔵返せ!」
「ぐぇっ」



見えねぇよ!五臓六腑がいてぇよ!飛び蹴りはねぇよ!



結論:結城先輩は未来永劫自由気ままである。



束縛が激しい仏と、彼氏にだけ忠実な、生ける弾丸。そんな激しい関係は見ているだけで胃が痛い。



あぁあ彼女を誘ってのんびり野山でも散策したい…!俺、今なら不運値が保健委員に勝てる…!


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