◇A.好きに理由もありません。(森山)

Q.どうして森山由孝と付き合っているのか。要領よく簡潔に答えよ。



綺麗だとそれっぽく囁かれることも、可愛いねと真っ赤な顔で告げられることも飽きていた。だってこればかりはどうしようもない。両親の遺伝子の賜物としか言いようがないのだから。私はまだマシな方で、3つ上の兄は男だからこそ余計にその顔立ちが悪目立ちしていた。もし兄が今以上に華奢だったら、彼の貞操は色んな意味で危なかったと思う。よかったね。たまにリポDのCMを見て物憂げな顔をしているけど、間違いなくアレはないものねだり。



「こないだ川原先輩のお兄さんと撮影一緒でしたよ、ほんと相変わらず清々しいくらいキレーっすね。」
「また?新しいボード欲しいって言ってたからかな。」
「ヘルプじゃなくてちゃんと事務所入ればいいのにって現場でモーション掛けられまくってましたよ。」
「うーん…顔はイイけど気難しくて扱い大変だよ。」
「なんだー、それ先輩と同じじゃないっすか。」
「黄瀬…?」



放課後、体育館裏、日中の呼び出しと今日もありがちな三拍子を踏んだ私はうんざりしてた。



「ちょっとイラッとしたけど、ありがとう。」
「いーっすよ!こういうの割と得意なんで。」



無視するつもりでいた。だって告白される側にだって権利はあるでしょう?どうして一々呼ばれたからといって付き合わなければいけないのか解らない。それなのに、昼休みにわざとらしく教室内で呼び出すから。お節介な小姑みたいなヤツらがピーピーギャーギャー
ピーピーギャーギャー…



「腹立ってきた…なんで告白劇に付き合わないとイヤな女とか言われなきゃいけないの。」
「あー確かにそれありますねー、牽制掛けても頑張る子は砕けても構わないって正面からくるしなぁ。」
「誰も好き好んでもててるわけじゃないんだけどな。」



先輩それ言っちゃダメなやつ、と苦笑い気味で返してくる後輩も悲しいかな、同じような悩みをずっと抱えてる。



「百歩譲って、告白するなら早くしてって思う。早く振るから。」
「うわーキッツイことあっさり言いますね!そう言うとこ好きですけど!」
「こっちだって色々色々あるじゃん。それなのに、可愛いねとかうんたらかんたら引き伸ばしてさ…」
「そういう男いますねー、綺麗だねとか可愛いねとか言って反応があったら言う、なかったら言わないっていうクソみたいなやつ。俺、そう言うの大っ嫌いなんですよね!」
「そうなのそうなんだよ黄瀬!分かり合えるヤツがいたー!」



今日も今日とて所謂、告白に向き合っていたらいつになっても最終通告を突き付けてこない。早く断らせて貰えないか、と困りはじめていたら天の声が降ってきた。『川原先輩、どしたんすかー?』ジャージ姿だろうと、どこからどう見てもイケメンな男の登場に相手はあからさまに戸惑い始めて告白は綺麗に流れてくれた。良くやった。



「…と言うか、私にはきちんとお付き合いしている相手がいるの、それなのに失礼だよ。」
「たしかにー、先輩の場合はそれがネックになっていいはずなんですけどね。」



相手のいる女にどうして寄ってくるのか意味がわからない。あれか、気持ちだけ知って貰いたいってやつ?それなら逆にまだ許容範囲なんだけど、今の彼氏と別れて俺とどう?みたいなことを言われると呆気にとられる。どうって、どういうこと?



「彼氏が森山先輩だからっすかね…」
「何か問題ある?」
「ないっス!!少なくとも俺は森山先輩のこと良く知ってるから何の問題もないってわかるけど…森山先輩、女の子大好きだからなぁ。」
「やっぱそれか。」
「あ、でも!女の子が大好きなのは習性ってヤツで、先輩はもーわかりやすく別格っすよ!?でも周りはそれ知らないから。」



後輩の言うことがわからないわけじゃない。
私の彼氏は否定出来ない女の子大好き人間なんだから。でも、惚れた弱みと笑われようが、私は彼の突き抜けた女の子大好きっぷりが可愛くて仕方ない。だって、あの斜めに突っ走ってる感じなんて可笑しくてしょうがない。



