舞台裏とおまけ


結城、七松の乱(学級委員長委員会命名)中の体育委員会下級生たち。とおまけ。



部屋に戻ろうとした志乃が長屋への廊下を歩いていると、ぱたぱたとかけてくる音がした。



「志乃先輩、志乃先輩!!」



呼ばれて振り返ってみると、どうやら委員会の後輩である皆本金吾だった。普段は一年生ながら男らしいというか、決して人前で甘えたりしないところのある金吾が、そのまま抱きついてきたため、さすがの志乃も驚いた。今日は一体何が起こったというのだろうか。



「金吾?抱きついてくるなんて珍しいね。どうしたの、なにかあったの?友達と喧嘩でもしたのかな?」



心配して頭を撫でながら話を聞こうとすると、どうやら悪いことが起こったわけではないらしい。



「僕、僕、先輩が大好きです!!先輩の後輩でよかったです!!」
「(なにこの可愛い生き物。)私も金吾が大好きだよ。(ギュー!!)」



何が何だか訳がわからなかったものの、とりあえず役得とばかりにこの可愛らしい後輩を抱きしめることに志乃は専念した。



***



騒動の間、二年生たちはたまたま校庭に居合わせたため、中心に目を向けずにはいられなかった。



「結城先輩、青い焔噴き出してるよ、しろ…」
「僕も怒ってる先輩見たの初めてだから…なんか不思議な感じ。先輩怒るんだ…それでも素敵だなぁ。」



そんなのんびりした感想を言ってていいんだろうか、と左近が色んな意味で心配して四郎兵衛を見ているうちに、小平太が現れた。



「お。七松先輩が諌めてる。いつもと逆だね。しろ、結城先輩こっちくるよ。」



久作が気を利かせて左近と三郎次とともに隠れていると、心配していたくの一の友人とともに志乃が疲れた顔をして現われた。



「四郎兵衛。」



まさかそこに後輩がいるとは思っていなかったのか、驚いた声をあげる。



「志乃先輩。」



四郎兵衛もバツが悪いのか、黙りこくってしまう。



(((見つめ合ってるよ。)))


「みっともないところを見られちゃったね。」



クスリと苦笑しながら志乃が言葉をきった。



「そんなこと全然!!むしろかっこよかったです!!」
「そんなこと言ってくれるのは四郎兵衛ぐらいだよ。」
「いいえ、先輩また男の株をあげましたよ!!くの一もキャーキャーいってましたから。」



確かにそれはまぎれもない事実であった。元々くの一票が高い志乃であるが、また株を上げたのは間違いない。



「うん。一応女なんだけどね…もしかして四郎兵衛もキャーキャーいってくれた?」



少しからかい混じりで笑いながら志乃が尋ねると、四郎兵衛は大まじめに頷いた。



「…心の中では…」
「(なにこの可愛い生き物。)四郎兵衛大好き!!」
「(ボッ!!!)」
「さっきと別人じゃないか!!」



突っ込まずにはいられないのが三郎次だった。



***



三年生たちは、左門と三之助の捜索にいつもの四人で当たったのち、教室の窓から一種興行を眺めるかのように楽しんでいた。何人かは本気で心配しながら。



「うっわ、超かっけーな結城先輩。あの構え方、食満先輩みたいだ。」
「そんなことより、怪我しちゃったらどうしよう。女の人なのに、あんなに綺麗なのに。」
「結城先輩に傷でもできたら立花先輩、発狂しそうだ…どうしよう。」
「三之助、結城先輩っていつもああだっけか?」
「まさか。いつもは七松先輩の暴走を止めてくれたり、俺らの愚痴を聞いてくれたり、自分のこと後回しの優しい人だよ。」
「優しい人は、怒ると怖い。本当にその通りみたいだな。」



志乃の戦闘態勢に感激する作兵衛と、保健委員らしくもやや主観混じりで心配する数馬、志乃を気に入っている委員長の立花仙蔵を想像してオロオロする藤内、普段とかわらずあっけらかんとしている左門(ひどい)、それに答える三之助と至って冷静な傍観者、孫兵だった。



「俺、七松先輩呼んでくる。止められるの先輩くらいだから。」



一応後輩らしく心配している三之助に、残りの五人は目を見張った後、優しそうにほほ笑んだ。瞬間、左門以外の手が伸びた。



「「「「待て、俺たちが連れていくから!!!!」」」」



三年生が自由なのは、今に始まったことではない。



***



少し前の6年生。



「あぁぁぁあ!!このままでは結城が怪我を、怪我をしてしまう!!焙烙火矢、焙烙火矢!!」



個人的に志乃を気に入っている作法委員長の立花仙蔵は今、発狂寸前の状態だった。彼女が入学した時から作法委員会への勧誘をしてきた彼としては、志乃が怪我をするかもしれないという状況は耐えられないらしい。



「落ち着いて仙蔵!!喧嘩の横やりはみっともないよ。彼女だって望んでないだろうし。」



仙蔵を止めるのは伊作である。焙烙火矢を振り回す仙蔵に殴られっぱなしで、すでに彼の方が怪我を負ってそうな状況になっていた。



「それにしてもあの大人しそうな結城がなぁ。男相手にあの怒りようはすげぇな。」



食満留三郎が作兵衛よろしく感心していると、隣にいた中在家長次が手を顎にやったままなにやらぶつぶつと呟いていた。



「…」
「なんだ長次。さっきから随分冷静に観察しているようだが。」



文次郎がそんな長次の様子に気づいた横で、今まで黙っていた小平太が教室を出ていった。



「私そろそろ止めてくるよ。」
「は、早く行け小平太!!」
「どちらかというと、危ないのは男の方だな。仙蔵、大丈夫だから落ち着け。」



文次郎の言葉に長次が深くうなずきながら、小平太を除く五人は再びこの事件の行方を見守りはじめた。



***



その頃の5年生たち。



「結城のこと、怒らしちゃった。逆に凄い、尊敬。」
「あいつの沸点なんて太陽並っぽいのに。すげーなあの馬鹿も。」
「同じ組なのが恥ずかしい…」
「逆に貴重なものが見られて外野としては面白いけど、あの竦みようはよっぽどだよな。蛇に睨まれた蛙。」
「うん…なんだか少し気の毒になってきちゃったよ。それにしても、本当に怒るときに青い焔って見えるものなんだね。」
「いやー、結城だからだと思うよ。あいつ、怒らせるとほんっとに怖いから。その分滅多に怒らないみたいだけど。」
「なんで三郎そんなに詳しいんだ?」
「いや、三年か四年の頃、あいつの友達こっぴどく泣かしたら問答無用で。」
「あー、ズタボロになって帰ってきたのに転んだとか言って誤魔化し続けたあれ!!」
「言うなよハチ!!」



五年生が収集終えないのは、これからもきっと変わらない。





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