あかんやつ | ナノ

 テニス荒井

「止まないね、雨」
『そうだなあ』
言い切らずに隣にいるその人はため息を吐いた。何でいるんだっけ、ああ、今日部活休みとか、だっけ。うーん、まあそんなことはどうでも良いとして、すっごく、すっごく、すっっっごく…ドキドキする。だって好きな人が隣に居るんだもん!そりゃあ誰でもドキドキするよ!


「荒井はさあ、帰んないの?」
傘はあるらしい。でも何故か此処にいる。

『家に居たって暇なんだよ』
「そっかそっか」
お前は?と聞かれたから持ってないと答えた。貸そうかなんて言って貰えたけど断った。もうちょっとだけ荒井との時間楽しみたいし。あ、でも荒井が帰っちゃったらどうしよう…お願い荒井、帰らないで!お願い!


そう考えてたら荒井はふーん、て返事して軽く伸びをして座り直した。まだ帰らないんだ、良かった。
2人で並んで雨を見てたけど、話題なんてひとつもない。気まずい、帰りたい…でも帰りたくない。だって2人きりなんだもん!こんなチャンス滅多にない!

窓を開けて雨を触ろうとした。無理だった。開けた瞬間、強い風と一緒に雨が入ってきたから無言で閉めた。すっごく冷たい。あんな一瞬で顔がこんなに濡れるなんて…
『雨強いんだなあ』
荒井は笑いながら言った。取り敢えず笑うな!とだけ返した。バックの中にある筈のタオルを探していると荒井が悪い、とタオルを差し出してくれた。小さく感謝を言ってタオルを受け取った。荒井の、タオル…わ、超ドキドキする!洗って返す、って言おうとしたら荒井はお前にやるよ、とこちらには顏を一切向けずに言った。どうしよう、嬉しすぎて今すぐにでも跳び跳ねたい気分。そっとタオルに顔を埋めた。なんかこの動き、変態みたい。顔を拭こうとして一時停止。あ、れ、なんかタオル…荒井の匂いがする、気がする。そりゃあそうだよね、荒井のタオルだもんね、うわあどうしよう!もっとどきどきする。

『…どうした?』
「や、なんでもない。…ありがと」
何だよ、荒井気付いてないじゃんか、っていうか意識してない?なんか恥ずかしい。ああ、もう、気付けよばか!こんなにドキドキしてるんだよ?


『あ!』
「わ、何、びっくりした!」
一瞬止まったかと思えば荒井は慌てた様子で私の方を見た。

『そっか、お前のタオルじゃないもんな、く、臭くないよな』
や、でも汗はかいてねえし…なんてぶつぶつ言いながらあたふたしてる。可愛いな、荒井。

「大丈夫だよ、荒井の匂いしかしない、臭くないよ」
なんて笑顔で言ったけどあれ、私変な事言ってない?

『な、なんだよ俺の匂いって…なんか恥ずかしいじゃねえか』
「顔真っ赤ー!」
『う、うるせえ!』
なんだよ、荒井はそう言いながら目を逸らした。今きっと荒井はドキドキしてるんだろうな、ちょっとだけ嬉しい。今荒井と同じ気持ちを味わってるんだ、ちょっとだけなんて嘘だな、すっごく幸せ。クスクス笑ってると荒井に笑うな!なんて返された。

「ごめんごめん、タオルありがと。助かった」
『おう…』
「ふふ、荒井ってばまだ真っ赤」
『うっせ、』
「なんだよー、他の子に貸した時とか言われないの?」
とか自分で言った癖に嫌な気持ちになる。荒井が他の子にタオル貸すとか考えたくない!そんな子いたらどうしよう、私その子絶対嫌いになる!

私がごちゃごちゃ考えてると荒井はまた目を逸らした。
『や、俺がタオル貸すのお前ぐらいだし…』
やばい、心臓取れちゃうよ!

「何それ、荒井のばか…」
『ばかってなんだよ!』





(馬鹿は馬鹿なの!…超照れる)
(だってホントのことだし)
(…期待して、良いの?)
(な、何だよ!…良いんじゃね?)


prev / next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -