Tennis | ナノ

「荒井ちゃーんっ」


練習終わりで着替えも終わっていた荒井ちゃんを後ろから呼んだ。おう井上、と荒井ちゃんは笑顔で振り返って返事をした。きゅん。桃城くんや池田くん林くんがにやにやしながら先帰るなーと進んで行ってしまった。数分で済ませるつもりなのに…引き止めようとしたけど荒井ちゃんが返事をしてしまったのでもう出来ない。あ、何か申し訳ない…

『井上、?行こうぜ?』

私を覗き込んだ。きゅん、!荒井ちゃん!きゅんときたよ!どきどきさせないで!ばかーっ!

表情に出てたのか、私の顔が赤くなっていたのか、荒井ちゃんは目を大きく開いて数回瞬きをして停止する。そして、荒井ちゃんの顔が、段々、赤く…なって、荒井ちゃんは口元を抑えてそっぽを向いてしまった。残念、照れてる荒井ちゃんもっと見たかったなあ。


『ほら、早く』

ぐい、と荒井ちゃんが私の手を握って引っ張る。ふと周りを見渡せば誰も居なくて。まぁ、荒井ちゃんがこんなことするのは人が全部居ないときくらいだもんね。もう慣れっこだもん。私も学校の人が居るところで堂々とは手繋げないし。


『そういえば、』

門を出た辺りで荒井ちゃんがぽつりと言った。

「なあに?」
『部活の日に帰るの初めてだよな』
「…そう言えばそうだね」

流石に待ちきれないもん、と言うとそりゃあな、と笑って返された。

「今日は特別なんです、」
『ふうん』
「うん」
『え、理由言ってくんねえの?』
「…言った方が良い?」
『まあ』

何か、気まずい。って言うか。なんて言うか。こんなこと、言うべきじゃ、ないんだけど、ね。


「…荒井ちゃん、もうすぐ誕生日じゃん」
『あ、覚えてたのか』
「勿論!……それで、さ」
『おう』
「プレゼント、何が良いかなあ、って」

荒井ちゃんはああ、とだけ呟いてそのまま黙った。私も何を話せば良いか分からないので黙る。暫く沈黙が続いた。ああ、もうすぐ、家、着いちゃう、な。


『…俺は、』

荒井ちゃんが呟いた。私は荒井ちゃんを見上げた。少しだけ、荒井ちゃんの顔が赤い。



『お前からだったら、何でも嬉しい』




(ほら家、)
(あ…ありがとね、送ってくれて)
(まあ、一緒に居たかったし)
(…え、)
(何でもねえよ!じゃあな!)