「庇うわけじゃないっすけど、森山先輩は女好きじゃなくて女性には優しくあるべき!ってやつですから。」
「高校生の時点で女性に優しく出来る男なんて凄いことだと思うんだけど。」
「そこは俺も納得ですけど、それにしてもほんっとに川原先輩って森山先輩に弱いですよね。」
「そう?」
「あの、一度聞きたかったんですけど、なんで森山先輩なんすか?」
「なんでって、」
「だってそれまでも色んな男から迫られてたわけでしょ?」
「色んなって、それ誇張しすぎ。」
「でも、捕まえたのは森山先輩でしょ?」
「いやいや逆かもしれないじゃない。」
「それこそないっす!で、何が決定打なんですか?」



決定打って言われてもそんなのないんだけど、強いて言うなら。



「“君は俺の運命の人だ!!”って言ってくれたからかな。」



あの人は私のことを可愛いって言ってくれた。別の人は綺麗だって言ってくれた。だけど彼は、私を運命の相手だと言ってくれた。



「運命だよ?う・ん・め・い。凄いよね、彼にしか言われたことない。」
「まさか、あの森山先輩の必殺技にならない必殺技で…!!」
「誰にどんな技が効果的かなんてわからないじゃない。」
「おぉー。ちょっと次のインタビューで使っていいっすか?」
「じゃあ今日助けて貰ったお礼ってことで。」
「はいっす!」
「助けて貰ったお礼って…泉は何かピンチに陥ることに合ったのか!?」
「うぉっと森山せんぱーいナイスタイミングー!」
「で?ででで?泉?どったの?」
「何もないよ。」
「そんなわけあるか!!」
「何もないよね、黄瀬?」
「そっすね、何もないっす。」
「え…?由孝、仲間外れ…?」
「ところで先輩どうしたんすか?」
「お前が休憩から戻らないから見に来たんだろうが。まぁおかげで練習中に泉に会えてラッキーだったけどな。」
「うわーすみません!直ぐ戻ります。戻りますけど、ちょっとトイレ寄ってから戻るんでまだ少し時間ありますよ。」
「黄瀬は気がきくのかきかないのか…」
「じゃ!川原先輩とよろしくどうぞー。」



バタバタとうるさく走り去る音が聞こえて、思わず二人で笑ってしまう。ほんとにあの子は、身長も態度も大きすぎる弟みたい。



「あいつの日本語は崩壊してるよな。」
「先輩がきちんと指導してないからじゃない?」
「あいつの態度は確かに直すべきことも多いけど、助けられることもあるんだ。」
「それは私もわかる。バスケ部の愛されキャラかな?」
「そうそうそれで、本当は何があった?」
「流してくれないね。」
「心配するだろ。泉は俺の大事な彼女で、運命の相手だ。」



彼の、臆面もなく何かのセリフをサラッと言ってしまうこういうところが凄く好きだ。上辺だけじゃないし、探っているわけでもない。見た目だけ褒めてくれるんじゃない、きちんと話をしようと私のことを知ろうとしてくれた姿が新鮮だった。それが、出会った時から今までずっと続いてくれていることがただ嬉しい。



「汗臭いからダメ。」「何女の子みたいなこと言ってんの?」
「だってぇ、部活中だからデオドラントスプレー出来なかったんだもん。」
「ばか。」
「男臭いけどいーい?」
「ばーか。」



笑っちゃうくらい可笑しくて、一緒にいると苦笑いも含めていつも目尻が下がってしまう。かっこいいはずなのに全然かっこよくいてくれない彼のおかげでツンケンしがちな私でも少しだけ女の子らしくなれる。ありがとね、私の森山由孝くん。



***



「川原って森山といて疲れないのか?」
「笠松くんだって私といて疲れないの?一応女だよ。」
「お前言動も男っぽいしなぁ、ギリセーフ。逆に女好きな森山が川原と、って言うのもナゾ。」
「逆だよ逆。泉は俺の前だと超可愛いの。」
「…盲目だよな。」
「そう?私も森山くんの前でくらい、女の子らしくするけど。」
「泉ちゃああん!!その発言からして可愛いぞおお!!」
「うぉ…存外あっついぞココ。熱い熱いあーやんなる。」





*クールな女の子が彼の前でだけ可愛くなるって良くないですか?


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