委員長への提案
本日も放課後の裏々山では砂埃が巻き上がると共に、体育委員会の面々が鍛錬に励んでおりました。先頭を、と言いますかぶっちぎりで後ろを顧みない、委員長の七松小平太が遥か彼方に後ろ髪だけ姿を残しております。
「七松先輩!!次屋が消えましたぁ!!」
委員会中は“いいひと”代表の四年生、唯一の良心・平滝夜叉丸が残りの体力を振り絞って駆け寄りながら叫びます。なんと涙ぐましい日々の光景でしょうか。
「おぉーまたか!!探してくるからここで待っていなさい。」
またかとわかっているなら突っ走るな、しかしそんなことは言えない後輩の身分、滝夜叉丸は精神的にも困憊しながら残る後輩たちのフォローに回ることにしました。委員長が探しに行くというなら大丈夫なのでしょう。しかし、どこから現われたのか、体中に葉っぱや泥をこびりつかせた、消えたはずの三年生・次屋三之助がいるではありませんか。あら不思議。
「それには及びません、次屋を捕獲してまいりました。」
三之助の隣からすっと姿を見せたのは、委員会唯一のくの一、結城志乃です。今日も今日とて一人だけ山道ではなく舗装された街道を歩いて来たかのようないでたちです。毎度のことですが、最早つっこむ気力も後輩たちには残っておりませんでした。
「志乃先輩いつの間に…」
化け物でも見るかのように―実際委員長並みの化け物だと思っている―、一年の皆本金吾がぼそりと呟きました。唯一乱れている髪型も、計算されているかのような崩され方です。
「七松先輩、何度も申し上げていますが、一人でグングン進みすぎるのはいかがかと思います。三之助は…少々迷いがちですし。」
(((少々じゃないですよ!!!!!!遠慮しなくていいんですよ!!!!!!)))
「滝も先輩についていくのはギリギリですし、まして三之助のことも気にかけながら四郎兵衛や金吾を支えているんですから。もう少し考えてあげてください、先輩ならそれでも問題ないでしょう?」
怪物だし化け物だし、底知れない恐ろしさは漂わせているものの、言うことは正論で後輩には基本的に優しい志乃の発言に、四人は文字通り瞳を期待に輝かせました。なんといっても、委員長の最後の防波堤はこの先輩なのです。
「そうだなぁ、志乃の言う通りだよ…私はついつい行け行けー!!って突っ走ってしまうからなぁ。うーんでもまぁ、こうやっていつも志乃が場を収めてくれるしなんとか成り立ってるし、次屋も今日はいるし大丈夫なんじゃないか?ってことで学園まで戻るぞー!!!」
「「「「「えー!!!!!」」」」」
満面の笑顔で走りだした小平太は、やはり暴君以外の何者でもなかったようです。もう、後ろ髪すら見えません。
「ちょ、先輩!!七松先輩!!」
「あー、せっかく志乃先輩が積もり積もった僕らの陳情を言ってくれたのに。」
「ごめんね、みんな…諦めて先輩の姿を見失う前に追いかけましょうか。滝、下級生よろしく。三之助、今日は遅いから私と手首を結んで帰ろう。」
「わかりました。四郎兵衛、金吾とりあえず七松先輩の姿を見失わない程度について行くぞ。」
「はーい。」
「が、がんばります。」
「窮屈だけど我慢してね、三之助。」
「うぃっす。」
本日も体育委員会は暴君の委員長に立ち向かう、後輩たちの絆が一段と強くなったのでした。
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